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銀河戦國史  (褐色矮星の暗くてらす旅立ち)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第19話  エルダンドの憤懣

 思いがけない言葉に、エルダンドも思わず顔をあげた。軽はずみに直視してはいけない、と言われていたヴィシュワーナの顔を、真正面から見てしまった。

「知ってのとおり」

 不敬にあたるはずの直視を、意に介したふうもなく語は継がれた。「百年ほど前にこの国では、皇帝陛下から新政権に統治の実権がうつった。我がダクストン一族も、陛下から新政権にくらがえするという、節操のないさまをさらしてしまったわけだが、一族の全員が意見を一致させての行動ではなかった。

 陛下への忠義をつらぬくべきだと反発しつづけた一派もあり、その者たちの手によって、これまで管理官としてたくわえてきたノウハウが消しさられてしまったのだ。新政権にこのノウハウを奪われることは、陛下からの恩寵への裏切りになる、とかなんとか言ってな。」

「そ・・それで、管理のやり方が分からなくなって・・だから、“皇帝陛下の地上採取施設”などのメンテナンスも、採取宙域のみなおしとかも・・・」

「そうなのだ。それらも、問題がおこってはじめて、やっておくべきことが分かったようなありさまなのだ。それに正直、今の私は、新政権や周辺領主への対応だけで手いっぱいになっておって、領民への目配りも気配りも、おざなりにしてしまっている。次々に色んな無理難題をつきつけてくる新政権や、油断ならない周辺領主どものために、てんてこ舞いとなっているのが実情なのだ。こんなことではいけないと、思ってはいるのだが、なかなか・・・。」

 これまでいだいてきたヴィシュワーナ・ダクストンへのイメージを、くつがえすような言葉の連続だった。エルダンドも、認識を改めなければならないのか、と思った。

 が、それは一瞬のことだった。

(そうは言いながら、クリシュナをほしいままにする時間はあるんじゃないか。たわわな彼女を思うがままにころがすひまがあるなら、そのひまを、集落への目配りにあてればいいじゃないか。

 クリシュナだけじゃない、俺たちの集落からも、他の集落からも、たくさんの女を召しあげて心ゆくまで楽しんでいるくせに、何を言っていやがるんだ。)

 これまで耳にしてきた、たくさんの醜聞を思いおこせば、こんなヴィシュワーナの言葉に信憑性などあるはずもなかった。

(口先でなにを言おうと、どうとりつくろおうと、女にかまけて管理をおろそかにしたり、女をもてはやすためにおもい税をとりたてているのが、コイツの実像なんだ。だまされるもんか。)

「今回の件にたいして、できるかぎりの褒美もとらせたいと思っているのだが、何か望むものはあるか?」

 穏やかに問いかけるヴィシュワーナに、エルダンドは、

「クリシュナを返しやがれ!」

と叫びたい気持ちを、なんとかこらえ、こちらも穏やかに応じた。

「できれば、集落に課す税を、少しでも軽くしていただきたいと・・」

「やはり、そうなるか。そうだろうな。当然であるな。」

 苦しそうな納得顔で、ヴィシュワーナは何度もうなずいた。「新政権とも、もうすこし、じっくり交渉してみるか。だが、にらまれるようなことになっては、逆に税をおもくされてしまうし・・むずかしいのだ。やはり、新政権への税は、とどこおらせるわけには・・・。使者への歓待をみなおすか・・しかし・・使者の評判をおとすのも、賢明ではない・・むむむむ。」

 なやんで見せるヴィシュワーナに、エルダンドは内心で毒づく。

(お前が、女ざんまいのぜいたくをがまんすれば、いいだけじゃないのか!たくさんの女をかかえて、全員にきらびやかな衣服や貴重な食べものを大盤ぶるまいして、そのうえでそいつらの体を思うままにして。そんな酒池肉林をひかえれば、税はかるくできるだろう。なにが新政権と交渉だ、なにが使者への歓待だ。ふざけるな!)

「なんとか、要望に応えられるように努力はしてみる。が、あまり大きな期待はもたないでもらいたい。すまないな。」

 その後にもいくつか、集落のくらしぶりなどについて話し合った件があったが、エルダンドの記憶にはのこっていない。

 ヴィシュワーナへの反発は、消えることも弱まることもないままに、その時の会談はおわった。

 クリシュナも、ときおり何か言いたそうなそぶりは見せたが、その気配を感じるやいなや、エルダンドは声をたかくして、早口で何かしらの口上ををまくしたてた。そのために、彼女には、いちども発言の機会はなかった。

 支配する側にたったうえでの、彼女の言葉など、エルダンドは聞きたくなかった。存在すら忘れようとするかのように、つとめて彼女には視線をむけないようにした。

 そして、ひと言も声をかけることなく、視線を交わすことすらもなく、その場をあとにしたのだった。

(あれこれと表面はとりつくろって、誠実な管理官を演じようとしていやがるけど、結局は、自分のぜいたくのために、集落を犠牲にしているんだ。いやみったらしいヤツだぜ。そして、その横で、支配者ヅラで立っていやがる女も、ロクなものじゃない。)

 そんな毒を心中ではきながら、おもたい体を引きずって遠心力にあらがう移動をはたし、エルダンドは無重力のセクションを目指した。

 コリオリの力や重力勾配にさいなまれながらも、なんとかリングの中心部分にもどってきて疑似重力から解放され、エルダンドは乗ってきたシャトルへと宙を泳いでいた。

「君が、エルダンド君だね。」

 思いがけず声をかけられ、エルダンドはびくりとして振りかえった。

 知人なんてほとんどいないはずの、ダクストンの居住施設に、ひとりでシャトルを操縦してやってきたのだ。だから、声をかけられるなんて、考えになかったのだ。

「ええ、そうだけど・・あなたは・・」

 声の主は、顔だちからして、この集落の者ではないと思えた。

 集落どころか、この星団の出身でもないのがすぐに分かるくらい、彼にはなじみのない顔だちだ。エルダンドは、いぶかしく思う気持ちで身がまえた。

「私は、銀河連邦本部から派遣された、エージェントのグリッドという者だ。すこし、話をさせてもらえないかね。」

「ぎ・・銀河連邦・・・本部・・・エージェント・・」

 実在をすらうたがうほど、遠い存在が、急に目の前にあらわれた、などという事実は、にわかには受け入れがたい。名前は知っている、というていどなのだ。

 それの支援を新政権が受けていることで、彼の星団国家が成りたっている、というのも話には聞かされてはいる。だが、あまりに遠すぎて、実感のわかない存在。それが、銀河連邦だ。

 その本部からのエージェントだと名のる、グリッドとかいう男を、エルダンドはまじまじと見つめた。

「ははは・・・信じてもらえないかね。身分証などはもっているが、それを見せても君たちには、何の証明にもならないのだろうしな。やれやれ、何をすれば信じてもらえるものやら。」

「そんな人が、こんなところで・・・こんな辺境の貧乏集落に、何の用が・・・何をしに・・・」

「何をしに、とはつれないな。法の支配や人権尊重の精神が、この国に行きわたっているかどうかを確かめるのが、エージェントのつとめの一つだ。この国をすみずみにわたってめぐり、人々のくらしを見てまわるのは当然だ。本部がこの国からあまりに遠く、この国があまりに広いので、十分な人数を派遣できず、目のとどかぬところが多いがね。」

 自信にみちた話しぶりの中にも、自責の思いもにじませた顔で、エージェントのクリッドは言葉をつづけた。

「君には見たこともない連邦のエージェントだろうが、私を含め30人余りのエージェントが、この国で毎日2つか3つの集落を訪れて、くらしぶりを見てまわっているんだ。それでも、エージェントなんて見たこともないという集落が、この国ではほとんどになってしまっているのだがね。」

「見てまわって、なにをしているんだ?少しは税がかるくなるように、口をきいてくれるのか?」

「うむ、あまりに税の負担がおもすぎて、くらしが困窮している集落を見つければ、そこの管理官を指導するなり新政権に意見をだすなりして、税をかるくするように迫ることもある。」

「じゃあ、ダクストンの連中にも、言ってやってくれたのか?税をかるくしろって?」

「ははは、そうなってしまうよな。だが、この国のほかの集落とくらべてみれば、ここの集落が、とりたてて困窮しているとも見えない。まあ、別の星団の別の国家、とくに、銀河連邦の本部の近くにある加盟国などとくらべれば、はるかに貧しいくらしではあるのだろう。だが、この国の政権に、今の君たち以上のくらしを、すぐに、すべての国民にさせろと言うのは、なかなか酷な要求となってしまうかな。」

「今のこの国の実力では、俺たちくらいのくらしが、精一杯ってことか?まあ、餓死者や病人が続出していた、大昔のこの国のくらしとくらべれば、今の俺たちはめぐまれているのかもしれないけど。

 でも、食べ物は、ほとんどケミカルプロセスフードだし、危険な作業に、年端もいかない子供がかりだされたりもしているし・・・」

「うむ。その状況を改善したいと思って、我々エージェントも活動しているのだが、それには国全体の技術力や生産力のそこあげが必要だから、すぐにとはいかないのだよ。」

「・・そうか。で・・でも、ダクストンの一族は、領民におもい税を課しておいて、自分たちはぜいたくざんまいなんだ。それを、なんとかしてくれよ。ぜいたくをやめさせて、その分、税をかるくするように、言ってやってくれよ。連邦のエージェントなら、そういうこともできるんだろ?」

「ああ。もちろん、そういう実態があると分かれば、ただちにきびしい指導をおこなうさ。今から、ダクストン一族への調査をはじめるんだ。不当なぜいたくをしていると分かれば、ただではおかないさ。」

 胸を張るエージェントに、エルダンドは少しの信頼をいだいた。

(この人が、クリシュナを、ヴィシュワーナから取りもどしてくれるかも・・・。けど、彼女は、自分から好きこのんでヴィシュワーナに身売りを・・・・。やっぱり、もどってなんか、こないか・・・)

 次回、第20話 エルダンドの逡巡 です。 2020/3/14 に投稿します。

 この場面での、ヴィシュワーナの描写は悩ましかったです。読者様に、「どういう奴か、まだ分からんな」とか「これでは、判断がつかないな」といった印象を持って頂けていれば、成功というところでしょか。これまでの悪い噂ばかりの状況から一転、「おや?」と思わせつつ、「実は良い奴じゃん」とまでは思わせたくない。そんな書き方を、できる気がしないのに、やってみた感じです。

 クリシュナに関しては、どう描写しようか悩んだ末に、発言させないという策に出ました。逃げたことになるでしょうか?これも一つのやり方として成り立つでしょうか?いまだに悩んでいます。

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