水面下の影
おひさしぶりです。
ワタシが教会の裏の顔に気づいたのは数日前だった。
ただの偶然……いや、神が導いた必然だったのかもしれない。
なんせここは教会なのだから。
「誰にも知られてはいけない」
ワタシはピストルを手に螺旋階段を登る。
この上にはマザーの部屋がある。
マザーは今、夜の礼拝の時間で部屋にはいないはずだ。
彼女の部屋に入ったことは一度もないし、入ったと言う人の話も聞いたことがない。
この部屋に決定的な情報がある。
数日前に聞いた話。
修道院宿舎の裏手にある水車小屋の2階を掃除していた時だ。
2人の女性の声。ワタシはそれがマザーレミとシスターミパだとすぐにわかった。
だがすぐに話しかけようとはしなかった。
それは単にワタシの性格がそうさせたのだろう。それは結果としてよかった。
「……すのです。既に年齢も学力も十分なはずです」
「しかし、帝国はこれ以上は求めていませんし見送っても……」
「彼らを置いておくのもタダではないのですよ。長く置くほど金がかかります。折り合いをつけるのですよ」
何を話しているのだろう?
ただのどうでもいい話じゃない。
わざわざこんなところでする話だ。
「シスターエリンが納得しますか?」
「彼女もわかって言ってるのです」
2人はワタシに気づかずに話を続ける。
「彼女は甘い……困るのです。このことは誰にも知られてはならないのです。この教会の中だけ、我々修道女だけの秘密にしなければ」
「教会の信用ですか。神への信仰ではなく」
「どこも同じことです。それをわからないとどの教会でもうまくいかないのです。エリンはその点恵まれている方です」
この人たちはなんの話をしているんだ?
信仰とは?
皆は信じているのに。
信じていた?
……信じていたのか。
「次は彼女です。一先ずエリンのお気に入りは置いて置くとしましょう」
「ふむ……帝国も女性はデータが足りないと言っていましたからね」
2人の会話は進む。
そしてワタシも彼女たちが何をしているのかわかってきた。
そして疑問が浮かぶ。
帝国のこと。そこに送られた人々のこと……だがより重要なこと。
誰だ?
彼女たちが言っていた次の人とは?彼女と言っていたから女性だとわかる。そして、内容からして修道女の誰かでもない。
孤児の誰か……
嫌な予感がした。
確かめなければならない。
ワタシはピストルをすぐ撃てる状態にしたまま扉を開けた。木の扉は軋みながら開いた。
中は普通の綺麗な部屋だった。オレンジ色の灯がぼんやりと部屋を照らしている。
証拠はどこだ?帝国と教会の繋がりを示す証拠。次の彼女が誰なのか、それがわかる証拠。
ワタシは机を調べだした。聖書や修道女の担当わけの紙が出てくる。
ここじゃないのか?
その時、手が止まった。ひとつだけ開かない引き出しがある。鍵がかかっている……
ワタシはピストルを引き出しに向けて撃った。木が砕け、引き出しは開いた。
「そんな……」
中には目当てのものがあった。
帝国と教会の密約の書かれた紙。帝国とのやりとりを記した手紙。
「帝国軍に孤児を売っているのか……!」
非道だ。あまりに無慈悲で残酷な仕打ち。こんなことが許されるのか!?
新たな道に希望を持って進んでいった彼等は、キファは、裏切られたのか?愛していた母や姉たちに。
ワタシは紙を見つめる。これは帝国への手紙か。明日にでも送ろうというのか?
そこにはマザーの手で次の標的の名前が書かれていた。
「ハル!」
ワタシは一瞬我を忘れた。
ハル!次は彼女だ。私の親友。私の心を許せる存在。彼女が次に帝国に売られる。
助けなくては。伝えなくては。
「だれかいるのですか!?」
心臓を氷水を入れられたようだった。
廊下に響く声。マザーの声だ。
予想外。早く帰って来たのか?銃声を聞いて戻って来たとしてもそんなに早く聖堂から戻れるはずがない。
しかし、戻って来てしまったものは仕方ない。
ワタシは大きく息を吸い気持ちを落ち着ける。そして手に入れた証拠の古い手紙をポッケにしまう。
ワタシはピストルをしっかり握りしめた。
足音が近づく……
ワタシは自分の心臓の高鳴りを聴いた。
神様、もしいるのならばこの引き金をもう二度と引かせませんように。
本当にそうか?
ワタシは本当に引きたくないのか?
心の高鳴りは足音が近づくにつれ高まっていった。
こちらもたまに更新しないとね。