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死神  作者: らくご者
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死神1

 古典落語の代表演目である『死神』の時代設定を現代にしてパロディにしました。『死神』は、『昭和元禄落語心中』や、『超入門!落語 THE MOVIE』で扱われていたので、ご存知の方も多いと思いますが、そこで『死神』が面白かったという方はもちろんのこと、落語の『死神』をご存じないという方も何らかの方法で『死神』という落語の内容を知ってもらって、このお話をご拝読いただければ幸いです。

 

 受験戦争、なんて言葉がございますな。

 今の高校生の皆さんはいろんな大学を目指して勉学に四苦八苦なさっています。 

 しかしながら大学といってもピンからキリまでございまして、その中でも難しいところはどこかといいますと、たとえとして一つあげますれば医学部、なんてのがございます。

 お医者先生ともいいますように、医者、というのは先生と呼ばれるものでして、じゃあなんでそういわれるのかといいますといろんなことを知っていなければならない。そのためにはいっぱい勉強しなければならない、というわけでございまして。 


「あーあ。高校の先生が『お前は成績がいいんだから医学部でもめざしたらどうだ』っていうもんだから、何校か受験したのはいいけれど、全部落っこちまったよ。まあ、別にどうしても医者になりたいっていうわけじゃなくて、先生の言われるままに志望校を決めたわけだから、まったくモチベーションが上がらなかったもんな。こういう結果になるのも当然といえば当然か。ちえっ、面白くもなんともねえや。何か漫画みたいな愉快なことでも起こらないかな。それともいっそのこと首でもつって死んじまおうかな」

 というわけで、大学受験のすべてに不合格となって自殺でもしようかという少年がとぼとぼ歩いているとちょうど手ごろな街路樹を見つけます。しかしその街路樹には何かがつるされてぶらぶらしているのでした。

「おや、あんなところにちょうどいい感じの木があるよ。でも、あそこの木には人間みたいなのがつられているな。先客っていうわけでもあるまいし、まさか俺みたいなのが大学受験に失敗したのを悲観して首をつっているわけでもないだろうな」

 少年はその正体を確かめてみようと木に近づいていきます。何やら人間の背格好をしたものが真っ黒な着物のようなものを羽織っていて、それが首吊死体のように木に引っ掛けられた縄に首をくくられてゆらゆらゆられています。

「見れば見るほど人間みたいだな。それも木で首をつっているような……って、ありゃあ、本物の人間じゃあねえか。もう死んじまっているのかねえ。俺はただの医学部を何となく志望した高校生だからろくな治療もできやしないよ。生きていてぴんぴんしているなら生きている、死んでいてもう手の施しようがないのなら死んでいるとはっきりしているとありがたいんだが。どちらかはっきりしていないともう弱りに弱っちまうよ。このままなにも見なかったことにしてこの場を立ち去りたいのはやまやまだけどそんなことをして化けて出られたらそれこそたまったもんじゃねえ。ここは勇気を振り絞って、どれ、お顔を拝見させていただきますよ」

 少年は意を決して木にぶら下がっている何かの顔を覗き込むとそこにいるのは血の気の全くないおじいさん。少年は一目でそのおじいさんは死んでいると思いました。

「ひえっ、こりゃあ間違いなく死体だあ。こんな風になっちまってたら医者がどうこうっていう問題じゃねえや。もはやお坊さんや葬儀屋さんの領分だね。それにしても漫画みたいなことが起こってほしいとはおもったけど、どうせならかわいい女の子がたくさん現れて俺のことをちやほやしてくれるハーレム漫画みたいなことが起こってほしかったけど,まさか殺人事件が起こるミステリーが起こるとは思ってもみなかったよ。やれやれ、どうしたものかねえ」

 少年が途方に暮れていると、そのおじいさんがいきなりしゃべりだしました。

「死んじゃいねえよ」

 とっくの昔にお陀仏になっていたと思っていたおじいさんが口を開けてしゃべりだしたものだから少年は驚くも驚かないもありません。

「げっ、死体がしゃべった。ミステリーじゃなくてホラーだったよ。助けて、殺さないで、まだ死にたくはないよ。おねがいします」 

 少年がぶるぶる震えながらそのおじいさんに頼み込むと、おじいさんは答えます。

「別にあんたを殺しはしないよ。あたしはただ最近腰の調子がよろしくないからこの木に縄をつるして、そいつに首をひっかけてひょいとぶらさがって背筋を伸ばしていただけさ」

 そのおじいさん、まるで首吊死体のような形で木にぶら下がったまま話すものだから少年はすっかり動転しておっかなびっくりです。

「わかった。わかったからとりあえずその木から地面に降りてくれねえかな。そういうふうに木にぶら下がったままでいられるとどうもおちつかなくていけないよ」 

 おじいさん、意外にあっさりと了承します。

「そうかい。まあ、結構長い間ぶら下がっていたからね、とりあえず降りるとするかね」

 おじいさんは地面に降りて、少年と二人むかいあってとりあえず自分ひとり地面に直接座って少年に話しかけます。

「まあ、あんたも座りなよ。あたしだけ座ったままで、あんただけ立ちっぱなしというものもかっこうがつかないしね」

 そうおじいさんにいわれて少年も腰を下ろして二人対面して座るという形になりまして、少年はやっとのことで一呼吸ついておじいさんに問いかけます。

「で、そちらさんはいったいどこのどなたなんですか。そのお顔の血の気のなさはどこをどう見ても普通の人間には見えませんが」

 おじいさん、素直に答えます。

「あたし? あたしは死神だよ」

 なんと、首吊死体だと思っていたおじいさんは死神だったのです。


 


 



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