死神3
死神と別れた少年は歩きながら考えこみます。
「それにしても変な話だったな。あのおじいさん、ああは言っていたけども本当なのかな。本当だとしたらこれはすごいことなんじゃあないのかな。確かにさっき僕が言った通り医師免許を持たずに医療行為はできないから、お医者さんにはなれないけれども死ぬ人間と生き残る人間を区別できるのなら、こいつを利用して一つ金儲けができないかなあ」
少年がそう呟きながら歩いているとさっきまで一緒に話していたような血の気のない顔をしたおじいさんが歩いていて、少年は不思議に思います。
「あれえ、今の今まで話していた死神さんじゃあないか。今別れたばかりなのに一体どうしたんだろう。いや、違うぞ、さっきのおじいさんじゃあない。別のおじいさんだ。どういう事なんだろう。ちょっとついて行ってみよう。しかしまた、普通の人間とはどこか違う感じがするなあ。やっぱり、それが死神の死神たる所以なのかなあ」
少年はそう考えてさっきの死神とは別の死神らしきおじいさんの後をついていきます。
「あのおじいさんも死神なのだとしたら、今にも死にそうな人が近くにいるってことなのかな。いやあ怖くっていやになるなあ。おや、あんなところに人だかりが、あいつは何なんだろう」
少年は自分が見つけた人だかりに近づくとその外側の見物客の男に尋ねます。
「ねえ、ねえってば。これはその、何の騒ぎなんですか?」
見物客は親切に教えてくれます。
「ああ、ほら、そこでね、若い兄ちゃんが頭から血を流して倒れているんだ。いったい何があったのかねえ。今ね、救急車が来てね、救急隊員が病院に運ぼうっていうところさ。それにしてもあの倒れているお兄ちゃん、意識がないみたいだよ、大丈夫かねえ」
そう説明されて少年が倒れている男性を見ると傍らにさっき自分が後をつけていたおじいさんがいます。
「あっ、あのおじいさんは。死神みたいなおじいさんだ。もしあのおじいさんが死神なんだとしたら、そうだ、頭のほうにいるか足のほうにいるかであのお兄さんが生きるか死ぬかわかるはずだ」
少年が死神の居場所を確かめると倒れている男の足元にいました。
「おっ、足元にいるなということは死ぬわけではないな」
少年はそう判断すると様子を教えてくれた見物客にそれを教えます。
「大丈夫だと思いますよ。たぶんだと思いますけど、死にはしないんじゃあないかな」
見物客は信じられないといったふうに問い返します。
「なんであんたにそんなことがわかるんだよ、あんた、医者か何かかい? だったら早いとこ救助の手助けをしてやんなよ」
少年はいやいやと首を振ってこたえます。
「いや、お医者さんではないんですがね」
それを聞いた見物客はあきれて言います。
「医者じゃないっていうのならなんでまた死にはしないなんてことがわかるんだよ。って救急隊員が騒ぎ出したぞ。わっ、倒れていたお兄ちゃんが意識を取り戻したみたいだ。すげえ、なんであんたにわかったんだ」
最初はあきれていた見物客でしたが、倒れて頭から血を流していた男の意識が回復すると一転、興味津々という様子で尋ねてきたので少年はまずいと思って言葉を濁します。
「いや、まあ、何と無くですよ。じゃあこれで僕は失礼します」
少年はそう言ってその場を去りました。後に残された見物客は呟きます。
「変わったやつだなあ、しかしなんでまた死にはしないってわかったんだろう」