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1、出さないと気持ち悪いでしょ?

あけましておめでとうございます。

短めです。

楽しんでいただければ幸いです。

 邪竜の討伐、これが私たち三人の最終目標だった。

 山のように大きな邪竜は、本来穏やかな気性である竜が狂ってしまった「成れの果て」だ。

 このまま邪竜が暴れ続けると世界が滅びてしまう。

 狂った竜族は、命を失うことでしか暴走を止めることができない。それでも悲しみの中、討伐を望む竜族の人たちの協力を得て私たちはここまで来た。


 聖剣に選ばれし勇者アルスと膨大な魔力を持つ魔法使いのイアンは、すでに半日以上戦い続けていた。

 神官である私は今日何十回目になるだろうか、神に祈りを捧げて聖なる力を行使する。


「勇気ある者たちに神の祝福を!!」


「ありがとうオリヴィア! これでまた戦える!」


「僕の魔力も回復しているよ。さすがオリヴィアだね」


 彼らの体力、魔力を回復することはできても、私を取り巻く状況は良いものではない。

 長時間の戦闘は、精神力との戦いでもある。この状況で自分の身を守りながら聖なる力を行使するのは、さすがにもう限界に近づいていた。


 体力? いや、そこはまだまだいける。

 毎日地獄のような修行の末に得た聖なる力。

 本来、ほんのひと握りの神官にしか行使することはできない力を私は持っている。

 そしてそれを得るために続けた修行のおかげで、私はゴリラ並みの体力をもつ女だと自負している。(ゴリラ並みの女って女子としてどうなのとか、そういう話をする子は知らない子だよ)

 

 魔力? いやいや、私は魔力を持っていない。

 聖なる力は、祈りの力だ。むしろ体力だ。

 神への思いが強ければ強いほど、純度の高い力が行使される。その祈りは「肉食べたい!」でも「今日はデザートが出るといいな!」でもいいのだ。なぜか私は人一倍この「祈り」が得意だったりするんだよね。解せぬ。


 ならば何に不安があるかって?

 だから言ってるでしょ。この状況だってことを。


「すまん! オリヴィア避けてくれ!」


「わかった!」


 邪竜が振り回す尻尾が、屈んだ私の上を通り過ぎる。そこから少し遅れて舞う土ぼこりに、私は思わず息を止める。

 だめだ。このままじゃ……。


「オリヴィア!?」


 イアンの悲鳴のような声が聞こえたけど、私はそれどころじゃない。

 そもそも、なんでこんな場所で戦うことになったのか。

 もうもうと立ちこめる土煙に、とうとう私の鼻が限界となった。




「ふぇ……ふぇ……ふぶえぇぇぇええええっくしょおおおおおおおおおおおおいぃぃっっちくしょおおおおうっっ!!」




 ……あ、鼻水が出ちった。ずび。

 慌てて左手でポケットをあさり、ハンカチを取り出す。右利きなんだけど、杖を持っているから左手を使わないとなのよねー。


 あれ? おかしいぞ?

 さっきまで私、右手に杖、左手に短剣を持っていなかった?

 短剣をどこに置いたんだっけと、気づけばやけに静かになった周囲を見回す。


 勇者アルスも魔法使いイアンも、なぜか私をジッと見ている。え? なになに?

 そしてさっきまで狂ったようにガオーガオー叫んでいた邪竜も、どこか落ち着いた様子で私を見ているように思える。


「え? 何? もしかして鼻水ついてる?」


 それはちょっと恥ずかしいなぁとニヘニヘしていると、アルスの向こうで動かない邪竜の喉元がやけに輝いているのが見える。


 ん? もしやアレって、私の短剣じゃない?

 やっだー、もーう、なんであんな所にあるのよーう!

 くしゃみした時に手から飛ばしちゃったとか? いやーん! こっぱずかしいよー!


 すると。

 邪竜を覆っていた、黒いモヤのようなものがブワッと四散する。


「聖剣でも傷ひとつつけることのできなかった鱗に、オリヴィアの持っていた短剣が刺さる……だと!?」


「この光……まさか、この大きな邪を払っている? もしかしてオリヴィアの聖なる力が、短剣を強化していたとか……いやまさか……」


 ぶつぶつ呟いているイアン君は何か分析しているみたいだけど、私にはさっぱり理解できない。うん、よく分からないけど、邪竜が動かなくなったからいいかな? いいよね! いいってことにしようぜ!! フッフー!!


 お城くらい大きかった邪竜がどんどん小さくなっていく。

 呆然とそれを見ているアルスとイアン。彼らの後ろでこっそり鼻水をすすり続ける私。




 こうして世界は、救われた。




 私の「くしゃみ」によって。

お読みいただき、ありがとうございます。

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