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鬼神の子  作者: ラーメン太郎
序章
2/4

一話 崩壊の兆し


「─────よ!お前はメガロスの英雄だ!」


───国の長らしき人物から


「おー!────様!貴方達一族は我々の宝です!」


───国の兵士らしき人物から


「───様?邪神を封印してくださったあの───様でしょうか?あぁやはりそうでしたか!!本当に助かりました!ありがとうございます...!」


───小さな村の少女から



記憶に無い情景や台詞が頭の中でぐるぐる回り俺の思考をかき乱す。


《その国王は自分(?)を褒め讃えた。》


《その兵士は自分(?)を宝だと称した。》


《その少女は自分(?)に礼を言った。》



───────────────────────

はっと起き上がり、周りを見渡す。

今日もまたあの《物語》を見た。

その者達は自分(?)を《英雄》だと言ってきた。

それなのに『自分』は悲愴感を感じている。

〝それ〟を見る度辛くなる。

何故かは分からない───ただただ感じていた。


この《物語》どこかで見たことがあると思えば昔小さい時に読んだ本だ。

確か...『ぼくらのえいゆう』という子供向けの本。

二人の騎士が悪の根源《邪神》を討ち滅ぼすと言う内容だった気がする。この話は平和になるという結末を迎え、読んでいて楽しかった。だが、この俺が見た、《物語》、否、《夢》はもっと憂いを帯びていた。


───────────────────────

【朝、自分の部屋にて】


「ふぁぁ...」

昨日は寝付きが悪かったせいか変な夢見たな。

はっきりとは覚えてないけど...


俺は『クロム』

騎士の家系に生まれた18歳の青年。

って自分で言うのはおかしいか。


三人暮らしである俺はちゃんとした職業に就く事が出来てない。...勘違いはして欲しくないが穀潰しになるつもりは無い、働く気はあるからな。


俺の親父は騎士の仕事上にいると村が危ないため家を出てしまった。

騎士を辞めてからも国で人を鍛えているらしいが父親としてどうなんだろうか。


「さて、飯食いに行くか」

俺はそう呟き、一階にいる飯達...もとい、家族に会いに行った。

───────────────────────

【朝、居間にて】

下に降りると豪華な食事が用意されていた。

見ているだけで食欲のそそられる、そんな食事。


「おはよう、なんか豪勢だな」

「クロ、今日はアリスの誕生日だから豪勢なのも当たり前でしょ?」

「あぁ、そうだったな」


まず挨拶を交わそうとしないのかこいつは...。

こいつは幼馴染みの『エミリア』

金髪で、ムスッとした表情がトレードマーク。


クロというのは俺の愛称バカにしているだが

俺は慣れてしまったためそれに対してどうこう言う気はない。

なんか言っても反論されるからな。


「何朝からぼーっと考え込んでるのよ今日から試験でしょ?」

「あぁそうだお前ら俺が居なくて寂しいだろうな。」

「寂しいも何も受かるわけないでしょ?あんたは騎士より畑作業の方が向いてるわよ。」

「それは酷くねぇか!?」


そう、今日は騎士団に入るための試験があるのだ。

そのためにどれだけ練習したか、いや、してなかったな。全然。


「あ、兄さんおはよう!」

「おはようアリス。そして誕生日おめでとう!」

「ありがとう兄さん。あっ、今日は帝国騎士団の試験なんだよね?」

「あぁ。」


この子は『アリス』

茶髪でカチューシャをいつも付けている。

元々は戦争によって両親を亡くした孤児なのを親父が拾った。昔の記憶はあまりないらしい。

実は身元はっきりしておらず、アリスという名も親父が付けた名だった。


───────────────────────

【朝、食事】


今日の朝飯はとても豪華だ。

なにせ、俺の大好物ハンバーグだからだ。

しかしただのハンバーグではない。宿屋で出るような肉を丸めてただ焼いたような安っぽい物ではなく、肉に野菜を練り込み、ちゃんとした用法で加熱されている。農業都市ブレンドンから仕入れているから尚更だ。


「いっただきまーす!」

アリスはそのハンバーグに夢中になっている。

その一方、エミリアはぼーっとして一点を見つめている。

いつもなら俺をバカにして働け働け言うくせに、今日はなぜだか元気がないのかしおれている。


気づくと俺はその端整な顔立ちを見つめていた。

目が合い、エミリアは怪訝そうに言った。


「見てないで早く食べて、気持ち悪いから。」

「へいへい。」


なんだ気のせいか。


急かされたのでひと口頂く。

その瞬間口の中にハンバーグ特有の肉汁が染み出した。ちゃんと火が通っていてしつこ過ぎず食べやすい。もうこれが騎士団に入ると食べられないのはちょっと惜しい気もする。


「美味い……。」

「あっそ。」


俺がつい出た言葉にエミリアが返す。

なんだか寂しそうな表情だったが、すぐに表情は変えいつもと変わらないムスっとした顔になった。


ようやく食べ終わると、エミリアが言う。

「食べたんなら準備しなよ、もう時間になるわよ。」

「そうだな、行ってくる。」


「もういくの?ちゃんと準備した?」


妹は心配して聞いてきた。

さすが俺の妹だ、分かってるな。


「俺は命を国に捧げる騎士になるんだぞ?準備したに決まって…」


そうだ、騎士になろう者が準備を万端に出来ていない訳がないだろうが馬鹿者。と心の中だけで言う。 おっと声に出しちゃだめだ、俺が死んじまう。


「おい、バカクロ。」

「え?」

「作ってやったのに弁当置いてくの?」


あっ、弁当忘れてた。

まーたいつもの長ったらしい説教だ。

1回言ったら分かるっての。


「すまん!作ってくれたのに……。」

頭を下げ、弁当箱を持つ。


「いつもいつも作ってるのに...ま、暇だから作ってるだけだから別にそこまで謝らなくてもいいけど。」


今日はやけに静かだなぁ、変なもんでも食ったのかな。こいつ。


「ま、これで最後みたいなもんだしな。説教も悪くねーよ。」

「...なにそれ」


素直に『ありがとう』って言えない自分が実に情けない。


「んじゃとりあえず行ってくるからな」

「兄さん行ってらっしゃい!」


さて、もう弁当貰ってるから行くか...。

2人に見送られながら金属の音を鳴らし外に出た。


───────────────────────


この村『ミッドナイト』からは俺含め、

『シャガル』という男も騎士団入団試験に行くように知らされている。


そいつと行くとしよう...。

一人で行くのはなんだか怖い気もするからな。


◆◆


家に行く前に鍛冶屋のおじさんに声をかけられた。


「おっ、ガヴェンの坊ちゃんじゃないか!騎士になるんだってな!」

「まぁ、はい。」

「いやぁ、親父みたいないい男になったじゃないか!国についたら親父によろしく頼むよ!」

「...わかりました。」


俺は親父が嫌いだ。

親父の存在が大き過ぎて周りからは俺が見えてない。


...この村には『俺』はいないんだ。

どこに行ってもいない。

俺も自分が分からない、知らないんだ。

俺が小さな頃見てきたのは〝広大な空〟や〝壮大な草原〟のような物じゃない。親父の背中しかなかった。


どこへ行っても〝大隊長の息子〟でしか無かった。


誰も〝 クロム〟として俺を見ようとはしなかった。

────────────────────

【シャガル家にて】


クロムは隣の隣の家にノックをした。


奴は俺の親友であり幼馴染。

この男は自分で紳士だというが

ま、あくまで自称ではあるけども。


金属の音が鳴るのと同時に男が出てきた。

その男は茶髪で、耳にピアスを付けているだらしのない男だ。


「よぉ、今日は採用試験にいくんだよな?」

「まあな...お前も一緒に行くか?」

「へっ!その言葉待ってたぜバカクロ」


俺らは家を出て、会場まで行くことにした。

道中、シャガルは聞いてきた。


「てかどこなんだ?会場は。」

「ダークフォレスト帝国城だぞ、しらなかったのか?」

「ダークフォレスト!?遠いなぁ……。」

「確かに隣の都市だけど道のりは長いよな。」


騎士団の一員になるためにはまず帝国城に向かわなければならない。面接があるからな。

この村からその城までは『キンディノス山道』という

一本道の山道を通らないといけない。

その道のりは長く、五時間ほどかかる。

道中には魔物がいると聞くが大丈夫なのだろうか。


「...あっ!びびってんのか!?」

「え?そんなわけないだろ」


嘘だ。めっちゃこえぇよ。行きたくねぇ。

しかしその願いは届かなかった。


───────────────────────


【キンディノス山道にて】


本当にいくのか?マジなのか?

考え直したりはしないのか?


「お前、大丈夫か?顔色悪いぞ?」

「なぁ、ちょっと考えてもいいか?」

「……やっぱりビビってじゃねぇか。」



シャガルにはバレるよなぁ...

察しがいい所とかやっぱりこいつは俺の親友でよかったなぁと思う。


「この道大丈夫なのか?」

「大丈夫!可愛いガイドさん付きだからな!」

「道関係なくないかそれ。」


さっき褒めたのは無かったことにしてくれ。



──────────────────────────

【キンディノス山道終盤にて】



「可愛いガイドさん、じゃなかったな。」


キンディノス山道の終盤にあたり、ガイドさんは帰って行ったのをはかり、俺は言った。


「……。」


こいつも可哀想なことだ。

なにせ村の奴らが言った冗談らしい...。

内心ざまぁと思ったことは内緒にしておこう。


「ババァじゃねぇか!!!!」

「うるせぇ!!!」


いきなり大声をあげるシャガル。

お前はこういうことしか目がないのか。


ふと気づくと帝国城に着いていた。


───────────────────────────

【帝都ダークフォレスト】

俺達が住んでるミッドナイトより遥かに発達、というか時代が違うように感じられる。

街は人で溢れ、盛んである印象を受ける。

中心部には帝国城が立っていて、紫や黒の紋章が並んで柱に刻まれている。


やはり帝都というだけあり、衛兵や兵士が廻っていた。彼らはよそ者の俺ら二人をにらみつけながら歩いていた。




す、すっげぇ...人いっぱい...。



「ねーねー今日釣りいきたーい」

「この前行ったじゃないの!」

「今日くらいいいんじゃないか?この子の誕生日なんだしな。」



見回しているとそこには

親子3人で歩いている姿があった。


そういえば俺の母親はいないらしい。

親父に聞いてもなんにも教えてくれなかった。

俺もいつかその事実を嫌でも知ることになるのか。

たとえ、それが『望まないもの』だとしても。


「やっぱり帝都って感じだなぁ。可愛い子とかいっぱい居そう。」


そんなことも知らないシャガルは隣で気色の悪い笑みを浮かべている。


「そういう目的じゃないからな?」

「分かっとるわ!てかよ?」


帝都のど真ん中にある帝国城の正門の前に立ってシャガルが疑問を俺にぶつけてきやがった。



「これって勝手に入ったら怒られるんかな? 」

「当たり前だろが、馬鹿か!」

「試験を受けるにはこれに印を付けてもらうんだぞ?」


履歴書のようなものをシャガルにみせ、

その事を簡潔に説明してあげた。


「え、必要なの?」

「おい……」


五時間歩いた結果がこれである。

内心ふざけんなこいつと俺が思ったのは言わずもわかるだろう。


─────────────────────────


【採用試験所】

「入りたいやつは並べ、それ以外は帰れ。」


屈強な男が新人騎士になる者に指導している。

シャガルはクロムに顔を近づけ、声を潜めた。


「ちっ…あいつ偉そうだな...」

「まぁ、偉いからな。大佐らしいぞ」



大佐というのは階級の一つ。


少し説明しよう。

国に直接仕え帝王の命令に従い動く者らを『騎士団』

反乱を鎮圧したり、国を防衛する者らを『兵士団』

という。


一次闇聖戦争までは『魔兵団』があったが解散した。

歴史書かなにかに載ってるはずだから今度調べてみるか。


タスクはその『兵士団』を束ねるうちの一人。

上の階級から大きく分けて将軍、大佐、中佐、少佐だ。


将軍クラスになると極級魔術や特殊な能力が帝王から授与されることがある。

大佐などのクラスの違いは兵士からの信頼、個人の能力で階級が変わる。


はっきりとした違いは給料、かな?



『騎士団』は大隊長、中隊長、小隊長に分けられる。

大隊長は中隊長を従え、中隊長は小隊長を従える

ことになっている。小隊長は分隊を持つ。


俺の親父は昔、大隊長だったらしい。

なんでも『伝説の騎士』だと崇められたりすると聞いたことがある。本当なのか、嘘なのかは知らないが。


この二つの機関は分離しているので、

例えば兵士団の将軍の命令を騎士団の小隊長が聞くのは原則禁止らしい。これは権力集中を防ぐためだ。


じゃあ何故今騎士団の試験に兵士団の人間がいるのかって?

...人手が足りないのか?わからん。


ふと気がつくと大佐はシャガルを睨んでいた。

──その眼光からは殺気さえ感じる。


その屈強な男はタスク。

大きな体からは考えられないが植物系の魔術を完璧に扱うらしい。


タスクは睨みつけた後リストに目を通した。

そしてシャガルを指し、低い声で


「誰だお前は、リストに名前がないぞ。」

「ミッドナイト出身、シャガルです。」

にこやかな笑顔に見えたが少し引きつっているようにも見えた。



タスクはゆっくりシャガルに近づき目の前に立ち強い口調でこう言った。


「なんだその態度は、謝るのが先じゃないのか?」

「...。」

「何故、名簿に名が無いんだ?」


この一言だけでもかなり空気を重くする。

能力かと思ったが生憎そんな能力は存在しない。


「だんまりか。まぁ、いい。許可しよう。

採用試験は特別に受けさせてやる。

だがもし落ちたらダークフォレストから追放だ。いいな?」

「はい。分かりました。」

「ほぉ?相当自分の腕に自信があるんだな 」

「......。」

「今から採用試験を始める!」


タスクは改まって入団する者らの前で怒鳴るように言い、採用試験がはじまった。


────────────────────────────

【試験】


「まず剣術、弓術、武術、魔術の順にテストする」


「五段階評価となり、合計点数が5点以上の場合、騎士見習い。10

点から14点の場合、騎士二等兵。15点以上は騎士一等兵となる。四点以下は不合格だ。至って簡単な話だ。早速実技だが、本物の剣でやり合ってもらう。死ぬ気でやれ。」


つまり、成績によって階級がすぐ決まるらしい。


「ま、まじか...。ど、どうすんだ変態」

もうシャガルを変態(紳士)だと言ったが本人は気にしていないらしい。



「みてろ」


と一言だけ言い放つ。


「さぁ!こい!俺を潰しに来い!」

面接官がそう言っても黙り込みその場にたたずむ


この試験は失敗したら最悪『死』が待ち受けている

それなのにシャガルは立ったままだ。

...まさか緊張してうごけないのか?


「やる気がないなら...死ぬだけだぞ?」

...そう面接官が言うが反応がない。


「…日頃の憂さ晴らしにもってこいだ...死ねぇ!」

面接官は棒立ちのシャガルに向かって剣を抜き振りかざしてきた。



シャガルは軽々と剣を避け、更にまわりこんで面接官の背中に剣で切りつけた。

面接官は手を地面についてしまった。


「うがっ!な、なんだと」

倒れ込んだ隙にさらに一発蹴りを食らわせる。

その瞬間憎しみの目をしていた。

かのように俺は見えた。


「ぐほっ...!や、やめてくれ...」

片手をあげ許しを請う面接官であった、が。



「...死ねっ!」

またまた更に剣を振り上げたが


「やりすぎだ!」

あれが当たれば面接官は怪我どころじゃない。

俺は無意識に声が出ていた。




──クロムの声でシャガルは剣を止める


「自分で言うだけの腕はあるな。

シャガルというガキ、次は弓術だ。」


なんだこの男は...。

目の前で殺されそうになった部下がいるのに...。


タスクは次の場所に早々と行ってしまった。


「シャガル、あれはやりすぎだ。」

「そんなに驚かなくても……クロだって俺とごっこ遊びは何回もしてるだろー?」


反省してないなこいつ。

でもこいつのあんな目……見たことない。


「さ、次いくぞ」

「あ、あぁ」

そう言われてクロムは言葉が詰まった。


俺はシャガルのこんな姿を見たのは初めてだ。

村の奴らが俺の心を知らないのと同じで、

俺はシャガルと昔から一緒なのに何も知らないんだな。


『知らない』というか俺はわかってあげられなかったと言った方が正解なのか……俺には分からない。



────────────────────────────


全ての試験が終わり、成績が発表される。


「うわぁ、なんだこの成績。」

「へぇー俺の方が上だーやった!」


皆はそれぞれ成績に一喜一憂していた


「ご?......え?5点?」

クロムの成績の紙にはっきりと5点と書かれている。

な、なんだこりゃ...!

騎士団には入ることが出来たけど、これじゃ見習い騎士じゃんか!


「当たり前だろ……振り回したり、逃げたり、適当な魔法名唱えて変な空気にしたり……。」


シャガルのやつは俺を見て笑いをこらえてる。

くそったれ!

俺だって一生懸命なぁ!?


まぁ、何もしてないが。


「お、お前は?」

「んー18点、かな」

「じゅ、18点……か……すげえな……。」


採用試験で平均点が大体9点くらい

つまりシャガルはエリート中のエリートである。


「剣術5点、武術5点、魔術3点、弓術5点。魔術クソすぎだな……。」

苦笑いしながらそう言うがな?

……俺は笑えねぇんだよなぁ……。



────ふとした時に俺の鼓膜に爆発音が響いた。


ん?なんだ?いったい何があったんだ?

花火でもやって────ってなんだあれ。

空が煙で真っ黒じゃないか……。

確かあの方角は……。


帝都から数名の兵士がこちらに駆け込んでくる。

彼らは汗をだらだらかき真っ青な顔になっていた。

タスクの前に兵士は片膝を付き、


「タスク大佐!『ミッドナイト』に爆発がっ...」

「恐らく、聖軍の仕業かと...!」


クロムも伝令兵のように血の気がすっーっと引いたような気がした。


故郷が狙われ、襲撃されたのだ。

真っ先にクロムはエミリアとアリスを思い浮かんだ。彼女らは無事なのかと。


「相手の指揮官は誰だ?」

「聖騎士団小隊長ヴァリンだと思われます!」

「宣戦布告は......されておりません...。」

「されてないだと?」


──されてない...?


まて、されてないのか?

戦争なのにか?そんなはず─────。


「分かった、今すぐその村の人々を避難させろ」


非常事態にもかかわらず冷静な判断で行動するタスクを見てクロムはやっとこの男が大佐になった理由を理解した。



「はっ!!」

ぞろぞろと兵士が出向いていく


「貴様ら!早速出番だ!」

タスクが新人達にそう言った。


入隊した直後に戦争参加するんだ、

まわりは「おかしいおかしい」と嘆いている。


しかしそんなことはクロムとシャガルにとってどうでもよかった。嫌いな故郷でも幼少期から過ごした大切な故郷なのだ。


「アリス...エミリアっ!」

何も考えずクロムは走り出してしまった。



──もしエミリアとアリスが...なんて考えたくもない


「おい!隊列を乱すな!出来損ない!」


「俺らにとっての大事な故郷なんだよ..!」

「助けに行くことすら許されてねーのか!?」


タスクに注意されたがシャガルがそれを遮る。


「わ、分かった...!行くなら駐屯所の馬を使え!」

「歩くよりも断然楽だし早い」

「ありがとうおっさん!」

「クロ!馬だ!」


シャガルは走る俺の方まで来て馬に乗っているシャガルの後ろに乗った。



───────────────────────────

【ミッドナイト】

クロムとシャガルらが思い出を育んだ村...

今は...地獄と化していた。


爆発音発生から数時間が経ってしまった。

どこを探しても家族の姿がない。


────絶対に生きてる、生きてるはずなんだ!

「はぁ...はぁ...アリス!エミリア!どこだ!」

「ちっ...あっちにもいねぇよ...」

合流したシャガルも家族が見つからなかったようだ。


周りを見渡すと焼け焦げた死体と建材のみ

死体をよく見ると近所に住んでいたおばさんや今朝会った鍛冶屋のおじさんなどが見るに堪えない姿であった。


臭いもきつい

生き物の焼き焦げた臭いと煙が混じり吐き気を催す。

そして煙で苦しい。

───涙は枯れ果て、絶望しか目の前に無かった。


「ん?誰かいる...隠れろ!」


シャガルは瓦礫に隠れるように

瓦礫の隙間から多数の兵士が見える。

あの国旗...聖軍だ...。

なんでなんだ?停戦したんじゃ...!


「もう生き残りはいませんよ全滅ですクリア様。」

背の高い男がそういった。

「ヴァリン、よくやった。」


その男の名は一度聞いたことがある。


『聖騎士団小隊長・ヴァリンだと思われます!』


そう、故郷を破滅へ追い込んだ奴の名だ。

俺は死ぬまで思うだろう。


───復讐してやる、と。



「気持ち悪いドブネズミを死滅出来て良かったよ。」

この言葉を吐いたのはクリアという男らしい。

ヴァリンの態度を見るところかなり位は高いな。


「私の魔法じゃあ村一つなんて朝飯前ですよ」

と笑いながらそう言った。


───殺してやる。

それに類似する感情しか湧いてこなかった。


「それでは失礼するよ」

「はっ!!」

とヴァリンは礼をその男にした。

俺は腹が立ち、瓦礫の一部を蹴った。


悔しい...村の人々が焼かれる姿を見るだけの傍観者になるだけで、何も出来なかった自分が悔しい。

その感情が露になり瓦礫を蹴ってしまった。


「ん?おや?」

男は何かに気づいたのかあたりを見渡す


「やばい!気付かれたか!?」




───見つかったら終わりだ


──────死にたくない


早く、その場から離れたい。

恐らく爆破魔法に当たったら即死、生き残ったとしても奴隷、どちらも俺は嫌だ。





──俺は何も出来ないまま、逃げることしかないのか。








だが俺は『なにか』に躓いて転んだ。

痛い、膝が血を出している。

なんだかすり傷程度か...早く行かないと...


「おいっ何やってんだばか......っ!」

シャガルはこちらに呼びかけ───静止した。




その『なにか』

それは死体。


焼け焦げた───タスクだった。

死体の周りを見るとその部下らしき亡骸がある。

闇黒軍の国旗も。引き裂かれた軍服も。


タスクは早くミッドナイトに着き避難を催していたが丁度爆発に巻き込まれてしまったらしい。


タスクは死んでいて言葉を発さない。

クロムはこの時点で死を覚悟せざる負えなかった。


──そう思ったのが束の間、煙によって2人は気絶してしまった。

ここまでありがとうございます

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