第40話 人生の主役と劇場の端役
「エリオットさん、カッコよかったなぁ」
街の宿屋で朝を迎えたアリサ。
宿賃は素泊まりで銀貨1枚の中級レベルの宿屋。ビジネスホテルの一室程度の広さでシングルベットと机がひとつ。ひとりで寝るにはちょうどいい広さの部屋。
「でも、なによ。あんなカッコいいエリオットさんをチンピラ役で使うなんて、監督は見る目ないわ」
端役で出演すると言うエリオットに誘われてミュージカル仕立ての恋愛劇を観劇した。
いつエリオットさんが出てくるのか、ドキドキして観ていたんだけど、なかなか出てこない。
出てきたのは、主人公がたくさんの敵に囲まれるシーン。エリオットさんは、たくさんの敵のひとりとしての役だった。
「やられた、しかセリフがないなんて、ありない」
アリサにとって主役はエリオットさん。
それなのに・・・
「また会えるかな。劇を見た後ら、楽屋におしかけるって迷惑かしら」
迷惑である・・・アリサは分かっている。
端役の役者にファンが花束を持って楽屋に来る。主役の人はいい気がするはずがない。
「でも、会いたいな」
昨晩から、そればかり考えていた。住所も聞いてないしなぁ・・・舞台を見るだけじゃ、寂しいな。
一緒にお話しをしたい。笑顔を見ていたい。そう思うだけで、胸がキューンとしてくる。
「どこかで偶然あえたりしないかな」
そんなことを想いながら宿の前の食堂で朝ご飯を食べる。今日はサラダとスクランプエッグ、それにパターをたっぷり塗ったパン。ドリンクはコーヒー。
宿で聞いたら、ここの朝食はおいしいと評判なんだって。たしかに焼き立てのパンも、おばちゃんがいれてくれたコーヒーもおいしい。
「あれ?アリサちゃん?」
「わっ、エリオットさん」
ずっとエリオットさんのことばかり考えていたら、本人が目の前に現れた。偶然すぎて、びっくり。
「ここ、座ってもいいかな?」
「あ、どうぞ。昨日はありがとうございました」
「綺麗な女性が困ったいたら助けないのは男じゃないさ」
「綺麗なんて、そんなぁ」
エリオットさんの言葉ひとつでドキドキが止まらなくなる。
頭がぼーっとしてくる。
「この食堂、良く来るの?」
「前の宿に泊まったのでここに来たんです」
「へぇ、そうなんだ。私は朝食を食べるときはだいたいここに来る。公演がある日は毎日だね」
たしかに、ここなら劇場も近くて便利だろう。
公演がある日は朝、エリオットさんはここに来る・・・すごい情報ゲットしちゃった。
「ちょっと失礼なこと、聞いていいですか?」
昨晩から気になってしかたないことがあって、どうしても聞きたくなってしまった。
「何かな?」
「どうして、エリオットさんはこんなにカッコいいのに、ちょい役なんですか?」
「私の出ている劇、見てもらったよね。主人公をしている男と私の違いってなんだとおもう?」
「もしかして、声ですか?」
たしかに、エリオットさんの声は強さを感じさせない。主役の人は声が太く低めだった。
マイクを使っていないので、声がどのくらい客席まで通るか、それが大切なのではないか。
「そう、声。この声じゃ主役を任せられないといつも言われている」
声かぁ・・・そんなとこに弱点があったんだ、エリオットさん。
でも、なそれならなんで役者やっているんだろう?
「子供の頃から役者になるのが夢でさ。まだ村にいたころ観た旅劇団の主役にあこがれてさ」
夢かぁ・・・私の雑貨屋さん、みたいな物かな。
でも、私は前世では夢を実現するために何もしなかった。
エリオットさんは夢のために生きているなんて、すごいなぁ。
「もっと低くて太い声だったらなぁ」
「声質ですよね。あ、もしかすると、なんとかなる、かも」
「えっ、どういうことかな?」
「私、錬金術士なんです。なにか役に立つアイテム作れるかも、です」
「本当!?」
「やってみないと分からないから、あんまり期待しないでくださいね」
「可能性あるなら、ぜひ、お願いしたい。その代わり、私にできることなら、なんでも協力する」
な、なんでも、ですか?それじゃ一緒に・・・いけない、いけない。
まだ、できると決まった訳じゃないから。蛇神さんにお願いしなきゃ。
こうしてはいられない、と。急いで浮島に帰ることを決めたアリサ。
そのアリサと別れた後、エリオットは公爵令嬢と会っていた。
「順調に進んでいます」と報告するために。




