死神5
少年はそこらじゅうを鵜の目鷹の目で睨み回しています。
「死神さん、死神さーん、どこかにいらっしゃいませんか。今、まさに生きている人間が死んじゃってその死人をあの世に連れて行くところじゃあありませんか。おっ、いたぞ、青白い顔をした死神さんが」
少年は新しい死神を見つけるとすかさずついていきます。
「さてさて、一体全体どんな死にそうな人間がいらっしゃるんでしょうなあ。あっ、死神が一軒家に入っていったぞ。どれどれ、ちょっと窓から覗かさしってもらってと、あちゃあ、これじゃあダメだ、よぼよぼのおばあちゃんが大勢の親類縁者に囲まれていらっしゃる。これじゃあダメだ、はい次々」
少年は次の獲物を見つけにいきます。
「死神さん、死神さーん、どこかにおいでになりませんか。何かこう、マスコミ受けしそうな大金持ちの旦那さんをあの世に連れていきそうな死神さんはいらっしゃいませんか。ややっ、いたぞ。さっきとは別の景気の悪そうな顔をした死神さんが」
少年はまた、別の死神についていきます。
「どらどら、今度はどういったことが起こるんでしょうなあ。わあ、死神が貧乏たらしくって小汚いマンションの一部屋に入っていったぞ。なんだか玄関に金返せ、とかいろいろスプレーで書いてあるなあ。あの部屋は、三階だな。裏に回れば部屋の様子が見えるかもしれないぞ。ちょっと回ってみてと、うわっ、人が首を吊るところだうへっ、椅子から飛び降りて天井にくくりつけた縄で首を吊っちまった。やなものを見ちまったなあ。今まさに首を吊ったところだったよ。まだブラブラ揺れてらあ。前に死神さんが首を吊っているところを見たけども、いや、見たからこそわかる。あれは死神じゃあない。本物の人間の首吊り死体だ。間違いないや。まあ生きるか死ぬかはわからないけれども自殺じゃあなあ、やっぱり名探偵といったら『犯人はお前だっ』て奴をやりたいよなあ。はい、次々」
少年は一度は医者を志して医学部を希望していたにもかかわらず、救えるかもしれない命を放っておいて次の死神を探しにいきます。




