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銀河戦國史  (褐色矮星の暗くてらす旅立ち)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第7話  エルダンドの不安

 他の仕事においても、大人たちのやっている仕事ができるようになるだけでなく、エルダンドは、誰もできなかったことができたり、誰も気づかなかったことに気づいたりするようになっていた。

 エルダンドにすれば、なぜ大人たちは、誰かに教わった通りのことしかやらないのだろう、と思えていた。

 仕事に必要だ、といわれたもの以外の測定データーにも目をとおしてみるとか、仕事にはつかわない機器の動かしかたを、色々とためしてみるとか、彼にはあたりまえのことだった。

 そういったことを彼は日常的にやっていたのだが、まわりの大人たちは、必要であり熟知している操作以外は、ちっともやらないらしかった。

 それに、自分が仕事をおぼえるときに、こまかい断片に分けて1つ1つに専念した経験から、自分が仕事の中でどういうアクションを起こしているかというのを、エルダンドは言葉にしてくわしく説明することができた。そのことは、機器のこまかい異常や、測定データーのわずかな変化に、だれよりもするどく気がつくことにつながった。

 エルダンドにすれば、大人たちは、仕事を自分で実施することはできても、その内容をこまかく正確には理解できていないように感じられてきていた。

 自分が何をやっているのかもよく分からないうちに、かってに体がうごいている。そんな感じで仕事をこなしているのじゃないか、と思った。

 それは、誰かに仕事を教えるさいになると、はっきりした。

 エルダンドも、自分よりとしのわかい者に仕事を教えてやる場面がでてきたのだが、かれは、自分が分けたこまかい断片の1つ1つについて、ていねいに言葉にして説明するようにしていた。

 が、その点、まわりの大人たちは、「よく見て、おぼえろ」とひとこと言ったがさいご、あとはなんの説明もせず、ただひたすら目の前で仕事をくり返して見せるだけだった。

 いくつもの動作が複雑につらなったひとくみの作業を、いつも通りのはやさでササッとやって見せるだけでは、経験のない者の目には、何をやっているのかさっぱり分からないものだ。

 なのに大人たちは、見ても分からないものを何度も見せて、それで覚えろ、と言っているのだ。「仕事は教わるものじゃなく、ぬすむものだ」とか「頭で理解するのじゃなく、体で会得するものなんだ」なんていう理屈までをもくりだして、教えるという責任から体よくのがれたりもするのだ。

 それで、失敗すればどなるし、自覚がないだの、才能がないだの、お前には向いていないだのと言って、失敗した初心者をなじっている。

 自分が覚えるときもそうだった、大人たちのそんな姿勢に、エルダンドはだんだん反感を覚えるようになっていった。

 大人たちはそもそも、自分が何をやっているのかよく分かっていない。仕事を自分で実施することはできるが、“できる”というのと“分かっている”といのは別物で、“できる”けど“分かっていない”という状態があるのだと、そして大人たちはそういう状態なのだと、エルダンドには理解されてきた。

 分かっていないから、説明できず、ただやって見せて、あとは、失敗してしまった者にたいして、どなりちらし、けなしまくる。説明をもとめても、教わるんじゃなくぬすめ、と言ってとり合わない。

 こんな効率のわるい仕事のレクチャーはない、と彼には思えた。

 エルダンドのやっている、こまかく分けた仕事の断片の1つ1つについて、言葉にしてていねいに説明するという方法だと、新入りが仕事をおぼえるのは劇的にはやくなった。

 失敗をくりかえして自信をなくす者も、ほとんどでてこない。失敗してもどなったりなどする必要もない。どうして失敗したのかを正確に見きわめて、分かりやすく説明してあげられるから。

 感情的になったり相手をけなしたりなんて無礼で野蛮な行為は、いっさい必要ない。エルダンドは、新入りを落ちこませることもなかった。

 格納パックのキャッチをはじめてから何年かたったころには、エルダンドは、まわりの大人たちの思いのほかの無能さに、だんだん、あきれはじめていた。仕事をはじめるまえは、大人たちはみんな、すごい人たちなのだと思っていたのに。

 みんな、教わったことしかやらず、自分が何をやっているのかをきちんと理解できていない。そのくせ、自分ができることをできない者には、どなるし、けなす。いったい、なんなのだ、この連中は。そんな思いがつのっていった。

「資源採取用の人工衛星って、どうやって必要な元素をあつめているんだ?」

「なにを言いだすんだ?エルダンド。そんなこと知らなくっても、格納パックはキャッチできるだろう。」

 こんな会話も増えてきた。大人たちは、びっくりするくらいに何も知らなかった。

「人工衛星が調子よく動ているうちはそれでもいいけど、もし故障とかしたら、元素をあつめる仕組みを分かっていないと、何もできないじゃないか。」

「そのときは、管理官であるダクストン一族のやつらが、なんとかするんだろうよ。」

 エルダンドには、首をかしげたくなる言い草だった。

「でも・・やっぱり、自分たちで仕組みを理解しないと・・・。税としておさめている元素とか製造品とかの純度や品質が、もとめられている基準をクリアーできているか確かめる方法もわからないじゃないか。クリアーできてなかった場合にも、なにも対処できないし。」

 そんな質問をぶつけたこともあったが、

「心配するな、ダクストン一族は、そういうところは、おおめにみてくれるんだ。」

という、いいかげんな返答しかかえってこなかった。

 普段は、きびしい税を課してくるからと悪口を言ってばかりの相手にたいしての、この甘ったれた依存体質は、なんなんだ。エルダンドは、ため息をつきたい気分にさせられた。

 大人たちに色々な質問をぶつけてみて分かったのは、皆、自分が担当している仕事を、前の担当者から見よう見まねで覚えて、表面的には同じことができているようだ、というだけで満足している。

 本当にちゃんとできているのかは、定かではない。それに、自分の担当から少しでも離れたことは、ちっとも分かっていないし、興味すらも持ってはいない。そんなのが、現実だった。

 皇帝一族から下賜された設備や機器をつかい、皇帝一族に教わった、日々のくらしには欠くことのできない最低限の操作だけをやって、それ以外のことには関心をむけることもないのだ。

 そして、すべての大人が理解していることがらを残らず合わせても、集落をすえながく安定的に維持していくのに必要と思われることの全体を、カバーし切れていないというのも分かってきた。

 集落は、エルダンドが考えもしなかったほど、ぎりぎりのところで、かろうじて存続できているらしい。

 機器や設備の故障や、まわりにある天体の予想外の現象などがおこると、自分たちだけでは、何も解決できない状態だった。

 そして、何かあれば管理官たちがなんとかするはずだ、と決めつけているが、実際に管理官たちが何を知っていて、何ができるのか、などは誰も分かっていない。

 想像すらしていなかったほど、無責任であり依存的であるという体質が、集落には根づいてしまっているのだった。

 全体を把握したり、統轄したりできる者もいない。誰にもできないこと、誰も分かっていないことが、集落のくらしのいたるところに転がっている。

 エルダンドは、背筋が寒くなった。

 こんな状態で、大人たちは恐ろしくないのだろうか。毎日が薄氷をふむようなくらしなのに、不安にはならないのだろうか。

「まあ、こんな感じで、何十年もやってこれているからな。」

 異口同音に、大人たちはそんなことをいった。

 今までなんとかなったからと、何の根拠もなく、安心しきっている。慣れというものの恐ろしさだろう。薄っぺらな氷の上でおくるような生活でも、そのことに慣れてしまえば、不安にすら感じなくなるのが人間なのだ。

 つぎの瞬間に、氷をつきやぶって地獄におちるかも知れないとしても。

(仕事が分かってくれば、くるほど、不安がひろがっていったよな、あのころは。皆があまりにも無責任で無関心で、何かあっても、誰かがなんとかしてくれるもんだと根拠もなく信じこんでいて。)

 旅だちのシャトルから、岩石衛星にともる“皇帝陛下の地上採取施設”のあかりを目にとめつつ、エルダンドは想いにふけっていた。

 衛星そのものは見えないから、施設のはなつ光の点だけが、目にとまるすべてだ。

(そして、その不安が、現実のものになるときがきたんだ。あのときには、もうこの集落は、滅びてしまうんじゃないかとすら思ったもんだ。)

「よかった。上手くキャッチしたじゃないかエルダンド。すこし肝を冷やしたけどな。」

「ああ、キャッチできたのはいいけど、何でこんなにも、コースがずれてしまったんだ。」

「まあ、キャッチできたからいいじゃないか。さあ、仕事はおわりだ!帰ろう。帰ってうまいメシをたらふく食べよう」

「い・・いや、コースがずれた理由を・・・」

 岩石衛星から格納パックが打ちだされてくるときには、“皇帝陛下の地上採取施設”からパックの飛行コースにかんするデーターが送られてくる。それは、かならずそのコース通りに飛んでくるわけでもなく、衛星上の大気のようすなどで、たいていすこしはコースにずれが生じるものなのだ。

 だが、このときは、あまりにもずれが大きかった。何とかキャッチできたからよかったが、こんなにもコースがずれた理由が、エルダンドには気になって仕方がなかった。

 次回、第8話 エルダンドの探索 です。 2019/12/21 に投稿します。

 以前に勤めていた会社への不満を、関係のないところでぶちまけてしまったような話でした。こんな思いを自分のいた会社に対していだいている人は、作者以外にもいるものなのでしょうか?共感して頂ける読者様は、おられるでしょうか?こんなことを思う生意気な奴は、自分だけだったりして、なんて危惧も抱いている次第です。


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