人類滅亡を阻止せよ!
世界の終わりはもう既に目前まで迫っている。
そのことに気が付いたのは僕だけではないだろう。
少なくとも僕がそのことに気付くきっかけを作った不二美衛医師
と彼の所属する医師会はもうとっくにそのことに気付いていたはずだ。
◇
僕は数年前に幻聴が聞こえるという理由で精神科を受診した。
しかしそれはただの幻聴ではなく、
雑音と共にTVニュースの音声が脳内に流れ込んでくるというものだった。
僕が聞いた幻聴の内容は海外で巨大地震が発生し死者が続出しているというもので
それを聞いた数か月後に幻聴で聞いたのと全く同じニュースがテレビで流れた時は本当に驚いた。
――――――僕は幻聴によって未来を予知できるのだ。
そのことは医師に報告済みであるが、信じているかどうかは不明だった。
ある日の診察で主治医の不二美医師は僕にこんな質問をした。
「食物連鎖の中で起こる種の絶滅は何らかの外的要因が原因だとされている。
それによって今まで多くの生き物が絶滅に追いやられてきたが我々人間が今も絶滅せずに生き永らえているのは
何故だとおもう?」
「んー・・・なんでだろう?分かりません」
「公平くんもまだまだ甘いな、次回の診察までに答えを用意してくるようにね」
・・・・人間が何故絶滅しないか?なんで先生はそんなことを聞くんだろう。
そしてそれは僕が幻聴が聞こえるようになったことと何か関係あるのだろうか。
そして不二美先生に聞かれたことの答えが見いだせないまま僕は次の診察に訪れた。
「前回の診察で人間がいまだに生き永らえている理由を聞いたのは覚えてる?」
「・・・はい。」
「それで、公平くんなりの答えはでた?」
「いや、考えてみてもさっぱりでした。」
「そうか・・・じゃあ今回は特別に教えてあげよう。」
「人類が今まで種の絶滅から逃れられていたのは我々精神科医のおかげなんだ。」
「??」
訳も分からずあっけにとられている僕を横目に不二美医師は続きを語り始めた。
「種の絶滅は食物連鎖の和を乱す異端者の出現によりもたらされてきた。
そしてそれは人類の場合においても例外ではないのだ。」
「我々精神科医は人類における異端者を発見しその思想を改めさせることによって
人類が滅びることを阻止してきたのだ」
「人類における異端者とは”神の声”が聞こえる者のことを指す」
「神の声??」
公平が唖然として復唱する。
「そう。”神の声”はしばしば”幻聴”と間違われることが多いが
その特徴は今後起こるであろう出来事を予知しているということだ」
「!!!」
「それってもしかして・・・!」
「そう。公平くんが聞いた幻聴こそが”神の声”なんだ」
◇
深夜0時。
今日の診察で言われたことがあまりに衝撃的だったため
公平はなかなか眠りにつくことが出来なかった。
あのあと不二美医師は、
「ある症例によると昔”神の声”を聞いて人類滅亡を予知した患者が居たんだそうだ。」
「その患者は既に何回か予知を的中させていたから医師もそれを信じていた」
「その患者の証言によると100年後に現われるもう一人の”神の声”が聞こえる者の手によって
人類滅亡は現実のものとなるらしい」
「その記録が書かれたカルテの西暦は1915年になっている。
今は2015年だ。つまり今年がその100年後になるわけだ。」
「ここまで言えばもう分かるだろう。」
「・・・・つまり、僕がその、人類滅亡を引き起こす張本人になるってことですか・・?」
「残念だがそのようだ。」
バクバクバクバク・・・・
公平は自分の心臓の鼓動が大きくなる音が聞こえた。
「どうしよう。。。先生、僕はどうすれば・・・・・」
公平はパニックになって先生にすがりついた。
「さっきも言ったが我々は”思想を改めさせることによって人類が滅びることを阻止してきた”んだ」
不二美医師は至って冷静だった。
「さっきの症例以外にも人類滅亡を予知した患者は何人かいた。その者たちも例外なく”神の声”を聞いていて予言も当たっていたから
医師も人類滅亡の話を信じたんだ。
”神の声”によって未来が予知できる能力は瞬く間に世間に広まり、気付けばあらゆるメディアを席巻していた。」
「神の代理人と名付けられた彼らが証言台に立ちこれから起こることを予言するたびに世間はパニックに陥った。」
「だがある時彼らのうちのひとりが嘘の予言をしたことがあった。」
「当人は面白半分で嘘を言ったようだがそれを真に受けた大勢の人が狂乱して死亡する事件が発生した。」
「つまり予言者が嘘の予言をすることにより人類はパニックを起こし滅亡するとも考えられるんだ」
「当然我々精神科医は予言者たちのカウンセリングを行いそれを阻止してきた」
「これだけの騒動が起きていながら現代の人々が予言のことを知らないのは我々精神科医が口止めをしてきたからなんだ」
「とにかく君はこのことを誰かに喋ったりして広めないようにしてくれ。
もしそんなことをしたら100年前の予言は現実のものとなってしまう。」
◇
「公平くん」
「ん、、」
「不二美先生っ!!」
公平はベッドから飛び起きると
「僕、あのことは誰にも話しません。絶対に」
と言った。
すると不二美医師は解せない顔をして
「ん?あのことって?」
と答えた。
「いや、だから”神の声”が聞こえることもそれによって人類が滅亡するかもしれないことも・・・」
「公平くん・・・・・・・・・・・薬、飲み忘れてない?」
全ては統失患者の公平が入院中にした妄想なのであった。(おしまい)
まさかの妄想落ちでした。