魔王と状況報告
罵り合いというじゃれ合いを止めて、俺たち全員は部屋の中央にある円卓を囲んで座っていた。
「んじゃ本命の会議といこうか。さっきリュミエール爺さんが喚いていたけど、要するにまたガラドの馬鹿がやらかしたんだろ?」
「もうあの小僧なのは確定なんじゃな…」
「お前から小僧って言われるガラドって哀れだな……まあ彼奴なのは、ほぼ確定だろうな。なぁ、リュミエール爺さん?」
「いかにも、またあの馬鹿がしでかしたのじゃ」
現にガラドが何かをしでかすのは今や定番中の定番。でなけばリュミエール爺さんが喚く理由がない。アイツは今までに各国に領土拡大のために各大陸に侵略していった。しかしガルドは指揮が苦手なのか、戦場に出たことがないのか全ての戦いは全戦ボロ負け。だが諦めが悪いのか、大陸にあるいくつかの村を攻め、ここは我らの領土と宣言。それに対して各大陸、国や町、村中が激怒。そして大陸中を敵に回して返り討ちに遭うの繰り返し。まあ、いつものことだ。それからというもの全ての大陸から交流を拒否られた。日本でいう鎖国状態だ。
「で、今回の会議の内容が書いてある資料は…」
「「「「こちらに」」」」
「おおぅ…サンキュ」
各陸王の後ろに控えていたメイド達から資料を渡され目を通す。えっと……赤メイドからは、ペッパードラゴンの肉の流通量。青メイドからはウォータートルの養殖について。黄メイドからは香辛料の各値上げ下げの一覧。そして白メイドからは……ん?『貴族と王族による勇者召喚の動きについて』?
「爺さん。元アンタの国はまた勇者召喚をしようとしているのか?」
「……ああ、恐らくじゃが戦力の増強を測ってのことじゃろうな。ここにおる皆も知っているとおり、人間族は数々の偉人を生み出してきた。一時代は人間族が支配していたと言っても過言ではない、しかしそれはもはや過去の話。今となっては退化したと言っても可笑しくないほど衰えておる。そこで出てきた意見が『異世界からの召喚』じゃ。タケル殿もかつては勇者じゃったよな」
「正確には勇者というレッテルだけどな」
「同じことじゃ。しかし権力がガルドに移ってからというもの、奴は権力を好き放題に使い、挙げ句の果てに各大陸に攻め込んで行きおった。そして今の状況になった」
ああ、そこまでは理解している。アイツからしてみれば俺たちは自分のいいなりの人形みたいなもの。しかしそれでは何故今更ながら戦力増加なんて目論んだ?……いや、考えるまでもない。理由は一つ、それは……。
「魔王、つまり俺の討伐が目的か?」
「……」
リュミエール爺さんは何も言わずに頭を俯かせてしまう。……まあ当然だ、魔王という人間の敵がいる限り平和は訪れない。ゲームでもありきたりな設定だ。
「……虚しいな、まさか元同族に討伐対象にされるとは。それで?アンタたちはどうする?人間族の味方になって俺を殺すか。それともどっちつかずで傍観者となるか」
俺の問いに各陸王は黙る。そしてフローナさんが顔を上げ、口を開いた。その顔は、真剣だった。
「タケルちゃんはどうするの?本気で人間族たちと戦う気?」
確かに元仲間たちと戦うのは正直気が引ける。でもこちらにも守りたいものが、大切な奴等が出来た。だから俺は――戦う。
「勿論だ。何処かで戦いの終止符をうたない限り、戦争は続く。なにより俺を魔王と慕ってくれる奴等を……失いたくない」
「そっか……うん!タケルちゃんらしいわ!」
表情が真剣な顔からいつもの笑顔に戻った。だが俺は彼女から言われたことに固まることになった。
「タケルちゃん、私の大陸と同盟を組まない?」