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序章

俺は、サンドバッグになっていた。

冒頭から何言ってんだコイツと思った方が大半だろう。

自分の頭が狂ってるで済むならどれだけ楽か…。


「おーらよっ!」


ガタイのいいクラスメイトが俺のお腹を殴る。

痛い、より、気持ち悪い、がお腹を登る。

派手な髪の毛の女子は俺をケラケラ見て笑う。

俺は今、教室で公開処刑と称して殴られている。

なぜ俺ばかりがこんな目に合わなければならないのだろうか。

『能力』を持たないだけでこんな目に…。


「あー倒れちまった。面白くねぇ。」


そう言ってガタイのいい奴はつばを吐き捨て、

女子を連れてどこか行ってしまった。

と言うよりは行ってくれた、だろうか。

殴られたところが落ち着くまでうずくまっていると


「大丈夫?」


と言って美少年がハンカチを差し出してくれた。

その美少年の名は紫峰 楓。彼もまた『能力』を持たない1人。

同じ条件下なのに紫峰がいじめられないのは顔が素敵だからであろう。

ただ力が無いことをいい事に気にかけてる女子は強く当たってくる。


「おい、行くぞ」

「う、うん…じゃあね。」


申し訳なさそうにして紫峰はカースト高い女子に連れてかれてしまった。

俺もここでうずくまってるわけにも行かない。

痛むところを抑えながら保健室に這い寄った。



「また派手にやられたな。」

「…。」


髪がボサボサで、ヨレヨレの白衣を着たお兄さんが湿布を貼ってくれた。

保健室でタバコを吸うのは如何なものかと思うが、手当してくれれば俺はそれでいい。


「なんでイジメが問題視されないんですか?」

「ふーっ…。やるかやられるかの世界になっちまったんだから、なんとも言いようねぇなぁ。ひでぇ話だ。同情する。」

「先生何としてくださいよ…」

「大人が力で捻じふせれば、悪い見本になるだろ。」


俺は何も言い返せず、先生の吹いたタバコの煙をただただ消えてくのを黙って見ていた。

沈黙が5分続いた後、先生はカーテンを閉め、部屋の鍵を施錠した。


「…何かを犠牲にする代わりに能力得られるっつったら欲しいか?」

「…そりゃ…まぁ。」


確かに力が欲しい。だが、記憶と引換に…とか、命を引換に…となるくらいなら能力はいらない。

逆に言えばそれ以外が引換なら能力が欲しい。

だからおれは曖昧な返事をした。


「読んでみろ。」

「…『ヒトゲノム改良計画』…」


渡された黒いファイルにそう書いてあった。

中を開いてみると、おぞましい実験図が示されていた。

言語は…日本語でないことは明らかだ。

ホルマリン漬けの人間、脳を開かれてる人間、目に穴を開けてそこから脳をいじってる写真が乗っていた。

俺は絶句した。倫理的にこんなの認められるはずがない。


「どうだ、やって見るか」

「は…先生…こんなの…できるんですか?」

「フーっ…さぁな。」

「そんな無責任な…」

「無責任だ。…だから、一番負担が少ないものを選ぶ。」

「…」

「…どうせ死んだ人生だ、ここを卒業したってまた転がされるんだろう。だったらここは一か八か賭けた方がいいって俺は考えるね。…まぁ、お前に判断を任せる。」


どうせこき使われて死ぬなら…。


「やります。」


足掻いて見るだけ足掻いてみたい。


「…はぁ、あのなぁ…言っといてなんだが…」

「このファイルの事、バラしますよ」

「…わかったよ。はぁ…そこ横になれ、麻酔入れるぞ。」


俺がベッドに横になると、先生は俺に麻酔を入れてくれた。

俺は知らずと暗闇の中に意識が落ちていった…。



「…ぃ…ぉぃ…お…」

「…?」

「おい」

「…」


起きる。意識が落ちたベッドの上だった。

外はもう真っ暗。薄暗い蛍光灯が付いていた。

先生は相変わらずタバコを吸っている。


「…成功したんですか?」

「…さぁな。」

「…」

「やるだけの事はやった。あとはお前次第だ。」


……。

………。

怖い事をしたのは覚えている。

しかし、不思議と怖いという感情がなかった。

不安も、安心も、なかった。


「もう暗いから帰れ。」

「はい。」

「あぁ、それとなんかあったらすぐ連絡しろよ。」

「はい。」


俺は、帰った。

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