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さぁ幸せな世界に終焉の弾丸を!  作者: ✝闇よりいでし災厄✝
11/12

光陰



「神様っているの?」


ワタシはなんとなく…ぼんやりとそんなことを食事の席で口にした。

ハルは驚いたようにワタシの顔を見つめた。

そして大笑いした。


「神様がいるか?フフ、そんなのいるに決まってるじゃない」


ハルはそう言うがワタシが気にしていたのはそこではなかった。

概念的なものではなく、物質的に神がこの世界に存在しているのかが気になったのだ。


「神様はね。この大陸の東の山脈にいるのよ。そこからこの世界をみていらっしゃるの」

「本当にいるの?見ることはできるの?」


ワタシの問いにハルは明るい顔で答えた。


「たまに山を降りて来られるわ。でも本当にたまに…そして会えた者は不思議な力に目覚めると言われてるわ」


不思議な力…?


「それって魔法、とか?」

「違うわ。魔法とはまた別。もっと特別な『贈り物』よ」


神様の贈り物…か。この世界にはワタシの世界では違う不思議な不可解なことがたくさんある。前に怪我をした孤児の一人をエリンが魔法で癒すのを見た。魔法があるんだから、神さえも本当にあるのかもしれない。


そう考えていた時、シスターミパが立ち上がった。


「さぁ、もう食事の時間はお終いです!それぞれの仕事場に戻ってください」


知らない間になかなか時間が進んでいたようだ。ワタシとハルは急いで食堂を出た。


長い廊下に点々と光が差している。


ここにいてもいいのか。

ワタシはここにきて数週間前、考え続けていた。


孤児院に住まわせてもらっている。

食べ物も寝るところもある不自由のない生活はなによりもありがたいものだ。

だが、ここでは規則がありそれを破ることはできない。

安定はする。しかし、それはこの場所から動けないことも意味する。それはワタシが望んでいることなのか?


ワタシにはより大きな使命があるはずだ。

かつてのワタシはそう考えていた。


だが、本当はこの環境に身を委ねたいのではないか?そして、身を委ねることを怖がっているだけではないか?

また裏切られるのではないかと、また傷つけられるのではないかと。


ワタシは今こそ、変わる時なのではないか?


明るい廊下をワタシは歩き始める。

ワタシの前にはハルがいる。


今はただ、それだけでいい。


………………

…………

……


ワタシは窓から差す眩い朝日で目を覚ました。すぐに起床の鐘がなる。

ワタシは飛び起きるとベッドを片付け服を着替える。


「ハル、起きて。朝だよ。遅刻するとまた怒られるよ。」


ハルはいつも起床の鐘で起きない。このようにワタシが起こさないといけないのだ。

これがワタシの朝の習慣となっていた。

もっともそれでも起きないときは起きないが。


「おはよう…はぁわぁ」

「おはよう。さぁ、準備して」


ハルを起こしたら朝の集会。

シスターも神父も孤児のみんなも教会の講堂に集まる。


かれこれもう二ヶ月はここにいる。何か決めたわけではない。シスターエリンに残ると言ってもいない。

ただ、なし崩し的にここにいる…

こうして何十回目かの朝の集会にいる。


いつもは数分で終わる朝の集会。

しかし、今回は違うようだ。


マザーレミが皆の前に立つ。彼女の横には孤児院の少年もいる。確か名前はキファ…ワタシやハルより年下の子だ。

彼はとても晴れやかな笑顔でマザーレミの横に立っていた。


「皆さんにお知らせがあります。今日、キファはここを去ることになりました」


マザーレミの言葉に皆がざわめきたった。

ワタシは周りを見たが皆一様に喜んでいるようだ。


「ハル、ここを去るってどういうこと?」


ハルは周りの子と一緒に手を叩きながらもワタシに答えてくれた。


「新しい家族が見つかったのよ!」


あぁ、なるほど。養子になれたということか。

そういえば確かに不思議に思っていたのだ。孤児はのちのち修道院か教会に行くものと思っていたが、孤児の数は修道士たちより遥かに多い。大凡の予想だが大半はこうして養子になるのだろう。


「私も何処か大きな街に住みたいなぁ!」


ハルもここではない何処かに行きたいのか。ワタシは彼女の言葉を聞き意外に感じた。

みな、ここではない何処かに憧れを持っている。それは、意外といえば意外で当たり前といえば当たり前だった。

ワタシもそうであるように。


「ワタシは、どうなるのかな…」


自分もわからない未来の自分。

選んだ世界…選択は正しかったのか?


今はどうでもいいのかもしれない。

気にしなければいいのかもしれない。


しかし、それに囚われてしまうのがワタシなのだ…


修道院を去るキファに自分を重ねることもなくただその後ろ姿だけを見つめた。

優しそうな男の人と女の人に連れられ門を出るキファ。彼はとても嬉しそうだった。



だが、ワタシにはとても彼のこの先が明るく楽しいものには見えなかった。


ワタシが捻くれてるから?

いや、ワタシだけ住んでいる世界が違うから。

見たくないもをより多く見てしまうから。


皆が彼を見ている時、ワタシはマザーレミの口元を見ていた。

その口に浮かぶ微かな…冷たく残酷な笑みを。




不定期更新となります。まだまだ続くと思いますが終わるかどうか…

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