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7、いやいやオトナだし。


 私の腕をわしっとつかんだアルスは痛みで顔を歪める。

 いつのまに帰ってきたのか元邪竜ジルベスターの褐色の手が、彼の腕をしっかりとつかんでいたからだ。


「ヴィーに触れるな」


「くっ……誰だ、お前は……!」


 相当な痛みだろうに、アルスは私の腕を離さない。

 幼馴染であり、兄のような存在であるアルスはいつでも私のことを守ってくれていた。

 それでも……私は神殿に戻るわけにはいかない。


「俺はヴィーのものだ」


「は?」


「ヴィーには多くの初めての経験を与えられた。俺の全てを捧げた唯一の存在であり、俺の全てである」


「は、初めての……経験……だと? しかも愛称で呼ぶとか……まさか!」


 そりゃ、自分の急所(金的ではない部分)をさっくり刺されたとか、誰も経験したことないだろうよ。

 なぜか頬を染めたアルスは、私を頭からつま先までじっくりと舐めるように見る。

 違うから。そういうんじゃないから。思春期男子の妄想うぜぇ。


「ゆえに、ヴィーがこの場所にいたいと言うならば、俺は全身全霊で彼女の願いを叶える。それが竜族のつがいとしてやるべきことだからだ」


「オリヴィアの願い?」


 ジルベスターの言葉に、アルスは少し冷静になったようだ。つかんでいた私の腕から手を離すと、真っ直ぐにこちらを見てくる。


「そうだよアルス。私は望んでここにいる……ていうか、神殿から逃げてきたの」


「逃げてきた?」


「ちょうどいいね。ジルもエルヴィンも聞いてくれる?」


「お、俺をジルと呼んでくれた!?」


「羨ましいです父上」


 うるさいよ。ジルベスターって呼びづらいんだよ。

 でも満面の笑みでシャツからはみ出る大胸筋をピクピクさせているジルベスターは、めちゃくちゃ可愛いから美味しくいただきました。(脳内で)


「んんっ……えーと、私は神殿から逃げてきたっていうよりも、大神官様から逃げてきたの」


「あの胡散臭い美人に、何かされたのか?」


 胡散臭い美人って……まぁ、確かにあの笑顔は胡散臭かったけどさ。


「何かされたっていうか、どう言えばいいのか……礼拝の時、こよりを使って私をくしゃみさせようとしたり、顔を近づけてハァハァしてたり、私のくしゃみを浴びて恍惚な顔をしていたり……」


『変態じゃないか!!!!』


 男三人で声が揃っているけれど、割と君たちもアレに近い存在だと思うよ?


「まぁ、そういうわけで身の危険を感じた私は、ここまで逃げてきたってわけ」


「そうだったのか……でも、神殿からオリヴィアがいなくなったとか、そういう話は出ていないと思う」


「隠しているのかな?」


「きっとそうでしょう。救国の聖女が姿を消したなど、神殿の不祥事になりますからね」


「ええ? ひらの神官一人いなくなったところで、騒ぎにならないでしょ?」


「知らないのかオリヴィア。俺とイアンと共に『救国の三大英雄』と国中に通達されているんだ。俺は王家、イアンは魔導師協会、オリヴィアは教会が保護することになっている」


「ええ!? いつのまに!?」


「俺やイアンはある程度力もあるから、報告すれば行動の自由はある。でもオリヴィアは祈ることしかできない神官だ。教会が保護するか、俺らみたいな強い人間を護衛にしないと外出もできないはずなんだぞ」


「マジかー」


 邪竜討伐後の神殿にいる間だけじゃなく、修行時代も勝手に一人で抜け出して、屋台で買い食いとかしていたんだけどなぁ。まさかそこまで自分が重要な位置にいるとは思ってなかったよ。

 あ、もしかしてマリアさんが責められてたりして……どうしよう……。


「オリヴィアの不在は聞かないが、問題の大神官様が倒れたって話は聞いたぞ」


「そうなんだ。天罰かな」


「容赦ないなヴィーよ。うむ、そういうところも愛らしい」


 ジルオッサンのドM発言はともかく。

 秘匿されている私の不在は、神殿で問題になっているんだろう。そして、大神官様が倒れたからといって、神殿からの追っ手がないわけではなさそうだ。


 ん? ちょっと待てよ?


「ねぇ、アルス」


「なんだ?」


「ここに来ること、誰かに言った?」


「そりゃ、俺が遠出するんだから、国に届け出をしているぞ」


「マジか……」


 ということは、早くここから出る必要があるということか。

 せっかく住み心地がいい場所だったのにとエルヴィンを見れば、申し訳なさそうに小さくなっている。

 しょうがないよね。事情を話していなかった私も悪いし。


「ヴィーよ、ならば俺の住処に行くか? ここと同じ造りになっているから住み心地は変わらんと思うぞ」


「ジル! 愛してる!」


 思わず飛びついた私を、しっかり熟成された大胸筋と上腕二頭筋で受け止めてくれるジルベスター。

 しかしその顔は褐色にも関わらず真っ赤になっている。


「ずるいです父上!」


「おい! 元邪竜! オリヴィアのちっぱいを押し付けられて赤くなるとか、さてはロリコンだな!?」


 それはお前だけだ。ロリコン勇者め。

 くそっ、早く合法ロリから脱却したいっ……!!




お読みいただき、ありがとうございます!

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