少女は幸せな夢を見る
「ワタシの持ち物は何処だ?持っていたはずだ!」
朝起きてふと気づいたことがあった。まずライフルがないこと。危険な武器だ。手放すべきじゃない。現実で銃を自分に向けられたらワタシに対抗するすべはない。
不味い……不味いぞ……
「持ち物はどこだ?どこだ?」
「あぁ、すまない。それならこっちの部屋にある。昨日はもう休んだ方がいいと思ってな。伝えてなくてすまんな」
おじさんはそう言って隣の部屋へ目を向ける。私は恐る恐る部屋を除いた。
壁を埋め尽くす本。そして、本棚に立てかけられてstg44が置かれていた。
私は銃に触れる。問題はなさそうだ。
「すみません……もしかしたらと思ってしまいました。親切していただいているのに」
「ははは!構わないよ。無理もないさ。だが一つ聞いていいかな?」
ワタシは身構える。
「あんたは何処かの儀礼隊の方かい?それとも魔術師さんかい?その服といい持ち物といい良いものを持ってる。普通の人じゃないな?」
「えぇ……まぁ……」
「やっぱりか!教会の人だな?ちょうど頼みたいことがあったんだよ。数日後、妻の命日なんだ。お祈りしてくれないかい?」
「わかりました……」
なるほど親切にしてくれていたのはそういうことか。ならばとりあえず教会の人と思わせておこう。しばらく私もここを動けないだろうし。
ここに来てからというもののワタシはなにもしていない。今は大きな行動を起こすより情報を集める方が先決だ。運のいいことにこうやって現地の人と遭遇できた。危険を冒す必要はない。
もうこの家にお世話になって三日くらいたつだろうか。ずっとこの木の家で本を読んでいる。本当に運がいい。こんな簡単にここの情報を手に入れられるのだから。
「おねぇちゃん、また本読んでる!」
少女がワタシの膝に乗っかる。それでもワタシは本を読むことをやめない。本は面白い。異世界の本はワタシの世界の本とはまた違う世界観、書き方で書かれている。とても新鮮、そしてこの世界を知ることができる。歴史、宗教、生活、価値観。この世界は中世レベルの文化レベルであるという推測は当たっていたようだ。オークやエルフがこの世界に実在するかはわからない。また魔法も広く存在しているようだがはたしてこの目で見ることはできるのだろうか。
もっとも気になるのは、ワタシがこの本に書かれた不可思議な記号…たぶんこの世界の文字が読める点である。まったく不思議だが理解できる。これこそまさにこの世界の魔法なのかもしれない。
ワタシは少女の頭をなでながら記号を目で追う。暖かな光がワタシたちを照らしていた。
「なぁ、あんたも街に行かないか?」
夕食の席でおじさんはワタシに提案した。
ちなみにおじさんの名前はアルフレッド。少女はリリカだ。
ワタシはアルフレッドの提案にその場で答えを出せなかった。人がたくさんいる場所は苦手だ。できることならば家にいたい。しかし、赤の他人にここまで親切にしてもらい何もしないのは居心地が悪い。せめてこのような親切は受け入れるべきなのだろう。
「いいんだ。行きたくないなら別に本を読んでいても…」
「い、行きます。」
ワタシがそう言うとアルフレッドはとてもうれしそうな顔をしてくれた。リリカもとても喜んでいた。リリカはワタシのことを気に入ってくれたようだった。ワタシみたいな人間によくもここまで笑顔をむけられるものだ。何も知らないというのは本当に気楽なものだ。だが、それでいい。何も知らない方が幸せだ。
次の日、ワタシは街へ行く準備をしていた。
ナチスの黒服に身を包む。しかし、アルフレッドにその服は目立つからと止められた。確かにそうだ。2人の服とは材質も構造もまるで違う。
彼はリリカの着ているものと同じ異世界の服を渡した。なんでもワタシを街に案内する時の為に買っておいたらしい。着てみると少し大きい。だが窮屈よりはマシだ。
軍服は畳んで銃と共に置いて行った。いや、ピストルくらいは持っていくか。ベルトにホルスターを付け服の中に隠す。人の多いところだ。何があってもいい様に。
街まではそう遠くはない。といっても都会の2駅先といった距離ではない。馬車で1時間ほどだ。しかし、ワタシはその間様々な異世界の景色を目撃することができ時間を感じなかった。
不思議な生物。見たこともない花。そもそもこの馬車をひく生物もワタシの世界ではいなかった動物だ。羊と馬をまぜこぜにした感じでアルパカやラマにも見えなくはない。アルフレッドによるとコメロぺという動物でこの辺では人間によく飼われている生き物なのだという。
街につくとワタシはここが異世界なのだとさらに実感した。中世ヨーロッパのような街並み。多くの店が軒を連ね町の中心には尖塔がそびえたつ。あの塔は教会のものなのだろうか。街の作り方も中世のそれによく似ている。街をぐるりと城壁が囲っていることも同じだ。つまり街を襲う何か…敵国家がいるということなのだろう。
だが、そんな街並みのことはどうでもよい。ワタシの目をくぎ付けにしたのは街にいる多くの人々。多くはワタシととても似ている。だが人間だけではない。人型であっても犬のような耳があったり耳がとがっていたりと明らかに種族が違う。トカゲのような鱗を持つ人や狼のような毛むくじゃらな人もいる。まさにファンタジーの世界そのものだ。
「すごい。」
結局、この一言に尽きる。あらゆる種族が一同に集まっているその光景は壮観であった。
「さぁ俺についてこい。すまないが先に用事があってね。それが終わってから街を散策しよう。」
アルフレッドに従いワタシは彼の後ろについて歩いた。リリカは私の服の裾を握り私の後をついてくる。
ワタシは目の前の光景にただ感動していた。それは人が私にぶつかってきても意に介さないほどだった。様々なお店が並んでいる。あそこは何を売っているのだろう。あそこは理髪店だろうか。ワタシの世界にもあるお店。ワタシには何をしているのかわからないお店。笑う人々。話す人々。
いろいろなお店を見ながら彼の後ろを歩いていると、彼が急に立ち止った。
「おい!リリカはどうした!」
アルフレッドの声で我に返った。
リリカ?たしかワタシの後ろをついてきていたような…
「いない……?」
「そんな!?俺の注意力不足だった!くそ!」
リリカはいなかった。私の服の裾を握っていたはずなのに。いったいどこではぐれた?アルフレッドの慌てようは尋常ではなかった。ワタシはどうすればいい?不安な気持ちが胸に満ち、溢れ涙が出そうになる。こんな感情、久しぶりに味わった。アルフレッドの焦りはワタシにも伝わった。
「急いで探すぞ!二手に分かれよう。」
ワタシは頷いた。リリカがいなくなったのはワタシの注意力不足でもある。
「気を付けろよ。」
アルフレッドはそういいワタシにナイフを渡した。私は理解した。ここはただ人が集まる明るく活気のある街ではない。裏がある。何事にも裏はあるのだ。気づかないだけでそれは影から何もかもを奪っていく。裏を知らない人間には見えない影がこの世界にはある。
ワタシは一人、リリカを探し街を巡った。
今は幸せなんだろうね。でもこの先が幸せかは知らない。
神様ならこの先もワタシが幸せなのか知っているのだろうか。