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銀河戦國史  (褐色矮星の暗くてらす旅立ち)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第6話  エルダンドの熟達

 ケミカルプロセスフードにしろ、バイオプロセスフードにしろ、ほとんどは炭素を基本骨格として合成されるものだったので、炭素を供給するラインを損傷することは、ただちに食料供給がとまってしまう事態となる。

 備蓄がないわけではないが、領主に税としてそれらをおさめなければならない事情も考えると、設備の損傷はぜったいに許されない。

 極限のプレッシャーを感じても不思議ではない作業ではあったが、エルダンドは、サクサクと評していい手ぎわで進めていったのだった。

(こんな簡単なこと、いくらできたって、クリシュナには追いつけない。)

 エルダンドは、次の仕事場にまわしてもらえるよう、大人たちにかけ合ったのだった。

 資源採取は、人工衛星だけではなく、人工彗星によってもおこなわれていた。

 大きな楕円を描いて、星系のいちばん外側から、中心星すれすれのところまでをめぐるコースを飛ぶ人工の天体が、人工彗星と呼ばれるものだ。

 ガス惑星のなかと比べれば、はるかに希薄とはいえ、星系ガス雲のなかにも、貴重で希少な元素がいくつもあり、そこからの資源採取はかかせなかった。

 ガス惑星のなかにも、どこかにはあるはずだが、見つからない元素だ。だから、星系ガス雲から採取してくるしかない。そんな元素が、いくつもあったのだ。

「よし、格納パック、キャッチ完了!」

「な・・なんだよ、エルダンド!あっさりやってのけやがったな。」

「うん。だって・・・」

 濃密なガスの激流のなかを飛んでくる、人工衛星が打ちだすものとちがい、人工彗星からのそれは飛行コースが安定していた。人工衛星からのパックをキャッチできるようになっているエルダンドには、簡単すぎる仕事だった。

 おどろきで目を白黒させる大人たちを尻目に、淡々とこなしていったのだった。

(あのあとは、何をやっても簡単に思えたよな。今から思えば、人工衛星からの格納パックのキャッチが、いちばん難しい仕事だったんだ。それも、ずばぬけて難しい仕事だった。だから、それをできるようになってしまえば、あとはぜんぶ簡単に思えたんだ。)

 そんな考えをめぐらせながら、旅だちのシャトルの窓をとおして外をながめるエルダンドの視界からは、資源採取用の人工衛星はとっくに消えさっていた。思い出をまたひとつ見おくったエルダンドが、つぎの思い出をはこんでくる景色に目をむけた。

 まっ暗ななかに、かすかな光の点が見えるだけなのだが、かれには、すぐにそれと分かった。

 さっきまで見えていて、もうずいぶん距離のはなれてしまった幾つかの施設よりも、もっと遠くにあるのだが、光の点はしっかりと見えている。

 かれらの集落が周回している衛星の上に、それはあるのだった。

 岩石でできている衛星だ。濃密なガスでできた惑星のまわりをまわる岩のかたまりが、エルダンドのふるさとを重力でとらえている衛星なのだ。人工孫衛星として周回軌道をめぐっている、かれらの集落を。

(あそこからも、資源を詰め込んだ格納パックは打ちだされてきていて、それをキャッチする仕事にも、俺は挑戦したんだった。)

「ほう。やるもんだな、エルダンド。人工衛星からのパックをキャッチできるやつでも、コイツのキャッチには、そうとうに手こずるものなんだがな。」

「そうなのか?別に、なにも、むずかしくは・・・」

 岩石衛星の地上には、何百年もまえに皇帝一族から下賜された、資源採取のための施設が据えられている。そこから、格納パックが打ちだされてくる。

 希薄ではあるが、大気もある岩石惑星の、不規則な気流にねじ曲げられ、更に衛星の不安定な自転や公転や、重力によるブレーキなども計算に入れてのキャッチとなる。

 だから、難易度はたかかったらしい。エルダンドには、まったく感じられなかったものだったが。

 ここから得られる資源も、集落にとってはとても貴重で、なおかつ彼等の領主であるトリコーヴ一族が、税として納めることをもっとも強く求めてきているものだった。

 重元素という呼ばれ方もされ、大むかしの天文学の分野では金属元素などとも呼ばれたそれらは、この星系においてはほとんど、岩石惑星からしか採取されなかったから。

 惑星や星系のガス雲から採取されるのは、軽元素や中間元素などの、周期律表では前の方から中盤あたりにかけて出てくるものがほとんどで、重元素は希薄だった。

 惑星には、中心付近になら多少はあるらしいのだが、人工衛星での採取が不可能な場所だった。かれらの星系の中心にある褐色矮星にも、内部の奥深くにならあるかもしれないのだが、人工彗星はそんなところまでは行けない。

 人工衛星や人工彗星にとって採取が可能なところには、ほとんどないので、重元素の獲得は岩石衛星からの採取に頼るしかなかったのだ。

 かれらの星系だけではなく、もっと広い宙域においても、更には、かれらの国をなしている星団にも、重元素は希少で貴重だった。

 だからこそ、かれらの領主はそれを渇望しているのだ。人の体には必須で、人が作りだす道具にも不可欠とされるそれらがなければ、かれらもかれらの領主も、生活がなりたたない。

 じっさい、皇帝一族が流れてくる前までの集落のくらしは、そしてかれらの国をなす星団での生活は、つねに重元素の不足による栄養失調や設備のメンテナンス不良などに悩まされていたらしい。

 記録に残っているだけの事実をひろっても、平均寿命が15歳未満だったとか二十歳まで生きられる人は半分以下だったとか記されているから、相当なものだ。

 岩石惑星からの重元素は、それほどに貴重なのだ。

 岩石惑星の地上からの採取は、重力にさからって大量の物資を持ち上げてこなければならず、かなり困難な課題だった。皇帝から下賜された装置をつかわなければ、どうしようもなかった。

 “皇帝陛下の地上採取施設”が下賜される前までは、そこに重元素が大量にあると分かっていても、手も足も出せずにいたのだ。

 だからこそ、皇帝一族のくる前と後で、彼らの生活水準はまったく違ったものになったのだし、新政権ができた今でも、この施設がゆえに皇帝は、集落の人々からうやまわれている。

 そんな皇帝一族のおかげでもたらされた“皇帝陛下の地上採取施設”が、まっくらな衛星の地上に光の点を浮かびあがらせている。発光源の出力がつよいので、遠くからでもよく見えるのだ。

「今回も、重元素がたっぷり詰まっているね。これなら、領主さまに満足してもらえるだけの税を、おさめられるよね。集落の平穏も、たもたれそうだね。」

「ははは、あたり前だよ、エルダンド。地上からの格納パックは、いつだって重元素でいっぱいさ。ガス惑星のなかとは違って、どこにどんな元素があるか、はっきり分かっているのだからな。

 そこへ自動で向かっていって、自動で掘りだして格納パックに詰めて、自動で集落の近くにまで打ちだしてくれるのだから、“皇帝陛下の地上採取施設”は、ありがたいものさ。

 統治の実権が新政権にうつったといっても、我々のくらしをほんとうに支えてくださっているのは、いまでも皇帝陛下なのだと実感できるよな。」

 人工衛星にも人工彗星にも、皇帝由来の技術はたくさんつめ込まれているが、地上採取装置にかんしてはなお一層、皇帝一族に依存する度合いがたかい。

 もっとも貴重で、もっとも領主から求められるものの獲得が、もっとも皇帝に依存しているのだから、かれらの皇帝への感謝があついのもあたりまえだった。

(岩石衛星からの格納パックもキャッチできてしまったら、集落での仕事は、たいていできるようになったんだったよな。集落内のパトロールなんてのもやったけど、侵略をうける心配なんてだれもしていない集落周辺での見まわりだから、なにも難しくはなかったし。

 あのころは、このままいけば、クリシュナに顔向けできる日も遠くない、なんて思っていた。もしかしたら、あの、たわわに実ったものも、たなごころにできる時が、くる・・かも・・・なんて・・思ったりも・・・・)

 思い出すだけで、とてつもなく恥ずかしくもなり、自分が汚らわしく思え、いやな気分にもなり、息苦しくさえなる。

 今から思いおこせば、自己嫌悪しかわいてこない考えにも背中をおされ、そのころのエルダンドは日々の仕事に精をだしていた。

 自信をつけ、成長を実感し、クリシュナにも近いうちに手がとどく気分でいた。

「え!? おい、エルダンド、今の、どうやったんだ?」

「何が?」

 同じ宇宙艇にのって、人工衛星から打ちだされた格納パックのキャッチにのぞんでいた大人からの、おどろきと疑問の声だった。

 それに、エルダンドの方も問いかけのかたちで応じたのだ。

「今、惑星の中で、電波バーストがおきただろう。レーダーの一部がホワイトアウトして、パックの場所や飛来コースが分からなくなったはずだ。それに、電波バーストが起きたときには、予想なんてできない、ものすごいガス流が吹きあれるもんだ。

 今だって、レーダーがきかない場所で、異常ガス流によってパックのコースが変化したはずだ。それなのにおまえ、当たり前のようにキャッチしてしまいやがって」

 このガス惑星のなかからは、ときおりとんでもなく強くて波長域のひろい電波が発せられる。

 電波バーストと呼ばれるこの現象は、くわしい原因は不明で、集落の者たちには悩みのたねになってきたものだ。格納パックのキャッチに取りくんでいるときに発生すれば、たいていキャッチを失敗する結果になっていたから。

「電波バーストなんて、いくつかの観測データーを注意して見ておけば、なんとなく予測できるだろ?バーストにともなって起きるガス流の変化にも、だいたいの法則性があるし・・・」

「そ・・そうなのか?そんなこと、俺達は知らなかったぞ。おまえ、誰にそんなこと教わったんだ?」

「誰にも教わってなんかないけど、何回もやってれば、なんとなく分かってくるじゃないか。作業宙域内でおこるのはたまにだけど、惑星のどこかでは数時間おきに発生しているんだから。そのときの観測データーを色々と見ていたら、なんとなく、いつ起こるかとか、どんな異常ガス流が発生するかとか、分かってくるだろ?」

「そ・・そうなのか?俺はもう、20年以上これをやっているけど、まったく気がつかなかったぞ、そんなこと」

「え?そうなんか?気づかなかったのか?何で?」

「な・・何でって、いわれても、そんな・・・・」

 この頃のエルダンドには、こういったことが、だんだん増えてきていた。

 次回、第7話 エルダンドの不安 です。 2019/12/14 に投稿します。

 彗星というのも、厳密には小惑星であり、飛んでいる軌道で呼び分けるのは正確ではないかもしれません。尾を引いている小惑星を彗星というのなら、長楕円を描いて星系内を巡っている人工天体を“人工彗星”と呼ぶのも、筋が通らないのかも。

 ですが、未来の無知な庶民が生活の中で、彗星は長楕円を描きがちだよな、という経験則に基づいて、なんとなく付けた名称なのだから、そのあたりが不正確であっても、不自然ではない、という言い訳で、ここは済ませておきたいと思います。

 天文学的知見に関しても、本作の記述を鵜呑みにはしないよう、読者様にはご注意頂きたいです。“電波バースト”も、木星で起こっているという記事を何かで見て、作品に取り込みましたが、作中の記述が正確であることは、保証しかねます。お気をつけ下さい。


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