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銀河戦國史  (褐色矮星の暗くてらす旅立ち)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第5話  エルダンドの工夫

「久しぶりっ!」

 エルダンドは、クリシュナの笑顔にけり飛ばされた気さえした。「がんばってるって聞いて、集落のみんなのために、むずかしい格納パックのキャッチができるようになるために、すごくがんばってくれてるって聞いて、応援にきたのよ。」

 きらきらとしたクリシュナの笑顔に、だが、エルダンドは、気がめいるばかりだった。

 何か努力をしたようにも見えないのに、自然の発育で、日々たわわに実っていって、かがやきをどんどん増していく少女が、いくら努力してもちっとも成長できず、まったくかがやきを放てないでいる自分をあわれんでいる。そんな風にしか思えない。

 なんて、情けないんだ。なんて、みっともないんだ。

 ほんとうなら、自分が助けてあげたり、教えてあげたりしたかった少女に、心配され、応援されている自分。ひとりでは、何もできない自分。自力では、成長できない自分。自身では、かがやけない自分。

 クリシュナのたわわな体ときらきらの笑顔は、エルダンドの心の闇をさらに深くするものだった。

「あはは、ありがと、がんばるよ。」

 なんとか笑顔をとりつくろい、どうにか言葉をしぼりだし、「じゃあ、疲れてるから」の言葉をおきみやげに、エルダンドはクリシュナから逃げた。

 そんなことが、何回かあった。1ヶ月か2ヶ月おきに、クリシュナはエルダンドのもとに“応援”に訪れた。

 クリシュナの応援ほど、彼の気持ちを落ちこませるものはなかった。

 ぶざまで恥ずかしい自分のすがたが、クリシュナにさらしものになるだけでなく、クリシュナのかがやきを、これでもかと見せつけられる。たわわな彼女とみっともない彼の、絶望的な格差を、思い知らされる。そのことに、心底いや気がさしてしまうのだった。

 それでも、クリシュナの応援をうけたつぎの日には、エルダンドはいつになく気合がはいっていた。

 とにかく、がんばろう。とんでもなく引きはなされてしまったクリシュナとの距離を、少しでも縮めよう。わずかでもいいから、自分も成長をとげよう。エルダンドはそう心にちかって仕事にのぞんだ。

 格納パックのキャッチに成功する、という成果は、当面あきらめよう。エルダンドは、そう決めた。

 キャッチできなければ、また、さんざんに大人たちから怒鳴られるが、もう、それはそれでいいとした。怒鳴られて、あやまって、しばらくはそればかりがつづくのだろうけど、耐えていこう、と自分にいい聞かせた。

 そのかわり、何かできるようになろう。エルダンドは、格納パックのキャッチにまつわる作業を、10個余りの小さな断片に分けた。

 レーダーのモニターを正確に読みとくとか、モニターをすばやく切り替えるとか、複数のモニターの全てに意識をくばりつづけるとか、ロボットアームの選択を正確にするとかいった具合に、単純な軽作業を10個余りつみ上げたものに、その仕事を仕立てた。

 そして当面のあいだは、断片のどれか1個ができるように、ということだけに意識を集中させ、それ以外はできなくても良いことにした。

 ひとつだけなら、なんとかこなせることが多かった。

 相変わらずキャッチには失敗し、大人たちに怒鳴られるのだが、それでも、自分がこれはと決めたひとつの断片にかんしては、なんとかなった。

 約10の断片のどれでも、1つだけに集中すればできるようになると、2つができるようにつとめた。それもできてくると3つができるようにと、すこしずつ増やしていった。

 キャッチには失敗しつづけ、何か月にもわたって、くる日もくる日も怒鳴られつづけながらも、4つ、5つ、と1回の仕事のなかで、できる断片が増えていった。

「おっ!? キャッチ、できたじゃねえか。」

「えっ!・・え?あれ?」

 6個の断片を、1回の仕事のなかでこなせるようになり、今回は7個できるように、と思ってのぞんだ仕事で、エルダンドは格納パックのキャッチに成功した。

 まだ、いくつものステップが残っているはずの場面だったから、エルダンドは自分でもおどろいた。

「とうとう、身につけやがったな、格納パックのキャッチを。よくやったぜ、エルダンド。」

「あれ?なんで?まだ、できないはず・・・だったのに・・なんで?」

 上手くいった理由は、自分でも説明がつかないままだったが、そのあとエルダンドは、格納パックのキャッチに失敗することがなくなった。何度やっても成功した。5つくらいの断片を失敗しないようにと、意識を集中しておけば、残りの断片は体がかってに動く感じで、なんなくこなせるようになった。

 なんどもキャッチに成功すると、なんでこんなことが今までできなかったのだろう、と不思議でならなくなった。失敗するほうがむずかしいくらい、あたりまえに成功する。目をつむっていてもできるのではないか、と思えるくらいだ。試しはしなかったが。

 ほんのすこし、クリシュナとの距離がちぢまったかな、と思う一方で、あのとんでもなくたわわなシルエットときらきらの笑顔を思い起こすにつけ、

(まだまだ、こんなんじゃ、自分から顔を見せにいく気にはなれないな。)

と気を引きしめなおしたエルダンドは、あたらしい仕事をおぼえたい意思を大人たちにつげた。

 食料生産用の建造物の外がわに据えられている炭素貯蔵装置のパーツを、ロボットアームをつかって交換するという作業があった。それが、次にエルダンドが取り組むことになった仕事だった。

 ゴテゴテとつき出したいくつもの装置や、その間をぬって走るたくさんの配管に触れないように、目的のパーツだけを交換しなければいけない。

 何十mもある巨大アームを、数cm単位でこまかく調節しなくてはならない仕事だったが、エルダンドにはあきれるほど簡単だった。格納パックのキャッチとくらべれば、まったくとるにもたらない軽作業と思えた。

「ここのパーツは、ケミカルプロセスフードの生産ラインに炭素を供給する、いちばん重要なものだ。失敗は許されないぞ。」

 そんな大人の言葉も、エルダンドにはプレッシャーにならなかった。失敗なんて、したくてもできないくらいに、かれには簡単だった。

 それでも気を引きしめ、集中をきらさずにとりくむ生真面目さもエルダンドにはあったから、油断しすぎての失敗もなかった。

 ケミカルプロセスフードは、集落の者たちが口にする食材の9割以上をしめている。かれらは生まれながらにそれらを食べてきたから、なんの違和感もなく口にはこぶが、時代が時代なら、だれもそれを食材だなどと思わないかもしれない、ペースト状の物体だ。

 味がまずいわけでもないし、栄養は満点だが、いかなる生物の関与もなく元素の段階から人間の手によって化学的に合成されたその物体は、時代によっては不気味としか思われず、だれも口には運びたがらないであろう代物だ。

 宇宙においては、人間が生活できる環境を作りだすのがせいいっぱいである場合が多く、それ以外の生物に適した環境を作るのは、かなりむずかしいことだった。

 特にエルダンドのふるさとのような貧しい集落には、人間以外の生きものをやしなう余裕などまったくなかった。

 穀物を栽培するとか、野菜や果物を育てるとか、家畜を飼うとか、魚を養殖するとかは、そのための場所すら作りだせない。

 そんなわけでこの集落では、宇宙時代以前には存在しなかった、化学的に合成された食材が、口にできるものの9割をしめていた。

 残りの1割は、バイオプロセスフードだった。完成された生物体は、それを作りだす工程には登場しない。

 何かの生物の、細胞や組織を培養して増やし、それ自体を食材にする場合もある。ある生物の遺伝子を、別の生物である細菌などにねじ込んで、ねじ込まれた遺伝子をつかって色々な物質を作りださせ、それを食材とする場合もある。

 さらに、遺伝子配列という情報だけをたよりに、ある生物がもっていた酵素を人間の手によって合成し、その酵素をつかって食材を生産する場合もある。

 時代が時代なら、バイオテクノロジーとか呼ばれたであろうそんな技術で作られた、十数種類の食材も、エルダンドの集落では食べられていた。たいていは、ケミカルプロセスフードに混ぜこむかたちで、食卓にのぼっている。

 ケミカルプロセスフードにも、味や臭いやかたさにはいろいろ種類があり、それにバイオプロセスフードを混ぜれば、風味や歯ごたえや舌ざわりに変化のある食べ物を百種類以上にわたって作りだすことができ、それなりにエルダンドたちの食事の時間をたのしいものにしていた。

 だが、もし生物由来食材という、時代が時代なら、それ以外に食材なんて存在しなかったであろう完成された生物体からつくられたものばかりを口にしている人が食べれば、エルダンドの集落で供されている食べ物は、なんとも単調で退屈で味わいにとぼしい食べ物だと感じるだろう。

 イネという生物の完成体からとれたコメという食材や、ウシという生物の筋肉を切りだしてつくられたビーフという食材などとくらべれば、ケミカルプロセスフードとバイオプロセスフードを人間が念入りにまぜ合わせて、工夫をこらして作りあげた食材は、人の舌をたのしませる機能にとぼしかった。

 そんなものを食べてくらすのが、宇宙時代のまずしい集落の住民である、エルダンドたちなのだった。

 次回、第6話 エルダンドの熟達 です。 2019/12/7 に投稿します。

 今回も、未来の宇宙の生活ぶりというのを、細かくクドクドと描きました。こういうのを楽しんで頂ける読者様が、どれくらいおられるのか、全くおられないのか、気になるところです。誰も描いたことのない世界観を描いているつもりの作者なのですが、知識不足による幻想なのかも知れません。とにかく、描きたいと思ったものを描き続けるしかない。そんな心境で、執筆を続けようと思っています。


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