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さぁ幸せな世界に終焉の弾丸を!  作者: ✝闇よりいでし災厄✝
10/12

心の在り処

宇宙戦艦ヤマトを観たので初投稿です。



神というものをワタシは信じていない。

一つに国民性というものもあるだろう。ワタシの国では宗教というものが非常に適当で、人をそこまで拘束しないものだった。何を信じてもいい自由な世界は神の居場所を奪った。

だが、心の支えというものは大事なものだ。宗教とはまさしく心の支えであり、救いなのだ。神という絶対の存在が我々に救いと幸せをもたらしてくれると考えれば今の苦痛も和らぐ。神が苦痛の先に安らぎの園を作ってくれれば人は死さえも克服できる。

恐怖、絶望、悲しみ…すべては人の心の中にのみあるもの。それを制御するための神の存在もまた心の中にのみ存在しうる。

それでも人は共通の認識のもとに集まり信じたいのだ。

根本的な人間の性質なのかもしれない。

それすらできず、なににもすがることのできない人間はどうすればいい?

ワタシは何に縋り、何を標にすればいい?


ワタシは目の前の神の像を見上げた。

これは人の考えだしたものか?それとも…

この世界における宗教とは何とも釈然としない。ワタシがあまりにも宗教に疎いというのもあるが。


「では、朝のお祈りの後は各自、持ち場で作業してください。」


修道院は教会のすぐ横に併設されている。他にも寝泊りした宿舎の以外に図書館や畑なんかも教会の敷地内に存在している。修道院とはその内部ですべてが完結できる。そのようにつくられているのだ。自給自足、勤勉、純潔…修道院の仕組みは本で読んだそれと同じだ。

皆の仕事は様々だ。畑仕事や近くの湖で漁をする者もいる。部屋で刺繍や聖書の写本をする者もいる。それは孤児院の子供も修道女も同じだ。


「私にも手伝いをさせてください。泊めていただいたのですから、少しでも礼を……」


ワタシの提案にエリンはにっこりと微笑んだ。


ワタシは軍服を脱いだ。そしてエリンから作業用の服を受け取った。修道女たちも一日中正装をしているわけではないようだ。

ワタシはエリンとともに大聖堂の掃除をしていた。ワタシはエリンに掃除の仕方をいろいろ教えてもらった。こんな基本的なこともできないのかと思われただろうか?

異世界に来て元の世界がどれだけ楽して生きられる世界か知った。


ワタシは刺繍もできないしここでは文字を書くこともできない。畑仕事の仕方も魚の取り方もわからない。こう思うとワタシは何もできない。あっちの世界ではそれでよかった。自身がわざわざしなくても周りがしてくれる。母がしてくれる。

でも、ここは違う。ワタシが動かなくてはいけない。

いつまでも掃除はしてられない。


「エリン、ワタシにもっといろいろ教えて。」


ワタシは孤児院の子供たちと共に文字を学んだ。

畑仕事を学んだ。

土の暖かさを知り、草木の力強さを知った。

本の中のまだ観ぬ世界に憧れを抱いた。


ワタシの世界にはないもの。

ビルの並ぶ世界では失われたもの。

ワタシが求めていたものはこういうものなのか?働く実感?誰かから求められること?自信を認めてくれる人たちの存在?

つくづくワタシは迷ってばかりだな。

ワタシは静かに本を閉じた。


全く持って不思議だ。

ここに来て一週間。様々なことを学んだ。


「ここにずっといたらどうですか?修道女としても貴女には十分な教養があります。向上心も。心の迷いと向き合うためにも、よいことだと思います。」


エリンの提案はありがたいものであった。

先の見えない異世界での生活。どこかに落ち着けるのならそれほど安心できることはない。

修道院長のマザーレミや教育係のシスターミパはワタシより10歳以上年上だがとても優しい。エリンの友達のシスターリニャとシスタークレースとも仲良くなった。エリンも他の二人もワタシより2、3歳年上だった。あまりそんな風には見えなかったが…

孤児院の子たちとも仲良くなった。特にワタシと同い年のハルとはよく話すし一緒に勉強したりした。彼女からの提案で4日目からは彼女と相室にもなった。

こんなに人と話したことはなかった。

こんなに人を信頼できたことはなかった。


それでもワタシはすぐに答えを出せなかった。

誰かと深く関わるのは怖かった。また失ってしまう。また…あんな目に合うのは嫌だ…


「嫌だ…嫌だ、嫌だ!!」


深夜にワタシは飛び起きることがある。汗で着ているものがぐっしょりと濡れている。いつもこんな感じだ。息が上がり、頭が少し痛い。


「大丈夫?」


ハルが心配そうに声をかけてくれた。しかし、ワタシはいつも返事ができない。

リリカの死にざまが脳裏によみがえる。自身の過去が襲い掛かる。

皆がワタシの幸せの邪魔をする。


「大丈夫だよ…神様はみんなに幸せを分けてくれるわ。貴女はとっても真面目…だからいろいろなことに縛られちゃうの…でもそんな苦しみも神様は見てくださる。救ってくださるわ。」


ハルは震えるワタシをそっと抱きしめてくれる。

ぬくもりを感じると不思議と落ち着く。ハルの心臓の鼓動を聞くと生きていることを気づかされる。


誰かに縋ってもいい。誰かに助けられてもいい。

自分の足で先に進もうとする意志さえあれば。

ワタシはここを、この人たちを支えに、標に生きてもいいのか?

神はこんなワタシも救ってくれるのだろうか。

聖バース教会ってどんな宗教なんだろ…特に考えてなかった…ま、多少はね?

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