魔王と自己紹介
俺は今、猛烈にこの部屋に入ったことを後悔したい、または出て行きたかった。いや、理由無しに出て行きたい訳じゃないぞ?問題は―――目の前の光景にあった。
「あんの馬鹿息子ォォォ!!あれほど黒の大陸に攻めるなと言うたのに儂が言った翌日に宣戦布告する奴がおるかぁぁぁ!!」
「まあまあ、白王さん?やってしまったのは仕方がありません。一度落ち着いてはいかがです?」
「そうなのじゃ、白いの。あの阿呆のしでかす事には妾たちも既に慣れてしまったのじゃ。別に問題無いじゃろ?」
「そうは言うが赤王青王!これをタケル殿の耳にでも入ってみろ!あの馬鹿のしでかした責任が儂の方に来るではないか!あの温厚なタケル殿でもさぞ怒るぞ!?」
「仕方ねぇだろ白。やっちまったもんは取り返しつかないんだからよ。それに恐らくだが黒の坊主にも連絡が来ているだろうな」
「黄王まで何をのんきな……はぁ、憂鬱じゃわい。タケル殿になんと言われるか」
―――な?行きたくないだろ?
つうか白のおっさんよ、別に今に始まった訳じゃないだろうが。さっき、ナルカにも言われたけどもう対策会議何回やってると思ってんの?百回以上だよ!もう嫌でも慣れたっての!
……グチグチ言ってても仕方ない。とりあえず行くか、嫌々だが。
「ドワーフ爺の言うとおりだ、白のおっさん。もう嫌でも慣れちまったよ」
「タ、タケル殿!?いつからそこに!?」
なんか入って行ったらさらっと幽霊扱いされたんだけど…あと人を幽霊みたく言うな、一応魔王なんだけど。
「フローナさんとおチビがアンタを宥めているところから」
「で、では先程の儂の発言も!?」
「ああ、全部聞いてた」
「……終わった、さらば儂の人生」
勝手に自分の人生終わらせるな。冗談はさておき……オイ、おチビよ「妾はチビではない!」って喚いているけど、ここにいる全員から見れば人間の子供の身長とほぼ変わりないからな?あだだだだ!?俺の頭齧るな!お前、竜人族だから齧る力強ぇから痛いんだよ!?
「ふん!妾を馬鹿にしたからやり返したまで。自業自得なのじゃ。反省するが良い」
「はん!冗談はその慎ましい胸だけにしとけよ」
――ブチッ!
あ、いけね。無意識でつい逆鱗に触れちまった。
「ムキィィィィ!!!言わせておけば調子に乗りおって!この真っ黒生意気魔王!」
おチビこと『赤の陸王』リュウノ・マントール。体型は人間の子供くらいだが、その体型に似合わない馬鹿力の持ち主。俺にとってはじゃれ合う相手みたいなもの。通称『幼き赤竜王』
「こーら、赤王ちゃん。本当のことを言われてもそんなに怒っちゃ駄目よ?」
「お主はどっちの味方じゃ青いの!?それにこれは妾と小童の問題じゃ!」
優しいお姉さん?こと『青の陸王』フローナ・ベール・プリンツ。いつも周りに笑顔を振る舞っているが、戦いに身を投じると表情は豹変して修羅と化す。なお俺を夫にと求婚している……俺は返答していないが。通称『二面の青き乙女姫』
「坊主も挑発するな。宥めるのは俺たちなんだぞ?」
頼れる爺さんこと『黄の陸王』グレイブ・ドン・ドワーフ。その褐色の強靭な肉体は鋼の剣も貫けず、大きな手で作った拳は山を割ったと言われている、本人はそう言うが真相は不明。通称『山砕き(マウンテンクエイク)』
「本当のことだから言ったまでだ。別に嘘じゃねぇだろ?」
俺こと『黒の陸王』タケル=ロード、本名は浅見猛。元勇者というレッテルを貼られ、当時の魔王を倒した張本人。だが魔王の最後の足掻きで瀕死状態だった俺が魔王になってしまう。通称『慈悲深き魔王』……自分で言っておいてすげぇ恥ずい。
「……もうこの国に隠居しようかのぉ」
で最後に今にも塵となって飛んでいきそうな表情をしているのが、元『白の陸王』リュミエール・ボルグシュタイン。今の陸王がこの人の息子であり、俺が馬鹿王と称する白の陸王、ガラド・ボルグシュタイン。……今更だけど何故、この人が王をやめなければいけないと思う。通称『賢人』。
俺を除くこの四人がこの世界で『四王』と呼ばれている。なんで俺が入っていないかっていうと、魔王は全種族の敵、その親玉とお約束の立場であるからだ。……あくまで俺がこの立場になるまではな?
さて、自己紹介は終わりにして…今回はどんなことをしでかしたのかねぇ?あの馬鹿王の野郎は?