赤い涙
ワタシの放った9×19ミリパラベラム弾は銃口から直進し、ことを終えたばかりの男の顔面の皮膚を裂き鼻骨を砕いた。弾丸は脳を完全に貫通し後頭部から排出され、直線上の壁に食い込み止まった。
赤い飛沫が机とその上の少女を染め上げた。脳か頭蓋骨か…液体に混ざり固形物も散乱している。
他の男たちはただ唖然とそれを見つめていた。
何が起きたのか思考が追いつかないようだ。
ワタシはそんな彼らのうちの最もワタシの近くにいた男に照準を合わせた。
驚くほどに冷静なままだった。
男の頭を撃ち抜くと彼は後ろに倒れ、動かなかくなった。赤い体液が床を濡らす。
最後の1人はワタシを視認し、側にあった剣をとった。何かよくわからない叫びをあげている。
怒り?恐怖?
彼の顔からはなにもわからなかった。わかるよりはやく銃弾が彼の腕とふくらはぎを貫いたからだ。彼は床に倒れて絶叫した。
ワタシは倒れた男の頭に照準を合わせた。
動いている相手にはまだ正確に当てることができなかった。次は確実に頭を吹き飛ばしてあげる。
男は近づくワタシに気づいて顔を上げた。
彼は苦痛に顔を歪めつつも威圧感のある目でワタシを睨んだ。
「てめぇ…どうなるかわかってんのか?ぶっ殺すぞ…!」
憎悪の権化のような顔で彼は呟く。ワタシの背筋にゾクリと冷たいものが走った。
怖い…
みんなが、ワタシにそうやって、そうやって…ワタシは悪くないのに。みんなが悪いのに。みんながワタシをそうさせるから…
ワタシは目を瞑り、引き金にかけるひとさし指に強く力を入れた。そのまま、2発、3発と発砲する。ひたすら撃つ。弾がなくなりトグルがアップして止まるまで撃ち続けた。
目を開けると男は穴だらけになって動かなくなっていた。5つの穴から液体が漏れて床を染めている。
ワタシは荒くなった息を落ち着けると、肩から力が抜けそのまま握力もなくなった。ピストルが床に落ち金属音が響いた。
落ち着くと周りの惨状がより鮮明に見えてきた。
三人の男の死体。それ以外に少女の頭が2つ。それと机に寝ているまだ人の形をしている少女が1つ。
ワタシは机の近寄った。机の周りには鋸やナイフ、ハンマーなどの工具が並んでいる。そして、壁際の机には箱が並んでいた。冷気を放つ箱の中には小さな塊が並んでいる。
ワタシはすぐには何かわからなかった。近寄って、それが少女たちのものであったと理解した。同じく並べられた少女の頭は眼球も歯もない。ただ、顔は今でも恐怖や痛みをワタシに伝えている。
ワタシは机の上の少女を見た。服の剥ぎ取られた体。足は過剰に大きく開かれ骨は砕けているのがわかる。胸から腹にかけてはまっすぐに裂かれて中にはなにもない。白い骨だけが血だまりの中に真っ直ぐと残っている。
ワタシは目を逸らした。とても直視できない…
しかし、確認しなければ。並べられた首は私の知る顔ではなかった。
少女の顔を覗き込む。男の血で髪の毛は顔にベッタリと張り付いている。ワタシは手でそっと髪を退けた。
見間違いようのなかった。最悪の予想は結果として当たった。
それは紛れもなく今日の朝まで一緒にいた顔だった。私を起こしにきて朝ごはんを一緒に食べ、ともに本を読み、街を歩いた彼女だった。
明るく笑っていた彼女だった。
ただ理不尽な力によって奪われた全てが今、ワタシの前にある。リリカの天真爛漫な瞳は今はなにも写していない。
ワタシは吐きそうになり口を押さえた。あまりにも…あまりにも酷すぎる。涙が溢れて止まらなかった。
「こんなことって…」
ただただ呟いた。どうしようもなくただ彼女の顔を見ていた。
彼女がもう喋らないと、動かないとわかってはいる。でも傷ひとつない顔だけは、今でも語りかけてきそうで…ワタシはただ泣いて彼女に謝っていた。許しを請いながら、ただただ泣いていた。
異世界は美しく残酷だ。人の心がそうであるから、ワタシたちには世界がそう見える。きっとワタシが変わらない限り世界は残酷なままなのだろう。
セーフ