ある日の音色
ワタシと彼女はどういう関係だ?
ワタシになついていた可愛い女の子?ワタシと共にいてくれる友だち?
どうでもいい。私と彼女は赤の他人だ。何の関係もない。だからどうなろうと関係ない。たとえ彼女がワタシを親友だと思っていても、ワタシには彼女は他人でしかない。
だから、ワタシは、悪くなんかない。
ワタシは細く暗い路地をゆく。人は誰もいない。ここがどこだかわからない。初めての街だ。知っている場所もなければ、知っている人もいない。
ワタシは歩いてきた道を戻った。まだそこにリリカがいるかもしれないからだ。しかし、リリカを見つけることができなかった。そこでまだ周囲をうろついてるかと思い近くを捜索したが、こんどは私自身が迷ってしまった。
困ったことになった。ワタシは路地を探索する。人の多かった大通りとは違う、静かでどこか生活感のただよう路地。階段に置かれた植木鉢。窓の外の洗濯物。路地を駆けていく子供たち。窓の外に煙草の煙を吐く獣人の男。人探しも忘れてしまうような好奇心そそられる世界。
だが、しばらく歩くと静寂が辺りに立ち込める。その静寂の中で小さな声が聞こえた。
「あぁ間違いねぇ。手間が省けたな。」
「これで依頼は達成だな。」
「どうする?折角だし使ってから送るか?」
「なら急げよ。もう時間だ。」
どこから聞こえてくるんだ?この声は。嫌な感じだ。胸が締め付けられるようなとても嫌な感じ……そして、最悪の事態が頭をよぎった。
声はすぐに聞こえなくなった。ドアか窓が締められたようだ。声の主はこの近くの建物の中にいる。だが、辺りを見回すも、この細い路地の周囲どこも窓の閉められた建物だ。しらみつぶしに調べたら1日かかる。いや1日かけても見つかるかどうか。
「さて、どうする?」
ワタシはとりあえず家を一軒一軒あたることにした。だが、そもそもワタシに見知らぬ家のドアをノックする勇気はない。結果ドアの前でうろちょろ…これではワタシが不審者だ。
さて、本当にどうしたものか……
「てめぇ、家の前で何してる!?」
と、さっそくからまれた。目の前のいかつい男はドアを少し開け、隙間からワタシを睨んでいる。怒鳴っているが外に出てくる気はないらしい。それはそれでありがたい限りだ。無用な流血は避けたい。ワタシは腰のピストルに伸びた手を止めた。
男はワタシが特に何もしないと思ったのか、疑いの目を向けたままだがゆっくりとドアを閉めた。しかし、今のでいろいろと手間が省けた。ドアの隙間から聞こえた音。くぐもった泣き声。打音。男の呻き声。とても小さな音だったが、確かにワタシの耳に届いた。いつもそうだった。嫌な音はすんなりと聞き取れる。勝手に一方的に避けようもなく。
ワタシはピストルを抜いた。ドイツ軍のルガーP08の4インチモデル。ホルスター内にセットされていたマガジンをピストルのグリップ底部から装填する。装弾数は8発。……自分の腕を考えたら8発は心もとない。なんせ異世界に来てから一発も撃ったことはないのだから。しかし、なぜか自信があった。8発でも十分であるという自信がワタシの胸の中にあった。
ワタシはピストルを構えドアに近寄る。さっきの男の対応の早さから考えるにドアの近くに常に見張りがいることが想定される。どこか別の侵入ルートがあればそれに越したことはない。
ワタシは建物の周囲を回った。この建物はアパートのような集合住宅のようだ。3階建てで1フロアには5つの窓が並んでいる。しかし、どの窓も扉は閉められている。侵入は難しいか?声が小さかったことを考えれば地下が怪しい。なら上の階は手薄だとも考えられる。
ワタシは隣の家の階段をつかい、2階の窓枠に飛び移った。大きな音がしたがどうやら気づかれはしなかったようだ。ワタシは胸を撫で下ろし、閉められた窓に耳を近づけた。何の音もしない。窓を開けようとすると窓は簡単に開いた。施錠されてはいない。部屋の中をうかがうと荒れ果てた様子だった。この建物、すでに使われてはいないようだ。
ワタシは静かに部屋に入る。窓は閉め切られ薄暗く、カビっぽい。木張りの床はところどころ腐っているのが見える。気を付けて歩かなければ音が鳴ってしまうだろう。
ワタシはピストルを片手で構え、慎重に進んだ。
暗い廊下。その先により暗い何かがある。それは嫌でも耳に入る音が教えてくれた。
次回、いよいよ戦闘!
いつも思うけど本編で銃器が無双したことあったかな?
ないよな~悔い改めて(自戒