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銀河戦國史  (褐色矮星の暗くてらす旅立ち)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第12話  エルダンドの修理

 彼がいつもつかっている宇宙艇や、食料とか資材などを作るための機器にも、同じように緑や赤のランプがある。

 正常に動いているモジュールは緑で、何らかの異常を生じているモジュールは赤であらわされる。

(どちらも皇帝陛下に下賜された装置だから、たぶん、ランプの意味も同じだろう。緑のランプは正しく動いていることを示し、赤はどこかよくないところが検知されているんだろう。)

 そう思ってよく見ると、建屋からとびだしたばかりのものには緑のランプしか見られない。戻ってきて建屋にとびこむものには、ときどき赤のランプが見られる。

 建屋のなかで、すべてを正しい状態にメンテナンスしているが、外に出て走りまわったり採掘などをおこなったりしているあいだに、損傷を生じることあるのだろう。

(建屋のなかに、損傷を自動的になおすしくみがそなわっているんだ。こんな自動修復能力があるから、何十年も、誰もメンテナンスにおりてこなくても、使いつづけることができていたんだ。)

 エルダンドには予想の範囲内のことだったが、それでもこれだけたくさんの“自動採掘機”が自動修復によって、何十年も正常に動きつづけていることには、おどろきを禁じえなかった。

(でも、なにかが自動では修復されなくなっているんだ。だから、パックのコースがずれるようになってきているんだ。建屋のなかに入ってみれば、それが何かもわかるだろう。)

 心の中でそう結論づける前に、エルダンドは入り口をさがしてキョロキョロしはじめていた。1分とさがすこともなく、入り口はすぐに見つかった。

 格納パックが横たわっている場所のすぐ近くに、これ見よがしな矢印で飾られたハッチがあった。施設の屋根――今のエルダンドにとっては床――と一体化した感じのハッチだ。

 反射的にエルダンドは、そのハッチへと足をむけた。

 ハッチを開けてすぐのところにハシゴがあり、それをおりてなかに入る構造だった。

 おりていく最中に、エルダンドは、もうれつな体のだるさを感じはじめた。

 無重力になれている彼の体は、到着して数分にして、まだ数十歩あるいたくらいの活動でしかないのに、はやくも疲労をおぼえているのだった。

 重力のある環境も、経験がないわけではない。月に1回くらいのペースで、遠心力による疑似重力がほどこされた空間を体験することがあった。

 だが、やはりかれの体は、無重力のほうがよりなじみがある。重力のもとでの活動には、限界がありそうだった。

(はやく故障してるところを見つけて、修理して、集落にもどらないと・・・)

 心中でのつぶやきには、しかし焦りの色はなかった。それが簡単に実行できるようなしくみになっているはずだ、との確信が彼にはあった。“皇帝陛下の”と冠せられた設備や機器には、エルダンドもかなりの信頼をおいているのだった。

 3mほどのハシゴをおりてしまうまえに、エルダンドは機器の修理のしくみをみてとった。

 自動修理装置なのだろうと思える、たて長で箱状のものが、3つの車輪で走りまわっていた。大小さまざまな、幾つものアームを、いろんな角度で飛びださせた姿で、建屋の内部をせわしなく右往左往している。

 エルダンドの見ている前で、外から飛びこんできた“自動掘削機”のひとつに、“自動修理装置”のひとつが駆けよっていった。

 そして目にもとまらぬ早業で、アームのいくつかが繰りだされ、部品の一部が交換される。赤に点灯していたランプが、緑に変わる。部品交換をするだけでいいように簡素化されたつくりで、修理は一瞬のうちにおわったらしい。

 あっちでもこっちでも、損傷をおって帰ってきた“自動掘削機”が、“自動修理装置”に手当をうけていた。

 “自動修理装置”は、他にもいろいろなものを修理している。ほとんどの装置が、部品交換で簡単に修理できるようなつくりに設計されているみたいで、たいていの修理作業は一瞬で終わる。

 時々、溶接のひかりがどこかからはなたれたり、電動工具がものを切ったりたたいたりする振動が伝わってきているから、複雑で手間のかかる修理もおこなわれてはいるようでもあるが。

 音は、聞こえてこない。周囲に大気はあるものの、音を伝えるには希薄すぎるらしいし、エルダンドは宇宙服を着ていてヘルメットもかぶっているので、そうとう大きな音でないと中にはとどかない。

 希薄な大気は、酸素などの人に必要な成分もまったくふくんでいないので、宇宙服はぜったいに必要だった。

 音は伝わらなくとも、振動や光によって、あちこちで様々な修理がおこなわれていることは、全身で感じとっていたエルダンドだった。“自動掘削機”の出入りするハッチや、それらが運んできた岩石などが投入されている機械にも、修理の手はおよんでいた。

 絶えまない修理が全自動で実施されつづけていることで、この無人の巨大装置は、数十年にわたってエルダンドの集落に格納パックを打ちだしつづけ、かれらの生活をささえてきたのだ。

(やっぱり、すごいぞ!“皇帝陛下の地上採取施設”は。)

 感嘆と称賛を胸の内でもらす一方で、エルダンドは、格納パックのコースのずれをもたらしている異常の原因にも、すでに見当をつけていた。

 “自動修理装置”のすべてが、同じような位置に赤いランプをひからせている。全部の修理装置が、同じ不具合をかかえているのがひと目でわかったのだ。

(修理する側の機械が、全部故障してる状態じゃないか。これじゃ、直せない故障っていうのが出てきてしまうはずだ。どこかに深刻な不具合を生じてもふしぎじゃない。修理装置を修理するのは、修理装置には無理なのかな?)

 その疑問に答える現象が、エルダンドの目の前で展開した。

 一台の修理装置が、別の修理装置に走りよっていった。修理装置を修理しようとしているのが、見てとれる動きだった。

 だが、修理装置は修理装置の修理を、途中で放りだしてしまったような感じで、修理せずに走りさっていった。言葉も表情もあるはずのない装置から、何やらくやしいような、いらだっているような気配が感じられた。

(修理装置を修理するのに必要なモジュールが、故障しているんだ。それも、全部の修理装置において。)

 どういういきさつで、そんなことになってしまったのか、具体的なことまでは想像もできない。

 だが、何十年も人間によるメンテナンスを受けないうちに、何らかの原因による損傷が蓄積されていったあげくに、このような事態になってしまったのだろう。

(修理装置の修理だけでなく、他にもできなくなっている修理があるに違いない。その結果として、格納パックのコースのずれという症状もあらわれているんだ、きっと。)

 つまり、修理装置にはできなくなった修理装置の修理を、エルダンドが代わりにやってやれば、今起きているすべての不具合は自動的な修繕へとむかっていくにちがいない。

(それも、一台の修理装置を修理してやればすむはずだ。後は、その一台が他の修理装置も、それ以外の不具合も修理してくれるだろうから。)

 そう思いながら、しばらく建屋のなかを歩きまわってみると、修理装置の修理のやり方も見えてきた。各モジュールには固有のマークがついており、それぞれのマークがつけられた予備のモジュールが、たくさんストックされている棚もみつけた。

(赤いランプが点灯しているモジュールについているマークと、同じマークのモジュールを棚からとってきて、交換してやればいいはずだ。)

 そのあたりの要領は、エルダンドの集落にあるほかの機器や設備でも同じだった。

 特に、示されのと同じマークの部品をとってくるというのは、幼いころから何度もやっていることだ。簡単であるとともに、なつかしくもある作業だ。

 各モジュールの役割や仕組みなどは、集落のなかのだれも知らないけど、とにかく赤いランプが点灯しているモジュールを新しいのに換えてやれば、機器などは正常に動きつづけるのだった。

 それらのモジュールも自動的に製造されているから、知識にとぼしい集落民だけでも日常の活動をつづけてこられた。それが“皇帝陛下の”と冠された施設や装置というものだった。

 集落がもつ3つの宙空建造物のすべてにおいて、そんな要領でメンテナンスがなされている。そのことが、エルダンドにははじめてみる“皇帝の地上採取装置”であっても、同じ要領でメンテナンスができそうだと判断できた理由だった。

 エルダンドは、“自動修理装置”の赤いランプが点灯しているモジュールにつけられたマークと、同じマークのモジュールを棚からみつけだしてつかみあげた。棚のそれが置いてあったあたりに、工具のシルエットと思われる図柄も記されてあった。

(モジュールの交換に、これらの工具が必要ってことだろう。)

 工具もすぐに見つかり、それらをかかえてエルダンドは、手近にいた“自動修理装置”にかけよった。

 修理のために“自動修理装置”を一時停止するためのスイッチも、かけよるやいなや見つける。赤いランプのモジュールの周囲を見れば、どの工具を使ってどんな風に取りはずしや取りつけをすればいいかも、すぐに分かった。

 どこかの仕事場で、似たような作業をやった経験がエルダンドにもあったし、集落の大人のほとんどにとってもそうだろう。

 集落での仕事を日ごろからやっている者には、ぜったいにメンテナンスのやり方が分かるように、この“皇帝陛下の地上採取施設”も設計されているのだと、エルダンドには実感されていた。

 何も考えないでも、手が勝手に動いてモジュールの交換がなしとげられていく感じだった。手が勝手に動くので、頭では別のことを考えていていいくらいだった。

(故障している“自動修理装置”のモジュールっていうのは、この交換作業に使わないといけない工具を動かすのに必要なものなのかも。だとしたら、それがすべての“自動修理装置”において故障したら、このモジュール交換がどの“自動修理装置”にもできなくなって、ぜんぶが故障したままになってしまうんだ。)

 何がおこればそんな事態になるものやら、見当もつかないが、惑星の電波バーストとか、隕石などの飛来物による衝撃とか振動とか、“自動採掘装置”が運びこんでくるものによる影響とか、色々なものが考えられる。何十年ものあいだ、たえまなく活動をつづけている装置なのだから、エルダンドには想像のつかない事態だって、いくらでもおこりえるだろう。

 エルダンドが修理してやった“自動修理装置”は、一時停止を解除してやるやいなや、すごいスピードで彼のもとから走りだしていった。

 久しぶりに故障から解放されたことに、大よろこびしているような印象があった。

 次回、第13話 エルダンドの帰路 です。 2020/1/25 に投稿します。

 自動修理装置が全部、同じ故障を抱えている、という設定も、安直すぎるかなと思いましたが、この“衛星の地上行き”のくだりが物語のメインエピソードでもないので、出来るだけシンプルにと考えて、こんな感じにしました。エルダンドの集落が、どれだけ皇帝由来の技術に依存し、そしてその状態が長い間に渡って続いてきたか、そんなところを感じて頂けていれば、嬉しいところなのですが・・。


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