魔王は自重を覚える
「しかしまあ白の王もやりたい放題だな。ウチの国でさえ戦争は嫌でしょうがないのに、あっちときたらやれ黒の大陸は消えるべきだの異端者は殺すべきだの、ここに来た奴等は皆優秀で優しいのにな。全く愚かだなぁって思うな」
「白の王はどうやら母親に甘やかされて今の性格になった様ですね。自分が命令すれば、全員言う事を聞いて動いてくれる。全く……怒りを通り越して呆れますね」
俺の一人文句に、さらに呆れた表情で呟くナルカ。だがそれは正しい。親がしっかりしなくては子供も変な方向に育ってしまう。これは良し、これはやってはいけないときちんと教育させるべきなのに。子育てしていない俺でもわかる事だ。
「でも前白の王、あの人の方は別格だった。あの人はどんな種族にも寛大な性格で俺も尊敬していた。だというのに今の王になってから今までの日常が崩れ戦いの毎日。あちらの民もさぞ苦しい生活を送っているだろうに……」
「敵国の民にも寛大な心、流石でございます。それでこそ我らの王でこざいます」
「よせよ、当たり前のことを言っただけだ」
そうだ、生きる者誰だって腹は減る。食わなければ死ぬだけ。死なせないために、満足させるのが料理人なのだから。
「だからこそ、私も貴方の配下になったのです。本当に感謝しています、魔王様」
「よせっての、あと魔王はやめろ…っと着いたな」
今の俺の顔はちとニヤけてるかもしれない、誰得だっての。そんなしょうもないことを考えていたら、デカい扉の前に着いていた。
「はぁ〜、これで何回目だ?あの馬鹿王の対策会議を開くのは?」
「恐らくですが百を超えたかと、何回も言っていますが粗相の無いように」
「それは無理、というより出来ない。俺もそうしてるんだがあちらの方は堅苦しい、呼び捨てで良いとかまるで長年いた友人のように振る舞ってくるんだけどな」
特にあの女王エルフとドワーフ爺。いくら俺が成人してるからといって酒樽ごと渡して飲めだぁ!?アル中で死ぬっての!ったく…。
「なあナルカ。今からでも良いから魔王変わってくんね?お前ならキビキビと指図できるし、俺みたいな生意気な奴よりもマシになるでしょ?」
「な、何を仰っしゃいますか!?私が魔王を請け負うことなどご無礼に値します!第一にこの国を!この大陸を前のような死んだ空気から今のように活気溢れた物へと変えたのは他ならぬ魔王様でございます!民から、大陸中の人々から尊敬されているのは私ではなく貴方です!その事をお忘れなく!」
「お、おう…」
意気込んで言葉を飛ばしてくるナルカに少したじろいでしまう。別に特別な事をした覚えは無いんだけどなぁ。『死んだ土地を蘇らせたり』、『食料となる植物を数時間で実らせたり』しただけ……あれ?よく考えればとんでもないことしでかしてる?
「……失礼しました。つい声を荒くしてしまいました。お許しを」
「いや、俺のために言ってくれたんだ。怒ることじゃねぇよ」
俺もまだまだ自覚が足りないようだ。まだ魔王になって五年だ。しっかりこの国を、大陸のことを知っていかないとな。
「話をしすぎた。じゃあ行ってくる」
「はい、行ってらっしゃいませ魔王様」
俺は扉のノブに手をかけ、ギギギっと鳴る扉を思いっきり開けた。
「さあ、料理を始めようか?」