ワタシの見る世界
旅などしたことがなかった。
閉鎖された社会。閉鎖された世界。学校と家。その二つを結ぶ道のみが私の世界だった。その世界もいつしか小さくなり気づけば世界はワタシの部屋だけになった。
ワタシの世界は私の部屋と本の中だけになった。
本の中に広がる世界。自由で開放された世界。人が考えうるすべてがそこでは実現できる。本の中の景色はどこまでも美しく思い描ける。本の中の人間はどこまでも美しくなれる。
現実より本はどこまでも理想的だ。
理想的に、暗く…絶望的…
だからこの世界に来て…ワタシは本の中に入れた気がした。
だが世界はいつもと変わらず冷たい。異世界も元の世界と変わらない。
旅をしてみたかった。
ワタシはこの世界でより自由を求めた。
本の中の主人公のような自由を。ファンタジーのような旅を。RPGの主人公のような強さを。理想のエンディングを。
誰もが憧れる自由な世界。
ワタシはここで何をする?
街をゆく私の前に大きな街が見えた。異世界に来て2つ目の都市。
あの街はどうなのだろう。美しい街であろうか。どこまで水面下の闇が広がっているのだろうか。
神が与えた強大な武器。それは裁きのためのものだ。きっとワタシに与えられた使命はこの世界を理想的な世界にすることなのだ。闇を振り払うためにワタシは戦うことを宿命づけられたのだ!
ワタシの顔が笑みに歪む。あの街には誰がいるのだろうか。ワタシの全てを振り払ってくれる存在。乗り越えるべき存在。私のこの、この心の淀んだ部分を掬い取ってくれる存在。
ワタシは求めているのだ。わかる。自分でもわかる。助けを求める自分の心が痛いほど理解できる。
街は活気にあふれていた。多くの人がいきかう大通り。
ワタシは宿を探した。
「すごいな…いろんなものがあるな。」
が、ふと思う…金がない。どうするべきか。稼ぐにしても異世界で働くって何をすればいいんだ?そもそも元の世界でも働いたことなどない。人と話すこともままならないのにどうしろというのだ?
街をうろつくが駄目だ。何も案が浮かばない。
はやくまともな飯が食べたい。ふかふかのベッドで寝たい。体を洗いたい。
旅の間は飯は謎の草と銃殺した小動物。寝るのは銃に巻いている毛布で自身をくるんで草むらで眠る。体なんてほとんど洗っていない。
くそ…街に辿り着ければマシなものが手に入ると思ったのに。
「お嬢さん、どうしたんだい?見ない服だがどっかから出稼ぎか?」
急にワタシに男が話しかけてきた。
なんだこいつ…服装は綺麗だ。だがこの胡散臭い顔。怪しさ満点だ。
「い、いえ。」
「そうなの?綺麗な髪だね!」
男は遠慮もなしにワタシの髪に触れてきた。
気持ち悪い。ワタシは咄嗟に男を突き飛ばした。男は地面に尻もちをつく。
「いてぇ。なんだこいつ!!」
男が尻をさすりながら立ちあがろうとするのを確認するとワタシはその場から逃げ出した。
別にワタシに非があったわけでもないが面倒に巻き込まれるのはごめんだ。
「くそ!!あいつ…」
男は追跡してこなかったがワタシを睨み付けていた。
ワタシは日の暮れる街を歩く。
煉瓦は日の光を受け赤く輝く。こんなにも美しい世界だがワタシ今日は泊まるとこを探すことで精一杯だ。こんな街の中で野宿も危険だ。火で逃げる野生の生き物とは違う。人間はもっと恐ろしいのだ。
「どうしたものか。」
ワタシはベンチに腰を下ろす。背負っていた機関銃を横に立てかけた。
息を吐く。だいぶ歩いたので疲れがたまっていた。FPSの能力を引き継ぎ筋力や持久力は向上したが無限ではないようだ。
街に灯りがつく。いよいよ夜になった。
うーん、困ったな。何の手立ても浮かばない。そんな悩めるワタシの前に天啓のようにそれは現れた。
「どうしたのですか?お困りのようでしたらどうぞこちらへ。」
ワタシの前の女性はそうにこやかにほほ笑んだ。
黒いおちついた服。これはシスターの服か?現実世界でも見慣れないものなので断定できない。
彼女はワタシに声をかけ近くの建物に案内してくれた。
それは大きな教会だった。
明かりの灯った大きな塔と美しい装飾の聖堂がある。
「素晴らしい…」
ワタシは咄嗟に声が出た。美しい。西洋のようだが異世界独自の装飾により本来の世界とは違う不思議な建築方式になっていた。宗教もわからない。キリストやイスラムではないことは確かだろう。確か読んだ本に聖バース教会というものがあった。ここが宗教の教会である可能性は高い。
「さぁ、こちらへ」
ワタシは教会に入った。
街の中心である教会。
ワタシは神など信じはしない。だが、今は少し神に感謝した。
どこにも闇はある。ですから皆さんは気を付けましょう。自分の身は自分で守れるはずです。