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第44話 代役

「もし、あの女をモノにできるなら、お前にもチャンスをあげるぞ」

「ぜ、ぜひ。あの女なら確実に落とせますから」


必死で言うエリオット。

いままでやったことがない大きな役がもらえるチャンスだ。

もし、この役で人気があがれば、もっと大きな役もできるかもしれない。


「だけど、ケガした役者が復帰するまでだからな」

「もちろんです。代役として、しっかりと務めさせてもらいます」

「あと、もうひとり代役を立てる。お前とダブルキャストだからな」

「だ、だれですか?」

「ダニエルさ」

ダニエルはまだ18歳の若造だ。父親が元有名役者で期待ま新人として扱われている。ただ、まだ訓練中で、端役しかで舞台に上ったことがない。


「まだ早すぎるんじゃないですか?」

「おまえも、あいつも、期待しているんだからさ。がんばれよ」

負ける訳には、いかないな。5年も大した役をもらえないまま続けている俺の立場がなくなってしまう。


脚本をもらい、セリフを完全に覚える。

「覚えておけよな」みたいな捨てセリフなんかじゃない。ちゅんとしたセリフがある役。

間違う訳にはいかない。そして、なりきっていこう。


セリフがあると言っても、それほど多い訳じゃない。たった一幕だけスポットライトが当たる役。

どうして、このセリフを言ってしまうのか。

その背景を考えて、自分なりの像を作っていく。


ケガをして出れなくなって役者の演じ方は単純すぎる。そう感じていた。

目立ちすぎるのも問題だが、あまりもテンプレすぎて印象に残らなすぎる。

劇、全体のことを考えて、その上で自分がこの役で何を観客に伝えていくか。


ずっと考えていた。


「エリオットさん」

「あ、アリサちゃん」

「どうしたんですか?難しい顔しちゃって」

「あ。ちょっと考え事していたんだ」

「邪魔しちゃいましたね。ごめんなさい」

「いいんだよ。あ、そうだ。実はちょっと大きな役もらったんだ」

「本当ですか?すごいですね」

「そんなには、すごい役じゃないんだけどさ。私にとっては一番セリフがある役なんだ」

「おめでとうございます」


エリオットの前に座ったアリサにも、朝食が運ばれてくる。

今日はお粥にしてみた。チキンのフレークが待ったチキン粥。


「そうだ。エリオットさんにプレゼントがあったんだ」

「何かな?」

「これ」

小さな箱をエリオットさんに差し出す。


「もしかして。婚約指輪とか?」

「こ、こんやく・・・そんなはずないじゃないですか」

「ははは」

「だいたい婚約指輪は私がもらう側ですよ」

「アリサは婚約指輪、欲しいのかい?」

真っ赤になってしまった。

まだ、そんな仲じゃないし。

えっ、まだって・・・そのうちってこと?


「ん?なんだろう。これ」

箱を開けたエリオットは、中に入っているドロップを見て首をかしげている。


「それはね。声の質を変えることができるドロップなの」

「え、そんなことできるのかい?」

「錬金術で作ってみました」

半信半疑のエリオット。

当然ながらそんなアイテムがあるとはエリオットは聞いたことがない。

魔法に詳しい人なら、他の人の声になる魔法かあることは知っているだろう。

エリオットは役者だから当然ながら知りはしない。


「ほら、3色のドロップがあるでしょ。だいたい赤だけど微妙に違う3色、分かる」

「ちょっと色が薄いのと、オレンジに近いのと、普通に赤いのと」

「そう、その3色ね。あと、小さいのもそれぞれひとつあるでしょ」

「うん。欠片みたいのがそれぞれひとつづつ」

「それはどんな声になるのかテスト用。大きいのが本番用。ドロップを舐めたら3時間持つから」

「3時間なら普通の劇なら十分だね」

「試してみない?」

「いいのかい。じゃ、アリサが食べ終わったらね」

あんまり信じていないな、エリオットさん。アリサの渾身のアイテムなのに。

まぁ、使ってみたら、びっくりするから。

へへ。試してもらうのが楽しみ。


「へぇ、中から見るとこんなになっているんだ」

「どう、アリサ。舞台に上がった感想は?」

「私にも、女優できるかしら」

「どうだろう。難しいんじゃないかな」

「ひどいっ」

ふたりでじゃれあっている。

ここは、今日、開演する劇場の舞台の上。

まだリハーサルの前だから、誰もいなくてガランとしている。


「じゃ、私は観客席の一番後ろに座るから。順番に3つ、小さいドロップを試してみてね。効果はそれぞれ10分続くからね」

「わかった。とにかくやってみよう」

アリサが観客席に歩いていくのを見て思う。

本当に声の質が変わるなんて、あるんだろうか?


「王様!」

な、なんだ、この声!自分の声じゃない。

今回の役の最初のセリフを言った感じが全く違う。


「うわっ、すごくかっこいい!」

アリサが観客席の後ろから叫ぶ。


「よく考えてください!これは敵の策略です」

すごく、いい。だけど、これでは主役を喰ってしまいかねない。


「王様!・・・よく考えてください!これは敵の策略です」

もう少し、声を高くしてみる。ちょっとブレを感じるな。


「王様!・・・よく考えてください!これは敵の策略です」

だいぶん安定してきた。ちょっと苦しいとこあるけど、思ったような声が出せる。


「その声なら、オレンジがかったドロップがいいと思う。もう少しで前の効果切れるから試してみて」

アリサ、すごいな。そんなに声が通るんだ。遠くの観客席にいるアリサを見て感心する。


えっと、オレンジかかったドロップの小さいの。これだな。


「王様!・・・よく考えてください!これは敵の策略です」

おっと、声が高くなりすぎた。もうすこし下げていいのか。


「王様!・・・よく考えてください!これは敵の策略です」

まだ、高い。要は普通に話せ、ってことか。


「王様!・・・よく考えてください!これは敵の策略です」

おおっ、すごい。声を変えようとしないでも、自然に役に合った声になった。

これなら、無理しないで神経質な忠臣役ができそうだ。


「どう?アリサ。聞こえる?」

「ばっちり。いい声ね」

どんなに苦労しても、後ろの観客まで声が通らない。ボイストレーニングの先生も、それは生まれつきだからと言われてしまった。

それでね声を太くするトレーニングはやりつづけていた。


それなのに、今はどうだ?

ちょっと大きな声を出しただけで、後ろまで届く。


アリサの持ってきたドロップを信じられない物だと思って見ていた。


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