死神13
これでこのお話は完結します。せっかくだからサブタイトルは『死神13』で終わらそうと思い最後は少し長くなってしまいました。それでは今までご拝読してくださった皆さん、どうもありがとうございました。
少年がまるでちんぷんかんぷんだという様子でいると死神が親切に説明してくれます。
「いや、ほら、教えたあじゃあないか。あたしとお前さんが初めて会った時に。ほら」
死神はそう言いますが、少年はまるでピンときません。
「知りませんよ! 死神さん! そんな呪文なんてものは! 全然教えてもらってません!」
少年の抗議も死神にはまるでこたえません。
「そうだっけなあ。ああ、そういやそうだったねえ。思い出したよ。そうだった。そうだった。あたしは教えてあげようとしたじゃあないか。それなのにお前さんは、医学部の入学試験がどうとか、無許可だったらお縄を頂戴だとかこうとか言って、あたしの呪文を聞こうともしなかったじゃあないか。これはお前さんが悪いよ。呪文を聞いて覚えようとしなかったお前さんの責任だね。お前さん、気の毒だけどこのままお陀仏だねえ」
死神によると少年はこのまま死んでしまうそうですし、それも自業自得だということです。少年は諦めきれません。
「そんな! お願いします! じゃあその呪文! 今教えてください! 今すぐに!」
少年の手前勝手な要求でしたが、死神はにべもありません。
「いや、だめだよ。今更遅いよ、しかしまあ残念だねえ、あの時呪文を聞いていればねえ。呪文を教えてくださいってなってお前さんが頼んで、あたしがその呪文を言っていればねえ。それを期待している人も大喜びだったろうにねえ」
死神は少年の顔から視線を上げて周囲を見渡しながら言います。少年はもはや阿鼻叫喚といった有様です。
「何昔のことをいまさら言ってるんですか! 何ですか! 期待している人って! どこにそんな人いるんですか! わけのわからないことを言わないでください! それよりも! 僕が死ぬだなんて! そんなこといわずに、どうか、どうかお願いします!」
少年は願いもむなしく、死神は頑として首を縦には振りません。
「駄目駄目。世の中そんなには甘くはないんだよ。ところで、これなんだと思う?」
死神が懐から何かを取り出したところ、少年はそれをしげしげとみて答えます。
「それは? ろうそくですか? なんだかずいぶん残りが少ないような気がしますが? でも、それはこんなところで見せてはいけないもののような気がしますが? もっと、こう、暗い洞窟みたいなところとかで見せてくれたほうがいいような気がするんですが、死神さん?」
少年の問いに死神はきょとんとした様子で答えます。
「暗い洞窟って、人のことをわけのわからないことを言うってお前さんはおっしゃいますがね、お前さんはお前さんでわけのわからないことをいうねえ。まあいいや、お前さんはそんなふうに腹を刺されてこの先長くないみたいだからね、こちらものんびりしてはいられないんだ。というわけだからね、もうこの場でね、ろうそくをだね、出しちゃうんだよ。ほら、このろうそく、短いだろう。これはね、お前さんの寿命を示しているんだよ。実はね、ちょっと前まではね、もっと長くてね、このまま普通に燃えてればね、後十年、二十年は燃え続けていたんだろうがね、お前さん、最近のところずいぶん派手に人生を謳歌していたみたいじゃあないか。そんな花火みたいにね、人生ぱあっとやっていたらね、そりゃあろうそくも派手に景気良く燃えてしまうよ。だから、ほら、このありさまさ。これじゃあ、ろうそくもあとわずかだねえ。せいぜい燃え続けてあと五分って言ったところだねえ。さあ、お前さん、せいぜいこの火が消えないようにするんだよ」
死神の突然の残りの寿命宣告に少年は何をどうしたらいいのかさっぱりわかりません。思わず少年は大声を出してしまいます。
「ひどいっ、あと五分だなんて!」
少年のわめきたてに死神はけらけらと笑って答えます。
「いいのかい、そんなふうに大声を出して? そしたらろうそくの火が、お前さんの息に吹かれて消えちまうかもしれないよ」
少年はもう生きた心地がしません。
「ああ、それもそうだ。でもどうしよう? このままじゃあ火が消えちまう。ああ、消える、消えちまう」
死神は楽しくて楽しくて仕方がないといった様子です。
「ほら、消える、消えるよ。でもね、ほら、ここに新しいろうそくがあるよ」
死神は懐から別の真新しいろうそくを取り出します。
「この新品のろうそくにだね、そのいまにも消えちまいそうなお前さんのろうそくの火をうまくつけられればだね、お前さんはもう少しは生き延びられるかもしれないねえ」
死神の提案は少年にとって一筋の光明です。
「そうなの! それを早く言ってよ! 死神さんじゃあ、その二つのろうそく! 早く頂戴!」
少年はそう言って、死神からろうそくを二本とも奪い取り、燃え尽きそうなろうそくの火を使って新しいろうそくに火をつけようとしますが、何せ、おなかにナイフを刺されているうえに、ついさっきまで死神に散々脅かされてきたので、手が震えて、ちっとも思うようにはいきません。
「くそっ、ちっともうまくいかない! ほら! 火! ついてくれよ! 頼むよ! つかないと死んじゃうんだよ!」
少年の悪戦苦闘ぶりに死神は大喜びです。
「ほらほら、どうしたい、火、つけないのかい。つけないとお前さん、死んじまうよ」
死神がからかっていると、妙なことが起こるもので、少年は火を新しくつけることに成功しました。
「やった! できた! できたぞ! ほら!死神さん! 見てください! ついた! つきましたよ! これでいいんでしょ! これで僕はまだまだ生き延びられるんでしょ!」
大喜びの少年を見て、死神は信じられないっといった具合です。
「おや、うまく行っちまったねえ、こりゃあ、ちょいと困ったことになったねえ」
死神の様子に、少年は納得がいきません。
「何ですか、困ったことって、僕が生き残ることがどうして困ったことになるっていうんですか?」
少年が戸惑っていると、今度は別の死神が現れました。
「駄目ですよそんなことしてちゃあ、大体なんですか、そっちの死神さん。さっきから嘘八百ばかり並べたてて、その少年は本来もっと生きられたはずだとか、派手にやったせいでろうそくが一気に燃え進んじゃったとか、人間の寿命ってのは、あらかじめ決まってるんですよ。寿命がその人の行動によって伸びたり縮んだりはしませんよ」
突然現れた二人目の死神の宣告に少年はもう茫然自失です。
「そんな! 全部嘘だったんですか!」
少年の叫びに一人目の死神は笑いながら謝ります。
「いや、ごめんごめん。おまえさんの慌てふためきようがあんまりにも面白いものだからね、ついついからかっちゃったんだよ」
一人目の死神のあんまりといえばあんまりの物言いに少年は猛抗議をします。
「ひどい! からかったって! じゃあ火を新しくつけられれば生き延びられるっていうのも嘘なんですか!」
少年の詰問に今度は二人目の死神が答えます。
「いや、そいつは本当だよ」
その言葉は少年にとっては何よりもありがたいものでした。
「えっ、本当なんですか、じゃあこれで僕はまだまだ生きられるっていうわけなんですか」
少年は嬉しそうな言葉ですが、二人目の死神は渋い顔をしています。
「そうですよ、寿命が延びちゃったんですよ、だからまずいんです。さっきも言った通り人の寿命ってのはあらかじめ決まってるんです。だから、たとえ、ろうそくの火を新しくしたとしてもね、死ぬはずだった人がですね、生き残られるっていう事はですね、駄目なんです。だからですね、こんなものはですね、こうしちゃいましょうね」
そう言って二人目の死神は、少年が必死の思いで新しくつけたろうそくの火にふっと息を吹きかけてしまいました。少年は再び死にそうになってしまいました。
「ああっ! そんなことをしちゃあ! 僕の寿命が! 僕がさっき奇跡的に伸ばすことに成功したこれから輝かしい未来が約束された僕の寿命が!」
少年の絶叫に一人目の死神はすまなさそうに答えます。
「そういうわけなんだ、お前さん。寿命ってのはね、前もって決まってるものなんだ。だからね。お前さんがさっきまでやってたね、火を新しいろうそくに一生懸命つけようとしていたことはだね、なんの意味もなかったてことなんだ」
その無慈悲さに少年はなす術がありません。
「そんなあ、それじゃあ、このろうそくの火はこのまま消えちゃうのかあ」
少年はもはやろうそくの火が消えていくのをながめることしかできません。
「消える……消えるよ……ああ、消える……」
少年はろうそくの火が消えると時を同じくして死んでしまいました。
これで完結です。最後までご拝読してくださった方々全員に厚くお礼を申し上げます。




