第十一章
時計の針を確認して香草の香りのするチキンをパンで挟んでその上からぷすりと十字架の楊枝を刺す。楊枝というと雰囲気ぶち壊しだがそれ以外の呼び方が思いつかない。
サンドイッチに刺すものと言えば、本当に楊枝だったりフェンシングの剣のような形だったりするのだが、ウチの喫茶店には何個か種類がある。十字架と槍型、持ち手の部分がリンゴ型の鍵型に、てっぺんにハートの付いた十字架。
ちなみにリンゴの鍵が最も刺しにくい上に崩しやすいのでスタッフ用にしていいですかと何度も聞いたが一番人気なので何度も断られている。
確かに同い年くらいの女の子が来れば写真撮ってるし、珍しくて可愛らしいデザインではあるのだが、そもそも先端が尖ってなかったら役割を果たせないだろ。
ちなみに僕が今刺したハートがてっぺんの十字架は成川さんの専用だ。僕は十字架だったのだが、ペアルックにしたと思われるとめちゃくちゃいやなので楊枝を使っている。そういうのはとにかくこっぱずかしいから嫌いだ。
「成川さん?出来ましたよ?」
僕の真ん前の席に持っていく。今日のように人の少ない日は、奥でこそこそとすることなくスタッフが客のように食べていることも多い。
「人来ない日は楽でいいわ~。しかし相変わらずあんたのまかないはいけるわ。うちのコックになってくれてもいいわよ」
成川さんの勧誘に絶対嫌ですと即答して流しで食器を拭く。
仮に就職したとして、美少女のコックが食べられなくもない程度の腕だったら僕は即解雇という未来が二次元どころか3Dヴィジョンで想像できる。
僕のまかないは割と好評だ。お客さんは僕が作っていると認識してないだろうから、評価してくれるのは成川さんや、他のメンバーと、時々ひょっこり顔を出す三好くらいだが。
正直家で自分のために料理することなんてほとんどないのだが、聞かれるとめんどくさいので一人暮らしですからと返している。三好と成川さんには見抜かれているのでほとんど意味はないのだが。
「ねえ日曜日はさ、あたしも入ってるからさ。お土産話大量に用意しときなさいよね」
「え?なんですかお土産話って」
はてなといった調子で食器を洗いながら片手間に問うと、「そんなもんおまっ」とすでにスイッチが入ってしまっていた。ああ、めんどくせえ。
「三好ちゃんのことに決まってるじゃない!いい?報連相は必須よ長谷君。あたしも尾行していきたいくらいだわ」
「いや、本人の前で言ったらだめでしょそれ」
泥棒が盗みてえ~と言っているのと一緒だ。実際のところ、土曜日は無理矢理シフトを外す代わりに成川さんがフルで出ると言い出したのでこの人に暇があるはずはないのだが。
さすがに他のバイトならそういうわけにはというところなのだが、経験もあるし、まあそういうならであっさりと話は纏まってしまった。
「女子高生に興味津々とか変人じゃないですか」
上機嫌な成川さんは大概暴走気味なので一度覚ましておく。
ブー、ブー、滅多に電話として機能することのないもはや時計かゲーム機と呼んだ方が妥当な僕の携帯電話が鳴っている。自分の着信音と気付くまで数秒かかるほどだ。
「鳴ってるわよ。別に今はお客さん来ないし、出てきたら?」
いや、べつにいいですよというと、お客さん来たら私が対応するから、電話放ったらかしておくのは感じ悪いわよと言われたので裏に下がっていく。
「おっ、三好からか」
珍しいなとは言わない。着信自体が珍しいのでそういうと掛かってくるごとにだれが相手でも珍しいなと言わなければならなくなる。
「もしもし、長谷君?今電話良いー?」
携帯電話というものが発達してから、相手を指定できるようになったというのに、人はなぜだか相手を聞くのをやめない。
「おー、どうした?少しなら大丈夫だ」
「忙しいのにごめんね。今からお店行ってもいい?」
え?突然だったので僕も少し硬直した。三好が店に顔を出すことは珍しくないが、これまでは帰り道夕飯がないからとか時間が余っているからとか、理由があって制服でカバンも持ったまま寄ることが多かったので、完全に帰宅してから改まってというのは初めてだ。
「ああ、別にいいぞ。今日けっこーひましてるからさ。遠慮せずに来いよ」
迷わず返答する。三好はこういう場面では時々扱いが難しい。少々いいやつ過ぎるから。少しでも僕が逡巡すれば、もしかして迷惑なのかもっと読み取って遠慮してしまう。
なんだかんだ、押すところは押すくせに我を貫くことはまずない。
こういうとき、迷惑に思ってもいないのに一歩引かれるとこちらも申し訳なくてお互い良いことなしなのだが、この習性ばかりは、どれだけ時間を重ねても、あいつの根底というか、治りそうにない部分だ。
秋良のように額面通りに受け取ってくれれば、変な気を回すこともないんだけど…人気者で穏やかで活発で完成した人格だが、三好でも難点はあるということだ。
同年代だと、逆に一歩も譲らない子と最近知り合ったりするんだが、あれはあれで何を言っても言いたいことを言うだろうし、お構いなしで一人で楽しんでいるだろうから楽だ。
強いていうなら会話についていく体力さえあれば楽だ。時岡さんの場合だと最終的に精神的体力的にハチの巣にされるので変な気遣いはいらないというだけでボロボロなのだが。
携帯のてっぺんを人差し指で押してディスプレイを消す。
「成川さん?電話終わりました。三好が来るみたいですよ」
お客さんは来ていないらしく成川さんは一歩も動かずサンドイッチをぱくついている。
一瞬はいはーいと返事し、一瞬間を空けてゴクッと飲み込んで目を輝かせた。なんでこう僕の周りの人は反応が読めるんだろうか…
「マジで?!今宵は宴ということね!」
どうせこちらの言うことなど聞きはしないのでそうっすねと返して成川さんの食べ終わった食器を回収する。
女子大生だと、服に目がないとか、バッグに目がないとか、そちらの方面であってほしいものなんだが性別人種種別問わず可愛いものマニアの成川さんはさすがに鋭い。
「学校帰りに来るということは間違いなく私服!それだけで至福というものよ!制服姿も素晴らしいけれど私服というものは外見を超え本人の趣味、内面性を伝えるのよ!より内側を覗き、一体化できるということよ!美少女を取り込むことで、私は完全体になるわ!」
一体化ってなんだよ。どうやら七つのボールを集めて旅する某漫画の緑の人よろしく強いものを、成川さんの場合より可愛いものを取り込もうとしているらしい。
やっぱり来るなと電話してやるのが三好の為だとは思うが、今の成川さんを止めようものなら息の根を止められた後、裏の生ごみの箱に捨てられそうだ。
いやだなーコーヒーの強烈な残り香と残飯が重なって言葉じゃ表せない匂いするもんなあ。良い匂いのするごみ箱なんてないだろうが。
実際のところ、三好を吸収しても完全体になるどころかおそらくあいつの純粋さと混ざり合って弱体化するだろう。時岡さんを吸収したら間違いなく完全体だとは思うが。むしろ成川さんでも取り込み切れないかもしれない。
どっちにしても僕は全力ダッシュで逃げるが。
テーブルに乗り上げて舞台女優並みの演説をする成川さんに釘を刺す。言葉の綾じゃなくて実際に刺した方が良さそうな勢いだ。というか、舞台女優は観客というものに対しての迫真の演技なので自身の内面をここまで語れる彼女は女優などという領域ではない。
「成川さん、テーブル汚れますって。勘弁してくださいよ。落ち着いてください」
「これが落ち着いていられるわけないでしょうが!空前絶後のチャンス中なのよ!」
アルバイト中だよ。脳内はパチスロよろしく無駄に7が電撃を纏って勿体ぶりながらぐるぐると回転している様だ。
「はいはいどいたどいた。お客さんが来るってことなんですからきれいにしとかないと」
「なぜそうも冷静でいられるというの?!美少女よ美少女?!」
「一家一台の時代なんでしょ?軽自動車が来るようなもんじゃないですか」
いや、今のは確実に僕が悪いけどそういったのはこの人だしまあいいだろう。今日は暇だからいいけど、ほんとにこの人スイッチはいると仕事しないよなあ。
少し古めかしいベルが鳴る。やれた低めの音色は古びたわけではなくて、落ち着きを持たせるためらしい。
「こんばんは~。入ってもいいですか?」
控えめにドアを開けてこちらを覗くようにする三好がこてんと首を傾げて尋ねると、OH!とか言って頭を押さえている人が一人。
「さっきぶり、かしこまらずには入れ入れ」
いそいそと店に入る三好はクリーム色と黄色の中間色のコートにグレーのスカート姿だ。私服姿だけでも効果抜群だったろうが、どこでタガが外れたのか成川さんが鼻から赤い滴をつたらせている。おそらく黒タイツで悩殺されたのだ。
三好の持っている傘を受け取って傘立てにしまって誘導するがおろおろとしているので手を取ってカウンター席まで連れていく。
「なんで傘持ってんだ?外降ってんの?」
少し顔を赤くして俯いた三好がそうだよと返す。
「マジかー、ていうか、雨降ってるなら無理してこなくていいのに」
明日もどうせ会えるんだからさと言っても三好はぎこちなく笑っていいのと答える。
「ねえ長谷君」
どうした?と困った表情の三好の視線を追いかける。
「成川さん大丈夫なのかなあ」
視線の先では成川さんがティッシュで鼻を押さえてグシグシと拭いている。拭いたそばから赤くなったティッシュが隣のごみ箱にライン作業のように放り込まれていく。
「いえいえ、気にしなくていいのよ。ええ。いらっしゃい三好ちゃん」
「お久しぶりです。また来ちゃいました」
笑いかける三好にゴブッと一瞬手を止めながらも大歓迎よと返して成川さんはぬぐい続ける。大丈夫かよ。ゴブッていったぞごぶって…今の本当に鼻血かよ。
三好を一瞬外に連れ出して油断させてからもう一度目の前に出せば成川さんに引導を渡せそうだがまた今度にしておこう。
「三好。外寒かっただろ。コーヒー熱いの入れるから待ってろ」
小さな手を振っていいよ申し訳ないよと否定する三好の頬っぺたを伸ばして黙らせる。
「いいんだよ。僕が勝手に入れるから。大体、女の子が雨の中外出歩いて、気を使うなって方が無理な話だろ」
ごめんなさい…としょぼしょぼとつぶやく三好の頭を軽く撫でる。
「なんで謝るんだよ。いいからあったまってろ」
「三好ちゃん、上着預かるわ…はあ」
「空気読めてねえ!なんで冷まそうとしてんの?!」
構えた両の手が変質者でしかない。怪しげなすり足で三好との距離を詰めようとする成川さん。僕の脳内のJDというステータスは色褪せてあまり価値がなくなっていた。
「長谷君、コーヒー、砂糖多めで七対三でコーヒーお願いします…」
ぐ、具体的だ。許したら許したで、少し遠慮なしになるのは何より三好が肩の力を抜いている証拠だ。僕は手を洗いながらはいよと返した。
「長、、、谷君…私には冷蔵庫の二段目の奥にあるレ、レバーを…」
完全に鉄分を補給しようとしている。どうやらかなりの量を持っていかれたらしい。ガクッと力尽きたのでひとまず放置して三好のオーダー通りのコーヒーを出す。
「砂糖こんなもんでいいのか?」
さらさらとスプーンに二杯入れるとあと半分と言うので少し追加してやる。
一口飲んでおいしいと微笑む三好を確認したところで冷蔵庫の一段目を開けてプルーンジュースを三本酔いつぶれたように倒れ伏す成川さんの机に置く。
すぐさまストローを三本に同時に刺すと成川さんはストロー三つ加えて飲み始める。
うわあ…全力だ。全力で摂取している。完全にプルーンジュースを飲んでいるのではなく中の鉄分が目当てと一目でわかる。
「ぶはっ、生を実感するわ。あとはレバーを摂取すれば完全体に…」
まだいるのかよ。足りてないじゃん。そして完全体の材料が美少女からレバーに変換されている。不当すぎだろ。天秤で計ったら美少女側が瞬時に地面に叩き付けられそうだ。
「三好、夜食べてきたか?よければ作るぞ?」
食べてきたから大丈夫!と三好が否定したところできゅ~っと小さな腹の虫が聞こえた。顔が真っ赤な三好に一文字違わず復唱して聞き直してやるとお腹空きましたと俯いた。
あ、長谷君!そのベーコン私の! ああ!お前、ベーコンの等価交換に目玉焼きかよ! タンパク質量で同じかなって ほう…パスタはいくらつついても問題ないよな? え~!?駄目だよ!主食だよ!
結局先に無くなった副食の皿を避けてパスタの皿を二人でつついていく。初めの頃は抵抗したもんだが、女子ってものがそうなのか三好だけなのかあまり同じ皿から食べても気にしないので僕も二年生の秋ごろには慣れていた。
成川さんはというと、食事の前に三好が上着を脱いだ時点でもう一度沈んだ。追加のプルーンジュースを置いておいたがまだ飲んでいない。手遅れだったのかもしれない。ちなみに黄色のコートの下は赤のニットだ。
「そういえば三週間ぶりくらいか?ここ来るの」
「そうだね。ちょっとドタバタしてたから、しばらく家に帰ったらすぐ寝ちゃって」
「寝る子は育つってやっぱり迷信だよな。主に凹凸的な意味で」
はうっとクリティカルダメージを受けた三好が逆襲してくる。
「長谷君だってクラスの後ろから四番目だもん!」
「お決まりで最後尾のお前に言われたかないよ」
「もう少し低ければ話しやすくてよかったのに!」
「そんな悲しい特典いらねえよ!」
無駄に前向きな奴だ。世の中男子は身長170以上ないと…というテンプレートが成長期もクライマックスに差し掛かって定着しつつあるというのに…この身長の時点で何分の一かの女子からは射程圏外ということだ。まったく僕より18cmも(以下略)
「長谷君私身長伸びたよ!152cmになりました!」
な、2センチも僕との間を詰めているのか?…低いくせに、僕より16cmも(以下略)
「あら、長谷君はともかく三好ちゃんには…需要があるわよ絶対」
おお、生きてた。ようやく体を起こした成川さん。この人瀕死だからってぶれないよな。
酔いつぶれたら普段とのギャップでとか古典的なノリを無視してしっかり変態のままでいそうだ。もっとも、この人は期を見てお持ち帰りする側に違いないけど。
うるさいなあと毒づいて食器をもって奥に引っ込む。慌ててごちそうさまと付け足す三好におうと返す。後でもいいが今のうちにやっておけば閉店と同時に店を出られるし。
少し冷たい水道水に手を浸すと、会話で火照った脳が冷えるようだ。わりかし高級キッチンなのですぐさまお湯を出すこともできるが心地良いのでそのままにしておく。
「それはそうと三好ちゃん、上手くいってるの?」
「成川さん、長谷君に聞こえちゃいますよ…」
顔を赤くする三好。女子トーク中だろうか?気にならないといったらうそになるが盗み聞きするのは後味が悪い。仕方がないので水道の音をBGMにして洗いものに集中する。
「大丈夫よ。案外洗いものしてると聞こえないから、この程度なら問題ないわ」
「それが、もしかしたら長谷君取られちゃいそうな子がいて…」
「ええ?!なによ!あの男モテ期なの!!!」
「ああ!聞こえちゃいますって!その子、あんまり友達作ったりもしないのに長谷君と二人でいるところ見ちゃって…」
「それはなかなか怪しいわね…本人には聞いたの?」
「昨日聞いた時には、そんなことあるわけないだろって言ってましたけど、それも怪しいというか、時間の問題な気がして…」
「少なくとも、今は何もないはずよ。彼女なんてできたら、あの男絶対ボロが出るから」
「それは確かに…でもやっぱり不安で」
「そんなにそのライバルはかわいい子なの?」
「ライバルって、そんなんじゃないですけど…少なくとも、私じゃ相手にならないです。きっと、学校で一番の美人さんじゃないかな」
「アンビリーバボーといった感じね。あの子隅に置けないどころか四隅に幽閉しておくべきね。だったら三好ちゃん、そろそろ攻めなきゃいけないんじゃないの?」
「わかってますけど、やっぱり不安で」
「三好ちゃんなら大丈夫よ。こんなかわいい子ふるような男がいたら私が成敗してやるわ」
ぎゅーっと私を抱きしめてくれる成川さんからは色っぽい匂いがして、大人びた容姿と相まってものすごく魅力的だ。それに密着すると実感してしまう…私と違って出るところの出た体を前にして、自信なんて持てるわけがない。
「あら、三好ちゃん、なんで泣いてるの?そんなあなたもめちゃくちゃ可愛いのだけれど」
ぎゅっと抱きしめる成川さんの腕が少しきゅっと狭くなった。
お願いだからもうそれ以上押し付けないで…
「長谷君は、成川さんのこと好きになったりしないんでしょうか?」
「なわけないじゃない。近くでこんなにかわいい子がアタックしているのにも気付かないニブちんがバイト仲間なんかに惚れるはずないでしょ」
確かにそうかもしれないけれど、やっぱり年上のお姉さんって、少ししか年は離れてないのに全く違うオーラがあって…すごく、きれいだ。
「まあ、あなたたちの気持ちも、分からないわけではないけどね」
どういうことですか?と聞くと微笑みを浮かべて成川さんは答える。女の子の私でも、見ていてドキドキする。
「ほら、あの子あんなだけど優しいし、よく人のこと見てるし、あんな引っ込み思案でなければ案外モテるのも納得だったりするのよね。もし年が一緒だったら私も同じだったかもしれないわ。彼、自分で思ってるよりいい男だから」
好きな人が褒められるのはとてもうれしい、そして、気持ちを再確認させられる。嬉しい気持ちがこみ上げると同時に私は両手でストップをかける。
「成川さんまで!駄目ですよう!!」
「大丈夫大丈夫、冗談みたいなものだって」
うう…できれば冗談と言い切ってほしい。嬉しさ七に不安が三残る。
「あら、片付け終わっちゃったみたいね、じゃあ、女子トークはまた今度ということで、次の休日、お土産話をたくさん用意してね」
「僕に隠れてなに話してんだ?」
「なに、聞きたいの?女子のあんなことやこんなことを聞きたいの?」
うっ、無意識でも女の子のイメージを崩すというのにこの人本気を出すとどうなるんだ。
「遠慮しときます。女の子はかわいい生き物だって信じていたいですから」
残念ねと返す成川さんの目が笑っていない。
話題を反らそうとすると、いつの間にか閉店時間間際だ。本当に人の来ない日だったな。
「もういい時間ですね。片付け始めましょうか」
「そんなことより大事なことがあるでしょうに」
あきれ顔の成川さんに僕ははてな?といった感じだ。
「三好ちゃんを送っていきなさい。片付けくらい私がしておくから」
「え、それは申し訳ないっていうか…」
「女の子を夜遅くに帰らせるの?片付けなんてしてたら十時半回っちゃうわよ」
言葉を失う僕をほらと半ば無理矢理追い出して、申し訳なさそうな三好と成川さんは二三言話すと、三好も幾分か和らいだような様子で、控えめではあるが出口までやってきた。
「成川さんホントすいません」「謝るのは私だよ!ごめんなさい!」
二人そろって頭を一度下げる僕は会釈くらいだが三好はぺこりと深く下げる。
「別に気にしないわよ。三好ちゃんまた来てね♪」
手短に済ませた成川さんは僕と三好、特に三好だろうが、前にいてはいつまでも帰らないと判断したのか出口を閉めてしまう。締め出されたような気分だ。