中編
彼女が取り出したのはタバコとライター。
手慣れた手つきでタバコを取り出し、火をつけた。
タバコを吸う彼女は、いつもみたいにまぶしくなんてなくて、私と同じ世界に降りてきた気分だった。
「…ふーっ。これでおあいこでしょ?私はカギの事、だれにも言わないし、・・あなたも、ここで見た事を言わない。どう?」
「…うん。別に、言うつもりなんてないよ。」
うれしかった。
彼女と二人きりの。
秘密の約束ができて。
それから仲良くなるのに長くはかからなかった。
毎日の日課の屋上。
そこに、たまに彼女が来るようになった。
いつもはとくに会話なんてしないけれど、ある日に彼女から声をかけてきた。
「ねぇ、そろそろ名前、聞いてもいい?」
「え?まだ知らなかったの?」
「だって教えてくれないから。」
「…苺。苺だよ。」
「苺?strawberry?」
発音よく言われると、なんだかおかしくなった。
「あははっ!そうだよ、苺。ストロベリー。」
「!…笑うのね、あなた。」
「失礼だね。私だって笑うよ。」
「苺って呼んでいい?私のことは桜で構わないわ。」
「うん。わかった、桜。」
その時、突風が吹いた。
「っ!」
桜の長い髪が揺れる。
私の髪もぼさぼさになるくらいの突風。
「lovely!」
「え?」
風がやんだとたんに桜が言い出す。
タバコを捨てて私に近づいては前髪をあげた。
「どうしてこんなに前髪伸ばしてるの!もったいない!」
「どうしてって…」
私は桜の手を振り払った。
桜にはわからないよ。
桜みたいにかわいい人には。
「…特に意味なんてないよ。」
「………そう…じゃあ、切りにいこ?」
「うん。………え?」
「意味なんてないんでしょ!さ、切りに行こ!」
桜に手を引かれるまま私は屋上を後にした。
着いたのはめったに来ない美容院。
しかも、私が行ってる美容院なんかとは、値段のあとにゼロが一つくらい増えそうな高そうな美容院。
「むりむりむりむり!私お金とか持ってないし!」
「お金なら心配ないわ!さ!」
強引に中に入れられる。
細い体のわりに力はとても強かった。
「このこにカットと、~~~~~~~~」
聞きなれない言葉。
すぐに私は椅子に座らされ、きれいなお姉さんがハサミを持つ。
ああ…
すべてが終わったのか、「お疲れさまでした」と鏡を渡される。
自分じゃないみたいだった。
後ろから「lovely!」と声が聞こえる。
「やっぱりよく似合ってる!かわいい!」
前髪を切ったのはいつぶりだろう。
あれ以来切っていないな…そう思ったとき。
「よし次行こう!」
「次!?」
美容院のあとは服にメイクにと…
放課後に誰かと遊ぶなんて、いつぶりだろう。
気が付くと空は暗くなって。
お店や電灯が明るくなり始めた。
「はーー楽しかった!」
「…そうだね。楽しかったよ。こんなに笑ったの、久しぶり。」
「…………苺。明日、その格好で来てよ?」
「ええ??」
髪はゆるふわにかわいく巻かれて、メイクも濃すぎずでかわいくしてもらった。
制服も着崩して、スカートも折っている今の私。
「さすがに、無理だよ。」
「無理じゃない!苺はかわいいのに…もったいないよ。」
かわいい、。
かわいい、か。
「かわいいのは桜だよ。」
「え?」
「わかった。明日、この格好で来るよ。」
「!ほんと?約束ね!」
そのあと、私たちは駅までしゃべりながら歩いた。
意外とまだ続いちゃいます。




