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死神  作者: らくご者
7/13

死神7

少年が覗き込んでいた部屋には死神のおじいさんがいました。部屋には他にも人影がありますがその影は死神ではなく人間のようです。そして死神が見えているのは少年だけで部屋にいる他の人間は、死神の存在には全く感づいてはいないようです。

「やあ、死神がいるぞ。誰か死にそうなのかなあ。でも病人がいる様子でもないし、寿命がつきそうなじいさんやばあさんがいる様子でもないなあ。ええと、部屋にいるのは、さっきマンションに来たお兄さんがいるなあ。何だか怒っているようだ。誰かに詰め寄っているぞ。どれどれ、相手はっと、うわっ、綺麗なお姉さんだ!これは動いている姿を映像にしても華がありそうだし、一瞬を切り取って写真にしても目を引きそうだなあいやあいいぞ、これは注目されそうだ」

少年が事の行方を固唾を踏んで見守っていると何やら男が女を攻め立てています。少年は思わず圧倒されています。

「ええっ! あの女は男にそんなにひどいことをしたんだあ。いやあ、それじゃあ男が怒るのも無理ないよなあ。しかも女はまるで悪びれる様子もなく平然としているよ。どうするのかなあ、相手の男は。どう考えても女の方に非があるよ。やっちゃえよ、このままじゃあ男には立つ瀬がないよ。あっ、男がかっとなって手近にあった固そうな花瓶を女に向けて振りかざした。いいぞ。そのまま殺しちゃえ。駄目だあ、躊躇しちゃった。けど女はまるで怯んじゃあいないや。それどころか『やれるものならやってみなさいよ』なんて挑発しちゃってらあ。おっと、男がまた花瓶を振り上げた。そうだ、そんな女やっちまえ。男なら勇気を出せ。あーっ! やったぞ、いいぞ! 女を花瓶で殴り倒した! まさしく犯行現場だ。おっと、死神さんが女のところに近づいて行くぞ。頼むから女の頭の方に行ってくれよ。その女には死んでもらわなくっちゃあ困るんだ。間違っても足元になんて行ってくれるなよ。そんな最低の女を生き延びさせるなんてなしにしてくれよ。やったあ! 頭に行ったぞ。これであの女は死ぬ事間違いなしだ。僕は今殺害現場を目撃しているところなんだ。駄目だ。男が救急車がどうとかこうとか言っているぞ。自分のしでかしたことを後悔しているみたいだ。いや、そんな必要はないよ、お兄さん。その女は死ぬんだよ。僕が保証するよ。救急車なんて呼ぶ必要はないよ。あっ、今度は警察がどうとかこうとか言っている!ダメダメ、自首なんて問題外だよ。お兄さんにはこのまま逃げてもらってそのあとで僕によって、犯人に仕立て上げさせてもらうんだから」

少年が最低極まりない考えを張り巡らして居ると、男は考え込み始めました。少年はそれを見て一安心です。

「そうだよ。それでいいんだよ。警察に自首なんてしちゃ駄目だよ。おやおや、何か良いことを思いついたみたいだ。ええっ、そんなものをそんな風に使うのかい! 確かにそうしたら犯人が誰でどうやって犯行をやったのか皆目見当がつかなくなると思うけども。ううん、これは完全犯罪になっちゃうかもしれないなあ。あっ、男が部屋を出ようとして居るぞ。こうしちゃあいられない。隠れなきゃあ」

少年が息を潜めたその矢先に男はその場を走り去っていきました。少年は一安心しましたが何やら部屋の中が騒がしくなってきました。

「何だか部屋がうるさいなあ、わあ、殺されたお姉さんと死神さんが言い争って居るぞ。まああのお姉さんの気持ちもわかるよなあ。おそらくいきなり目の前に見知らぬおじいさんが現れて自分は死神だとか、あんたは殺されたとか、お前をあの世に連れて行くに言われて居るんだろうなあ。そりゃあ、はい、そうですかとおとなしく従いたくはないよなあ。まっ、僕には関係ないや。僕には女を殺してそのまま犯行を隠蔽して自主もせずに逃げていった卑劣で卑劣で仕方がない男を真犯人として暴き出す崇高な使命があるんだからな」

少年は自分が正義の味方にでもなったかのような気分です。少年は部屋の騒ぎには目もくれずにその場を去っていきました。


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