第6話 リンゴは伝説の錬金畑アイテムなの
勇者なら、魔王を倒す。
剣闘士なら、チャンピオンになる。
錬金術士なら、賢者の石をつくる。
それぞれの職業にはそれぞれ目標となる物がひとつはある。
それでは錬金農士の私は?
うふふ。ちゃんとあるんですよ。いつかは作りたいという夢のアイテムが。
『奇跡のリンゴ』
前世で映画にもなった「奇跡のリンゴ」。
自然農法で作った農薬を一切使わないリンゴ。
リンゴというのは農薬がないと害虫に食べられて実がならないと信じられていた。
そんなリンゴに農薬を一切使わない自然農法でチャレンジした男がいる。
何年も失敗をしつづけて、ついに実がなったリンゴ。
あまくておいしいリンゴらしい。
というのは、前世の話。
こっちでも『奇跡のリンゴ』と呼ばれる錬金アイテムがあるのよ。
もっとも、錬金術士に聞いても「知らないなぁ」と言われてしまうから気をつけてね。
『奇跡のリンゴ』は『錬金農法の勧め』の最終ページに載っているアイテム。
「奇跡のリンゴを食べたひとには奇跡が起きると言われています」
奇跡のリンゴは残念ながら作り方も書いてなければ、その効果もはっきりとは書いてないの。
ただ、奇跡が起きるとだけ。
「錬金農法を完全にマスターした人だけがチャレンジできる錬金農士の最終アイテム」
だそうな。
こっちの世界には『聖なる書物』という世界創造の話を書いたベストセラーの本がある。
前世の旧約聖書と似ているお話。
全知全能の神様が人の男女をふたりを泥人形から作った。ふたりのためにエデンという楽園も作った。
そこで育ったふたりの人は、安全な楽園から困難なことが満ち溢れた世界へと旅立つ。
しかし、その勇気をふたりは持たなかった。
そんなふたりに蛇の賢者はエデンの木になったひとつの実を与えた。
すると、自分たちだけの狭い楽園から外に出ようとしなかったふたりが広い世界へと一歩を踏み出した。
その実こそ、『奇跡のリンゴ』。
今、人間がいる世界がひろがっているのも元々は、ふたりの男女が『奇跡のリンゴ』を食べたから。
新たな世界をつくるきっかけを生み出すのが『奇跡のリンゴ』。
実際には、何が起きるかは分からない。でも、きっと素晴らしい世界を生み出すことになるキーアイテムが『奇跡のリンゴ』。
そんな話を聞いてしまったら、作りたいと思うじゃないですか、『奇跡のリンゴ』を。
もちろん、まだまだ、ずっと先の話。
今は、『錬金農法の勧め』に書いてある錬金アイテムをひとつづつ作れるように。そして、アイテムの品質をひとつひとつあげていく。
錬金に必要なアイテムをひとつひとつ集めていく。
いつかは『奇跡のリンゴ』に至る道を今、私は歩いている。
今日はこれでお終いです。明日も二話投稿予定しています。