双子と雑談
「江戸時代では、私達みたいな男女の双子は、前世で心中した恋人同士だとか考えられてたそうよ」
長い髪を揺らしながら、双子の姉である言葉が言う。
俺は双子でも姉、という意識から姉さん呼びが続き、未だに名前で呼ぶ機会が殆どない。
両親共に、本当に仲良しね、と微笑ましい目を向けてくるのが解せない。
ついでに言うと、わざわざ部屋に乗り込んできて、今月号らしい文芸雑誌を開いてそんな話をする姉さんにも、解せない。
座椅子に座り込み、ペラリと音を立てて雑誌を捲っている。
「その双子のうちのどちらかを養子に出して、成人したら結婚させてたんだって」
雑誌を見つめる姉さんは、落ちてくる横髪を耳に引っ掛けてそう言った。
その後に俺の方を見るので、頬を掻く。
俺がベッドの上で開いていたのは、今週号の少年漫画だが、その紙面を撫でて唸る。
「……それさ、近親相姦にならなかったの?」
考えた結果に出たのがその言葉だった。
男女の双子なんて、二卵性双生児なので大して似ていない。
DNAでも血液型でも、違うこともある。
見た目が似ていなくても、結局は血の繋がった身内であることには変わりがない。
ハッキリ言って自分も姉さんも二卵性双生児として産まれているので、そう考えると微妙な気分になると思う。
キョトンとしている姉さんは、俺を見て、アハッ、と声を出して笑った。
「そういう配慮もしてあって、その場合は近親相姦にはならなかったみたいね」
首を傾けながら言う姉さんはどこか楽しそうだ。
姉さんが体を揺らす度に、蛍光灯の光にぶつかる十字架付きのヘアピンが、キラキラ光る。
今の時代がどうだか知らないけど、と言っているが、そもそもそう簡単に養子に出したり出来るような時代でもないだろう。
「でもさ、実際前世がそうだったとしても、今世がそうかは分からないじゃない」
姉さんは雑誌を読み終えたのか、バサリと音を立てて閉じた。
ホチキス止めの雑誌は直ぐに破けてしまいそうだ。
しかし、姉さんは気にした様子もなく、自分の膝の上にそれを置いて俺を見る。
「今世で好きじゃなかったら、なんの意味もなさないと思わない?」
猫のような目が俺を射抜く。
その奥では、何だか良く分からない光が、爛々と輝いて、俺の言葉を楽しみに待っている。
言葉、という単語の良く似合う人だ。
それこそ、名は体を表す。
時折、暇潰しのように変な小ネタを持って、俺に問い掛ける姉さんは、酷く楽しそうだ。
それこそ、毎月毎月買っている、文芸雑誌を見るよりも楽しそうだと思う。
「俺は正直、姉さんが姉さんで良かったと思うよ」
楽しそうだった光が消えて、あらまあ、と驚いたような顔になる。
それどころか、近所のおばさんがよくやる、口元に手を当てる動作が正しく、あらまあ、だ。
「私も永遠が私の弟で、双子で、姉弟で、家族で良かったわ」
きゃー、なんて棒読みで言った姉さんがベッドにダイブして来て、正直痛かった。
膝が腰に当たったし、雑誌に至っては床にバサリと音を立てて落とされている。
ペシペシと叩いて来る姉さんに、俺はこの人と前世で結ばれなかった恋人とかないよな、と思うくらいには双子で弟で居心地が良い。