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さぁ幸せな世界に終焉の弾丸を!  作者: ✝闇よりいでし災厄✝
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旅人は囚われる



 気づくと森の中にいた。周りには鬱蒼とした樹々。まったく知らない場所だ。

気絶していたのか?頭が重い……さっきまで何をしていたんだったかな?

 ワタシは……そうだ。自分の部屋でVRFPSをプレイしていたはずだ。確か戦闘は市街地だった。次のステージも同じ市街地のはずだ…なのに何故森の中?おかしい。


 自分の服を見る。

 プレイしていたFPSの装備だ。黒の軍服…ナチスドイツの制服。腰にはホルスターに銃剣と柄付きグレネード……それに弾薬ポーチか。

 ゲームそのままの装備。まったく同じ格好。ゲームから抜け出たようだった。


まだゲームの中なのか?だとしたら何かエラーでも起きたのだろうか。どちらにしろ早くログアウトしたい。

だがいくら宙をタッチしてもコマンドは開かない。即ちゲームからログアウトできないということだ。マズくないか?待て待て落ち着け。冷静になれと自分に言い聞かせてもう一度コマンド表示の動作をする……がやはり結果は同じだ。

 そうだ。これがゲームかどうか簡単に確かめる方法がある。

 ワタシは自分の顔を手で触る。もしここがVRゲームの中なら不可視だがヘッドセットがあるはずだ。実際の体は変わっていないのだから。ゴーグル横のボタンで強制ログアウトもできるはず……

 ない…?VRの本体ゴーグルがないのだ。ヘッドセットもない。頭に手を当てるとゲーム内装備の制帽が頭に乗っかっているだけだ。では、この景色はワタシの目が本当に見ている映像?本当の光景なのか?今、目に見える木や草は本物なのか?


 白手袋越しに伝わる地面の感触も顔の感触も頬に触れる風も森の匂いもなにもかも現実味を帯びている。

 ここはゲームではない…そんなバカな。


 周りを見渡した私の目にあるものが写った。

 ワタシのゲーム内での愛銃…突撃銃stg44だ。不気味な金属光沢とプレス加工の機関部は実際目でみると重圧を感じる。

 ゲーム内の装備そのままだ。

 そっと銃に触れる。手袋ごしでも冷たい。

 私は力を込めて持ち上げた。

 銃はずっしりと重い。だが思ったより軽く持てる。現実の自分の筋力ではここまで軽く持てないはずだ。ゲーム世界の筋力が反映されているのだろうか。ならばここはゲーム世界なのか?精神だけ切り離されたとか?いや、そんなこと起きるだなんで聞いたことがない……

 ワタシは銃を背負った。ここにいても仕方がない。森を歩くことにした。


 ここがどこなのか。それが知りたい。

少なくともこの森はさっきまでやっていたFPSのフィールドではない。それははっきりわかる。

そうだとしたら本当にここは何処なんだ?いくら歩いても森は続く。何も変わらない景色。同じ場所を回っている錯覚に囚われる。

悪い夢か?明晰夢ってやつか?それにしてもこれはあまりにも現実味がありすぎる。なんというか……ゲームとは違うリアルな空気を感じる。

もっとも夢の世界なんてそんなものかもしれないが。


 二回夜が来て二回朝が来た。

 その間、ワタシは何も食べていなかった。森の中で何を食べていいのかわからない。

 いよいよ危険だと感じた。夢なら覚めてくれ……そういえば夢の中で死ぬと大体目が醒めるな。もしかして死なないとこの不気味な夢から覚めないのか?


「おい!誰かいるのか!?」


 ワタシが限界に達しそうだった時、突然声がした。

 草むらが動くのがわかる。人がいる。

 ワタシは身構えた。

 草をかき分けて出てきたのは欧米人のおじさんだった。弓を構えているが、いたって普通の人間。


「なんだ?なぜ女の子がこんなとこに?」


 彼は弓を下ろした。敵意はないようだ。さらに言葉は日本語。ワタシにも理解できる。

まったくタチの悪い夢だ。


「どうしたんだ?おい!」


 ワタシは何だか色々なものが同時に押し寄せてきて、その場に倒れた。ぼんやりとおじさんがワタシに声をかけているのがわかった。

これで夢から覚めるのだろうか。兎も角、ワタシは思い瞼を閉じた。


*     *     *


 目が覚めた時、ワタシはベッドに寝ていた。ふかふかの暖かいベッド。

 それだけじゃない。空気もとても暖かく、木の良い匂いがした。


「あっ!パパ、目を覚ましたわ!」


 横でワタシを見つめていた女の子が跳ねるように立ち上がった。

 私は驚き、しばらくしてここが家の中だと理解した。

夢、覚めてないの?なんてこった……


「どうだい?気分は?」


 森で会ったおじさんがカップを持ってワタシの横に立った。マグカップからは湯気が立ち上っている。


「…大丈夫」


 本当は大丈夫じゃないがカップを受け取り言った。カップの中にはよくわからないスープらしきものが入っている。毒ではないだろうが、正体のわからないものは飲みにくい。


「どうした?それは野菜のスープだ。俺の家で育てた野菜だから安心安全さ」


 おじさんのにこやかな顔を見てワタシはスープを少し飲んだ。口に不思議な甘さがひろがる。そして何よりその暖かさが骨の芯まで伝わっていくのを感じた。

 ワタシは残りのスープを一気に飲み干した。

 二人はそんなワタシを見て微笑んでいた。


 ワタシの体調は全く問題なかったがおじさんはまだ休んだ方がいいと言った。彼の言葉に甘え、ワタシは少しの間この家にいることにした。

 もっともそれしか選択肢がなかった。もう日は沈んでいるし一人で外に出ても迷ってまた空腹で倒れるのがオチだ。

ここが何処なのかもさっぱりわからないし。


 この家にはおじさんと10歳くらいの女の子が二人で暮らしていた。親子なのだろう。とても仲が良さそうに見えた。

 家は広くない。ワタシのいた街では珍しい木でできた家だ。ウッドハウスというのだろうか。

 さらに驚いたのはここには電気がない。あかりはランプの炎。火はまるで原始人のように石を使い起こすのだ。周りを見ても中世程度の文明レベルしかない。

 自給自足をここまで徹底するとは恐れ入るが、ここは一体どこなのだろうか。

 窓から外を見ても闇が広がるのみで何も見えない。


おじさんと女の子が部屋から出て行くと急に世界は沈黙する。

いや、違う。ここ様々な音がする。

 それはワタシの知らない音。

 可能性は様々だ。ゲームで五感が塞がれている間に未知の土地に誘拐された。やっていたゲームのバグ。寝落ちした夢……夢が一番可能性があるが余りにもリアルすぎるし醒める気配がない。もしかしたらゲームプレイ中にワタシは死んでここは死後の世界とか?

 いろいろ考えたが答えなど出るわけがない。情報が少なすぎる。

 一先ず寝よう。起きたら状況が好転することもあり得る。果報は寝て待てだ。

微睡む思考の中で一つ可能性を思いついた。


 ここは元の世界とは違う異世界なのではないか?

 ワタシは異世界に迷い込んでしまったのではないかと。


チート能力を得たら自由になれると思った?

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