悪友が催眠術を手に入れたのでえっちなことに使おうと思います、対戦よろしくお願いします
ことの経緯はこうだ。
我が悪友、ナユタが催眠術を手に入れたので、おれのえっちな妄想を現実のものとするべく、ナユタにハーゲンダッツのファミリーパックを奢り、学校で一番の美少女オザワさん(Fカップ)に催眠術をかけてもらうことに成功した。
放課後、夕暮れの赤い光が差し込む空き教室で、ぼんやりした表情でたたずむオザワさん(黒髪清純派)を見ながら、おれは舌なめずりをした。いや実際にはしてないが。表現的にそういう気分ではあった。というか、こういうタイミングで舌なめずりをするやつ、本当にいるのだろうか。日常生活で舌なめずりをするやつを見たことがあるか? 少なくともおれはない。よしんば、とてつもなく美味そうな料理を目の前にして、じゅるりとよだれがおっとっと、みたいな勢いで舌なめずりをすることが、十歩譲ってあったとして、それが料理ではなく美少女である場合、じゅるりとよだれが垂れるやつはどういう性癖なんだろう。カニバリズムか? そもそも『なめずり』ってどういう意味と語源なんだ。舐めて啜るからなめずりなんだろう、と漠然と思ってはいたけれど、どこかの地方のまるで関係ない言葉が語源ということもあり得るのが日本語だ。イクラとかロシア語だしな。ともあれ、
「ナユタ……おれ、過去最高に感動してるよ……」
感謝の意を伝えると、ナユタは鷹揚に「うむ」とうなずいた。
「で、さっそくだけど、オザワさんにえっちな……それはもう想像を絶するえっちな催眠をかけてくれ!」
「心得た」
ナユタはオザワさんの耳元でなにかを呟いた。
ぼんやりとしていたオザワさんの表情が徐々に引き締まり、彼女はしっかりとした目でおれを見据え、言った。
「オウ! イエス! シーハー! シーハー!」
「ナユタ、一回戻してもらっていい?」
「うむ」
ナユタはオザワさんの耳元でなにかを呟いた。
オザワさんの表情がぼんやりとしたものに戻り、外国の人は消え去った。
「……あのさ」
「うむ」
「参考文献がズレてんだよ。もうちょっと和寄りでお願いできませんか。ねえ」
「心得た」
ナユタはオザワさんの耳元でなにかを呟いた。
ぼんやりとしていたオザワさんの表情が徐々に引き締まり、彼女はしっかりとした目でおれを見据え、ブレザーの内ポケットからほら貝を取り出して吹き響かせた。
「ぶぉー」
「ナユタ、一回戻してもらっていい?」
「うむ」
ナユタはオザワさんの耳元でなにかを呟いた。
オザワさんの表情がぼんやりとしたものに戻り、最近動画配信サイトで見た人は消え去った。
「……あのさ」
「うむ」
「和なんだけどさ。たしかに和といえば和なんだけどさ、そういう意味じゃなくてさ。ね? あとなんでオザワさん当たり前のようにほら貝持ってるの。取り出して、って描写はシンプルだけどなんでブレザーの内ポケットからそのデケェ貝が出てくるの。四次元ポケットになってるとかなの。ネコ型修験道ロボットかなにかなの。とりあえず年代をもう少し近年に寄せてもらえませんか。ねぇ」
「心得た」
ナユタはオザワさんの耳元で以下略。
ぼんやりとしていたオザワさんの表情が徐々に引き締まり、彼女はしっかりとした目でおれを見据え、ブレザーの内ポケットからドアノブを取り出し、舐め始めた。
「れろ……」
「ナユタ、一回戻してもらっていい?」
「うむ」
ナユタはオザワさんの以下略。
オザワさんの表情がぼんやりとしたものに戻り、唾液でテカるドアノブが内ポケットに消えた。
「……あのさ」
「うむ」
「偏りがすごいんだよさっきから。ナユタの知識は一体どうなってるの。もうちょっと普通のないの。あとオザワさんはなんでドアノブだけを持ち歩いているの。必要になるシーンいつよ。アッ、このドア、ノブの部分だけがない! そんなときはコレ! ドアノブ! くらいの勢いで取り出すのか? うわー便利! これからは一人一個ドアノブの時代ですね! やかましいわ。いやそういう問題じゃないが。とりあえずもうちょっと普通のでお願いしますよ。ねぇ」
「心得た」
「本当に心得た? ねえ。ちゃんと普通の男の子が好きなやつでお願いしますよ」
ナユタはオザワさんのほうを見た。
すでにオザワさんは両手に金粉を持ってスタンバイしていた。ぼんやりとした表情でオザワさんは両手の金粉を見たあと、名残惜しそうに内ポケットにしまった。
見なかったことにした。
ナユタはオザワ以下略。
ぼんやりとしていたオザワさんの表情が徐々に引き締まり、彼女はしっかりとした目でおれを見据え、ブレザーの内ポケットからデラックスに変形合体するハイパーな合金のロボットを取り出し、ガチャガチャといじり始めた。
「ンふ……男の子ってこういうのが好きなんでしょ……?」
「うわー! スッゲ! それめちゃくちゃカッコい……ナユタ、一回戻してもらっていい?」
「うむ」
ナユタはオザワさんにちょいちょいと指で合図をした。
オザワさんはなんかもう普通にうなずいて激カッケェロボットを内ポケットにしまった。
「……あのさ」
「うむ」
「うむじゃねえんだよな。もうさ、うむじゃねえんだわ。たしかに好きだよ。うん。男の子はそういうの好きだよ。断言するよ。スーツ着た立派な大人もロボットを手渡されたら小一時間は夢中になるしあわよくば持って帰ろうとするよ。商品名調べて通販で買うかもしれないよ。でもね、そういう好きなやつじゃなくて、もっと過激な方向の好きなやつなワケ。わかる? 頼むよ、ほんとに。お願いしますマジで。ねぇ」
「心得た」
「もう今から確信しているんだけど、たぶん心得てねえんだろうな……」
ナユタは以下略。
ぼんやりとしていたオザワさんの表情が徐々に引き締まり、彼女はしっかりとした目でおれを見据え、ブレザーの内ポケットからチョコ菓子を取り出した。
「やっぱりキノコよりタケノコよね! 害悪キノコ信者は滅ぼさなきゃ!」
「おれはキノコ派だ! やんのかおら! ――やりません許して! 助けて! ナユタ、一回戻してもらっていい?」
「うむ」
ナ以下略。
おれ(キノコ穏健派)を滅殺すべく、内ポケットからちきゅうをはかいできそうなばくだんを取り出そうとしていたオザワさん(タケノコ過激派)の表情がぼんやりとしたものに戻り、対立を煽る悪い存在は消え去った。
「……あのさ」
「うむ」
「おれ、今日は疲れたし帰るわ」
「心得た」
家帰って金粉についてじっくりと調べてみた。世界の広さを感じた。そのあと寝た。よく眠れた。
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ナユナユ:小沢先輩、今日はありがとうございました
小沢:どういたしまして
小沢:こっちも楽しかったしいいよ
小沢:あのさ
小沢:アレのどこがいいわけ
小沢:?
ナユナユ:え
小沢:ナユちゃんなら、もっといいオトコ選び放題でしょ
小沢:なんでよりによって、アレ
小沢:?
ナユナユ:ええと
ナユナユ:……なんででしょうね……?
小沢:笑
ナユナユ:まあでも、ほら、愛ってそういうものじゃないですか
小沢:うむ
ナユナユ:やめてください
ナユナユ:恥ずかしい
小沢:恥ずかしいならやるなよ……
ナユナユ:うむ
小沢:やるんかい
ナユナユ:でも今日、先輩の手品すごかったですけど、あれってどうやってるんですか?
小沢:手品?
小沢:ああ、あれね、ポケット
小沢:あれはねー
小沢:手品じゃなくて本物だよ
ナユナユ:またまた笑
ナユナユ:……
ナユナユ:先輩?
ナユナユ:先輩?
ナユナユ:え?
ナユナユ:え???
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