雨とともに
ワタシの体を冷たい雨が濡らす。
体が冷える。芯から凍える。
震える体は寒さの為だけではない。ワタシはどうすればいいんだ。
二人の自警団がワタシの横を駆ける。
きっと遺体が見つかったんだ。あんだけ派手に暴れたんだ。周りの住民が気付かないわけがない。ワタシは殺しの罪になるのだろうか。怖い。捕まることも怖い。それよりも…
人を殺して何とも思わないワタシが怖い。
人の死に何も感じないのだ。
でも、それはリリカの死をワタシが心の奥底で認めていないからかもしれない。
リリカは死んだ。内臓を取り出され侮辱されて殺された。あんな姿アルフレッドさんに見せられない。
もう彼に合わせる顔がない…今も彼は一人でリリカを探しているのだろうか。
ワタシは雨の降る道を彷徨っていた。
後悔と恐怖に苛まれ、ただただ一人で。
ワタシは一人で戻ってきた。
アルフレッドの家。暖かかった木の家。
中に入ってもだれもいない。アルフレッドは帰ってきていなかった。
リビング。暗闇が部屋を支配している。いつもと違い、冷たい部屋。机の上には三つのコップが置かれている。街へ行った日の朝飲んだミルク…暖かかった。
思い出すと胸が締め付けられる。
長く居たくない。
ワタシは自分の部屋へ行く。4日ほどしかここにはいなかった。それなのにとても長く居たような気がする。なんだか懐かしくさえ感じた。
ワタシは服を脱いだ。
雨に濡れた長い髪が白い肌に張り付く。肌にはところどころ戦いで負ったあざがある。ワタシはそんな自分の体を呆然と見つめた。
これに何の価値がある?この大きな胸も尻も、何の意味がある?嫌いだ。こんな自分も、これに目を向ける世界も。何もかも。
ワタシは軍服を身に纏う。
何人も寄せ付けぬ漆黒の服とコート。恐怖と凶行の髑髏の将校帽子。
ワタシは史実の彼らとは違う。だが狂気は同じか。
ワタシは何になるのだろう。この異世界で。
MG42機関銃をシーツでくるむ。この大きな銃は目立たないようにしたい。弾薬ポーチをベルトに着け、グレネードを挟み込む。ルガーをホルスターにきっちりおさめマガジンポーチに3本のマガジンを差し込む。
もう異国の服のワタシはいない。
これが本来のワタシ。この世界のワタシなのだ。
ワタシは家を出た。まだ雨は降っている。黒い軍服がより濃く染まる。
深く被った帽子。家から出るところを誰かに見られたくない。
静かに消えるように。雨に紛れて、ワタシは立ち去る。
行く宛てもない。でもここにはいられない。
ワタシは雨の中、二股の道で立ち止まる。
あの街に行く?アルフレッドに会うかもしれない。それは嫌だ。
ワタシは街と別の方向に進みだした。その先に何があるのかはわからない。
街がどれほど先なのか。ただ、道があるのだからどこかに続いている。
歩こう。歩き続けよう。そうすれば、きっと変われる。
雨雲の間から微かに光がさす。
雨粒が光を反射し輝く。
ワタシは進む。暗い雲の下。光を目指して。
次から一人旅。
長く続かないと思う。