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銀河戦國史  (褐色矮星の暗くてらす旅立ち)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第10話  エルダンドの解釈

「そんなこと、集落の者が手をだすべきじゃないんだ。」

「管理官のダクストン一族が、なんとかする問題なんだ。」

 大人たちは口々に叫ぶ。

 どうにかして、人に責任をおしつけ、人まかせにし、自分たちは何もせずにすまそうとする態度。それを正当化しようとする姿。

 エルダンドには、そんな風にしか見えなかった。

「ダクストンが点検の必要性を認識しているなら、何十年も放置しているわけはない。あの人たちも、分かっていないんだ。点検の必要性を知らないなら、点検のやり方だって、分かってない可能性がたかい。ダクストン一族をあてにしていたら、集落に未来なんかないぞ。ダクストンが何とかするはずだって思いながらなら、飢え死にでも野垂れ死にでも、安らかにあの世にいけるのか?」

「・・!そ・・そんなこと・・だけど・・」

「死んでいいわけ・・でもよう・・」

「とにかく」

 口ごもるしかなくなった大人たちに、エルダンドは決然と告げた。「誰がなんと言おうが、俺は衛星の地上におりてくる。」

 長い沈黙のすえに、ようやくエルダンドの決意のかたさだけは、理解したらしかった大人たち。だが、

「でも、どうやって降りるんだ?」

「それによう、点検ってどうやるんだ?修理が必要だったとして、お前にやり方が分かるのか?」

「全くだぜ。さらにはよう、修理ができたとしても、どうやって戻ってくるんだ?それも、分からないんだろ?」

「ほんとだな。俺たちには、何ひとつ分かることがないじゃないか。何も知らされていないんだぞ。どうするつもりなんだ?」

と、質問のあらしはやまない。

「とりあえず、地上施設に向かって打ちかえす格納パックに、乗っていってみる。」

「はあっ?」

「ええ?」

 エルダンドの言葉に、またしても開いた口が無重力の空間で縦横にならんだ。

 地上施設から打ちだされて来た格納パックは、中身を取り出したあと、施設に向かって打ちかえす。それが、どうやって施設に回収されるのかは誰も知らない。

 だが、同じパックが地上施設と集落とを行ったり来たりしていることは、みんなが知っていた。

「じ、自殺行為だ!」

「パックごと地面に叩き付けられて、即死するにきまってる。」

「いや、地面に叩き付けらた形跡なんかが、パックについているのが、レーダーで検出されたことなんてあったか?」

「・・確かに。だが、頑丈な超合金のパックに傷がつかなくても、人間にはたえられない衝撃は、あるに違いないだろう?」

 エルダンドにも確証はなかったが、確信はあった。

「過去の記録を見ても、はっきりとおりる方法が記されてあったわけじゃないけど、パックに乗って打ちかえされたとしか思えないんだ。きっと、あれに人間がのって打ちかえされれば、人間を傷つけないように上手く受け止めてくれるんだ、“皇帝陛下の地上採取施設”が、たぶん。」

「ど・・どうやって」

「知らない。」

「知らない・・って・・お前・・・」

 心配気な大人たちの態度のなかには、焦りのような罪悪感のようなものも垣間見える気がする。

 自分たちの無責任で人任せな仕事ぶりが、ひとりの若者を死地に追いやろうとしている。そんな現実に、うっすらとでも、気がつきつつあるのかもしれない。

 目をそむけてはいけないはずの試練に、目をそむけつづけた自分たちの分を背負って、エルダンドがひとりで危険な役まわりを引きうけようとしている。ようやく気付いたこの現実に、心をしめつけられているのだろう。

「地上採取施設の、仕組みも修理のやり方も、そこから帰ってくる方法も、いくら調べてもまったく分からなかったけど、とにかく打ちかえされる格納パックに乗っていきさえすればどうにかなりそうだって、過去のデーターを見る分には思えたんだ。」

「そんな頼りない情報だけで、そんな不確かな理解だけで、重力の底なんていう恐ろしいところにおりていくのか。死にに行くようなものだぞ。正気とは思えん。」

 そう呟きながらも、大人たち全員が、誰かがそれを成さねば集落が破滅してしまうかもしれない、とも認識しつつある顔つきだった。いまだに半信半疑、というか現実逃避的に事実を否定しようという気持ちも見え隠れはしているが。

 ともかく、大人たちの否定的な意見はふり払って、エルダンドは衛星の地上に向かうことになった。

 大人たちとは対照的に、エルダンドと同世代か、それより歳のわかい者たちは、エルダンドの決意に理解をしめしてくれた。

「ある程度歳のいっている連中にすれば、あと何年かこの集落がもちさえすれば、あとはどうなっても構わないんだ。自分たちが生きているあいだだけこの集落が無事だったら、それでいいと思っていやがるんだ。

 だが、俺たちの年代からすれば、まだまだ何十年とか百年以上とか、集落には健全でいてもらわないと困るんだ。そう考えたら、エルダンドの決断は、勇敢で頼もしいものだと思うぜ。」

 大人たちのいなくなった場面では、そんな意見もエルダンドは聞かされた。

 子供たちの世代に明るい未来をのこそう、なんていう大人の善意を、子供の世代は、あてにしてはいけないのかもしれない。

 自分たちの世代は自分たちでなんとかするしかない、エルダンドは、自身にそう言い聞かせた。


 たまご形の格納パックを、これまでエルダンドも集落の者も、あまりしっかりとその目で見たことがなかった。食料生産用や資材生産用の、宙空建造物の所定の位置に、格納パックをセットする作業を機械的にこなしてきた。

 実際にそれをするのはロボットアームで、エルダンドも他の大人たちも、モニターに示されたデーターを見ての操作をおこなうだけなので、自分の目でじかに格納パックを見る機会などなかった。

 この機会に、かれらははじめて格納パックを直接に目で見た。

 エルダンドたちは“たまご”というものを知らないし、見たことさえもないので、そんな認識はないが、もし“たまご”だったら、そこを下に向けてとり扱われるであろう部分に、物資が出入りするジョイントと見られるへこみが、幾つかあった。

 そしてそれらと並んで、人が入りこむためと考えてよさそうな大きさの、手動式のハッチも見つかった。

 ハッチから入りこんだなかには、格納パックになんらかの操作をおこなうための設備は何もなかったが、モニターが1つ設えられていた。

「モニターがあるってことは、やっぱりこれに人が乗りこむ設計なんだ・・・たぶん。」

「でもよう、乗っている人間には、なにもできないってことだろ?モニターで状況を見るだけで。」

 いっしょに格納パックを観察していた大人が、エルダンドに不安たっぷりの声を聞かせた。

「逆に言えば、何もしなくても、乗ってるだけで地上施設にたどり着けるってことじゃないか・・・たぶん。」

 エルダンドは、確信をもってそう判断したが、大人たちには、危険すぎる決めつけに思えたらしい。

「このモニターだって、何が映るのだかは分からないんだろ?」

「まあ・・・たぶん、これに乗って施設へと打ちだされたあとに、何かが映るんだろうな。それを見ていれば、状況が分かるようになっているんだ・・・たぶん。」

「たぶん、ばっかりだな。」

 そんな感じで、格納パックの確認もふくめた準備は着々とすすみ、いよいよ明日、衛星の地上におりるとなった日の夜、エルダンドはクリシュナから、突如のメッセージを受けとった。

 ちなみに、夜といっても、天体の動きとか自然現象による明暗の変化とかいったものは関係なく、人間がかってにある時間帯を“夜”とよんでいるだけだ。そもそも、彼らの中心星である褐色矮星は、昼とよべるほどの明るさを彼らに与えてくれない。

 居住用の宙空建造物内にある、自分の部屋のなかでエルダンドは、自分専用の端末でクリシュナからのメッセージを見た。

『すごいね、エルダンド。集落のみんなのために、命がけの役目をひとりでひき受けるんだね。』

 モニターのなかで、いつになく神妙な顔つきのクリシュナが話しているが、エルダンドの気持ちは、前に見たときよりさらにたわわに実っているものに釘付けだった。

『大人のひとたちは、そんなことしなくてもいいとか、そんな恐ろしいことをするのはバカげているとか言ってるけど、私もエルダンドのいうことが正しいと思う。このままじゃ、衛星からの資源が採取できなくなって、集落はたいへんなことになっちゃうと思う。』

 クリシュナも理解してくれている、ということに喜ぶより、エルダンドは、キラキラのクリシュナに魅入ってしまっていた。

『私も心配だし、そんな恐ろしいことは、して欲しくない気持ちにもなるわ。でもやっぱり、エルダンドが勇気のある決断をしてくれたこと、すごく感謝しているし、応援するよ。

 それでね、わたしも、わたしにできることはなんでもやって、エルダンドの勇気にむくいなくちゃって、思うようになったの。だから、かならず無事で帰ってきてね、エルダンド。わからずやの大人たちの分も、わたしがぜったいに、エルダンドの勇気とがんばりにむくいるから。」

(つ・・ついに、このときが来た!)

 エルダンドはクリシュナのメッセージに、そんな感想をもった。

 次回、第11話 エルダンドの冒険 です。 2020/1/11 に投稿します。

 “たまご”を知らないとか、昼や夜は人が勝手に決めた時間帯でしかないとかいった、本物語における未来宇宙の世界観にまつわる事象を、あまり詳しい説明もなく取り上げました。ご理解頂けているでしょうか?宇宙を放浪した挙句に、暗い褐色矮星の近くにたどり着いてしまい、生物が介入しないケミカルプロセスフードばかり食べて暮らしていかなくてはならなくなった人々が、彼らなのです。現代の我々とは極めて異質の世相を、リアルに思い描いて頂きたいです。読者様がそうせざるを得なくなるような文章を、作者が書かなきゃいけないのではありますが・・。


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