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泥人道士スレン  作者: いっちー
第四章
8/19

矢背家を継ぐ者(2)

 暗い森が、取り囲んでいる。

 空には丸い月、大地には闇へと続く穴。

 耳障りな歌声、笑い声、叫び声、泣き声……

 また、あの夢だ。スレンは頭を抱えた。

 人々が生きたまま埋められてゆく。

 泣いても叫んでも、懇願したって、聞く耳を持つものなど誰一人としていない、地獄。

 ……だが、それは何のために?

「スレン、手伝ってよ」

 声に、顔を上げると、もう目前には恐ろしい穴は無かった。

 代わりにツェツェクが立っていた。

 側にはトーヤとドルジの姿も見える。

 三人とも、額に汗をかきながら土を掘っていた。

「そこは掘るな」

 スレンが掠れた声でいうのに、トーヤが静かに首を振った。

「『命の土』を持って返らなきゃ」

「い、のちの土……?」

「そう。スレンの身体を造らなくちゃ」

「え?」

「だって、あなた、人間じゃないんだもの」

 悲しそうに笑む彼女の、見つめる先……スレンは自身を見降ろして、ぎょっとした。

 ばらばらばら


 身体が土くれのように崩れ落ちてゆく―――


「あ、目、覚めた。大丈夫?」

 重たい瞼を持ち上げると、トーヤの心配そうな顔が飛び込んできた。

「ああ……」

 トーヤの後ろに、見慣れた天上が覗く。

 草原の民は大概、一家族に二つの家―――寝泊まりするものと、馬乳酒を入れた容器や乳製品、さまざまな道具を置くもの―――を持つが、スレンが目覚めたのは、二年前、兄を差し置いて、そろそろ嫁を、と父親に与えられた三つめの家だった。

 嫁は一向に来る気配はなく、居候の衛士と二人で寝泊まりしている。

 スレンが、ぎこちない動作で身体を起こすのを、トーヤが優しく支えた。

「……エージは」

「ここ、ここ。酒飲む?」

「いや、茶を」

 衛士が、沸かしたヤカンから茶を杯に注ぎ、持ってくる。

 スレンは、礼を述べてそれを受け取ると尋ねた。

「鬼は? 平気なのか、もう」

 ツェツェクの怪我の手当てをしていたドルジが答える。

「ええ。もう、近くに害のある陰気は感じません……あ、ツェツェクさん、まだ終わってませんよ!」

「もー大丈夫だよ。そんなきちんと塗ンなくたって」

「ダメです。顔に傷なんて残ったらどうするんですか!!」

「お嫁に行けなくなったらドルジが貰ってよ」

 それに、怒ったように顔を真っ赤にして、ドルジは素早くツェツェクの顔に軟膏を塗り込むと、

「…………終わりまし、た!」

 乱暴に薬箱を閉じた。

「火炎符が効かなかった。……奴らの属性は、土、で合ってるか」

 茶を一口すすり、スレンは尋ねた。

「うん。大勢の鬼も白い化け物もどっちも土だったね」

「……ええ。僕の土気、完全に相殺されちゃいましたから。エージさんがいなければ、どうなっていたことか」

「何、その木とか土って」

「え、ええっとですね………うーん、何て言ったらいいのかな」

 ドルジは、紙とペンを用意し、素早く五芒星を書くと、木火土金水とそれぞれの頂点に書きいれた。

「えっと、全てのものは五行に分類されてですね……。五行っていうのは世界を構成する五つの要素――木・火・土・金・水のことで、鬼も異能者も、みんなこの五行のどれか一つの属性を持っているんです。そして、それが、弱点にもなる」

「誰にでも? なら、あたしにも属性があるってこと?」

「『命の土』を見つける能力は、土の気を見分けること。だから、ツェツェクちゃんや私は土の異能者ね」

 トーヤの言葉に、ドルジは頷いた。

「僕も土から人形を造ったりしますから、土属性。スレンさんは、水属性です。もちろん、生まれながらに持っている属性は一つで、変えることは出来ませんが、きちんと修行すれば、他の属性を使ったりは出来るようになります」

 それから彼は、ペン先で土を指し示した。

「それでですね、この五行っていうのは、互いに相剋関係にあるんですよ。例えば、土の鬼には、木属性の攻撃が効く。同じように、木の鬼には、金属性、金の鬼には火属性、火の鬼には水属性、水の鬼には土属性の攻撃が効くというように」

 ポカンとしているツェツェクに、衛士が補足する。

「ドルジくんは土気で攻撃したから、同じ属性の鬼には大したダメージを与えられなかった。スレンの火炎符――言うまでもなく火気だけど、火は、土には絶対に効かない。むしろ、相生関係といって、土の鬼を元気ビンビン! ってさせちゃう訳」

「そうじょう?」

「相性の良い気もあるんです。土気に火気が与えられれば、土気は力を増します。同じように、火気に木気、木気には水気、水気には金気を与えると力を増します。これは、味方同士で行えば強力な助けとなりますが、敵の属性を誤り相生関係の気で攻撃してしまえば、たちまち劣勢に陥ってしまう」

「ふーん……何か、難しいけど、とにかく、今回襲ってきた奴らは火属性を吸収したから土属性で………それなら、弱点は……木ってこと?」

「その通りです。一撃で属性を見抜き、木気で攻撃できた衛士さんの素早い判断には脱帽でした」

 褒める口調ではあるが、衛士を見る目は険しい。

「いや、いや、それほどでも……」

 軽口を叩きながら、衛士は居心地が悪そうに身じろぎした。

 あくまで白を切ろうとする様子に、スレンは叩きつけるように問いを口にした。

「で? ……お前、何か言うことがあるんじゃないのか」

「……え、えーっと……?」

 スレンは待った。

 衛士は小首を傾げてとぼけた振りをしたが、スレンとドルジを見比べ、ガックリと肩を落とした。

「……やっぱり、話さないとまずい? よね」

「何故、そんなことができた? いや、何故、今迄異能者だということを黙っていたんだ?」

 白い化け物に切りつけた斬命魔、そして、幾多の鬼を屠った宙空へ書き込まれた調伏の符……言い逃れは不可能だった。

 修行を重ね、神々から免許を授けられていなければ出来ない芸当だったのだから。

「そうですよ。僕は、ここの集落の責任者ですからね。あなたの出身地と、階位くらいは聞いておいても良いでしょうか? 事と次第によっては、上に連絡を入れなければならないので」

「そんな大事にはしないで貰いたいんだけどなあ」

「どうします? 素直に答えますか? それとも……力づくにしますか」

 ドルジの瞳が、険呑に光る。衛士は両手を顔の前でぶんぶん振った。

「や、やだな、素直に答えますよ。隠すもんでもないし。これが、佩身牒(はいしんちょう)です」

 佩身牒(はいしんちょう)は、名前、住所、位階が書き記された仙人・道士の身分証である。道士として修行を始める時に発給され、随時修行の成果によって位階が変わる。

 ドルジは受け取った佩身牒を、上から順々に読み進めていった。

「出身は日本、矢背衛士ってゆうのは本名みたいですね。階位は……虚無超衝天位!?」

 それから、書かれている位階に素っ頓狂な声を上げた。

「凄いの?」

 ツェツェクが覗きこむが、びっしり書き込まれた異国の言葉は、どれが位階を示しているのかすら分からない。

「……凄いなんてもんじゃないですよ」

 ドルジは、震える手で佩身牒を衛士に押し戻した。

「いいですか。道士、仙人、神々は能力値に応じて三十六に区分されます。最高位は三十六位。ちなみに、二十四位・無極曇誓天位が人間の持つことの出来る最も高い位で、これは、もちろん天師様の階位です。僕らが所属する支部の大祭主は九位の赤明和陽天位。そして、エージさんの持つ虚無超衝天位は七位。つまり、彼は……僕らが所属する支部の大祭主と同じくらいの能力があるってことなんですよ!!」

「そんな大げさな」

「僕は何の通達も受けていない。何かあったらどうするつもりだったんです? 僕じゃ責任取り切れませんよ」

「別に取るような責任はないよ。俺は、まぁ、個人的にこの集落に用事があっただけだし……」

 早く話を切り上げたそうに視線を泳がせた衛士に、トーヤがズバリと言った。

「スレンくんね?」

「え? え? 何でそこで、スレンが出るの」

 ツェツェクが首を傾げる。

 ドルジは、額に手をやって溜息を吐いた。

「偶然やってきた集落が異能者の集落で、そして、偶然、そこで同じ顔の人間に出会った? ……話が出来過ぎでしょう。彼がここに来たのも、スレンさんに用があったから……ですよね?」

「……本当は、あんまり話したくなかったんだけどなあ」

 衛士は、酒瓶に口をつけようとしてやめた。

 きつく蓋を閉めると、スレンを真っすぐ見つめる。

 それから、はーっと、胸の中が空っぽになるような深いため息を吐くと、頷いた。

「うん。俺はね、ドルジくんが言うように、スレンに会いに日本から来たんだ。スレンの……お母さんにね、頼まれて」

「スレンさんのお母様は三年前に亡くなりましたよ」

「それは、彼の乳母だよ」

 スレンが首をかしげるのに、衛士は頷いた。

「君は実のところ、僕と同じ矢背の者なんだ。生まれた時の事情で、三歳の頃、乳母と共にこの集落へ来た……君は小さくて覚えていないかもしれないけれど」

「じゃぁ、スレンは日本人ってことじゃん! ……どうして、来てすぐ言わなかったのよ!?」

「知らせるか、悩んでたんだ」

「それで、俺に何の用なんだ?」

「…………覚悟がある?」

 スレンの問いに衛士は逆に質問で返した。

 いつになく口が重い。

 けれど、もしも本当に話したくない事柄ならば、きっと話題に上ったとしても、何と責められようとも、彼なら白を切りとおすだろう。

 だからこそ、スレンは聞きたいと思った。

 自分に関する大切なことだと、分かったからだ。

「スレン、やめとこうよ! 余計な杞憂の種なんて、わざわざ聞くことないじゃん!」

 先程まで興味津津だったツェツェクですら、衛士の真剣な表情に尻ごみした。

 けれど、スレンはおもむろに深く首を縱に振った。

「聞くんだね」

 ほっと溜息をもらした衛士は、どこか寂しげであり、嬉しそうだった。

「スレン!」

 ツェツェクが失望したように悲鳴を上げる。

 衛士は、淡々と語り始めた。

「……十八年前、神殿(こうどの)―――矢背家の次の長を約束された子供が生まれた。当時の矢背ってさ、十八子に対抗する代表格みたいなものだったんだよ。奴らは執拗にその子供の命を狙ってきた。矢背はその子を、成長するまで守りきらんと隠した。……それが、君」

「………俺の、この情けない能力を見てものを言ってるのか」

 スレンは、呆気に取られて衛士を見つめた。いつもの冗談かと、唇から乾いた笑いが漏れる。

 けれど、真摯な衛士の瞳に嘘は無かった。

「神殿に選ばれるほどの力だ。封印が施されてるんだよ。時が満ちるまで」

「封印? なら、それが破られれば……? そんな、都合のいいことが」

「信じる信じないは君に任せる。ただ、僕は矢背の神殿を探し出し、どうしても会わなければならなかった」

 そこで初めて衛士は視線を反らして、遠い昔を思い起こすように目を眇めた。

「……矢背は有名な異能者の家系でね、力の強い輩も多かったし、何より十八子のやることなすこと頭から怒って計画を潰しまわっていたんだよ。十八子にとっては、とにかく目の上のたんこぶだった。そして、三年前………矢背は襲撃を受けて潰された。生き残った者はたったの六人しかいなかった」

 そして、グッと力強くスレンの肩を掴んだ。

「生き残りは方々へ散って、勢力の回復を求め、動いている。俺だけが、君のもとへと遣わされた……君を、護るために」

「神殿だからか」

「そう。君は矢背の神殿に選ばれたから。内に秘めた力を持っているから。でもね、護れって言われたけれど……俺は君を日本へ連れて帰りたいと思ってるんだ。だってそうだろ? みんな、力を求めて仲間を集めてるんだ……今こそ、次期神殿を頂いて矢背家を復興する時だって、思ったんだよ」

「俺は、道士の修行もしていないし、力があるかどうかだって怪しいだろ。そんな不確定要素ばかりの奴が本当に役立つと……復興なんておおそれたことが出来ると思ってるのか?」

 衛士は、肩に乗せた手を決して離そうとはしなかった。

 スレンは言葉に詰まって視線を落とした。

「…………スレンさんは、どうしたいんですか? そんな、危険なところに行ったらただじゃ済まないって、分かるでしょう?」

 ドルジの静かな問いに、スレンの肩が揺れる。

 もし、本当に衛士の言うことが正しかったら。

 封じられている力とやらを手に入れることが出来たら。

 …………自分を求める世界がある。スレンは興奮した。

 初めて、必要だと求められたのだ。

「俺は……」

 顔を持ち上げる。深い深い同じ色の瞳を見つめる。

 答えは、一つしかない。

「俺じゃ、役に立たないだろうな」

 苦々しげに落とされた言葉に、ドルジはホッと胸をなでおろしたのだが、

「だが……行ってみたい、と、思う」

 続くスレンの、消え入りそうな言葉を聞いて、苛立たしげに声を荒げた。

「あなたは、これがどれほど危険か分かってない!!」

「いや……どちらにしろ、俺は、ここを出て行こうとは思ってたんだ」

 静かに告げられた覚悟に、ドルジは驚いて目を丸くした。

「え? ど、どうして……」

「ハッキリした理由はない。役立たずな男が、役立つ場所を求める……なんて別段変なことじゃないだろ? エージ、そっちに行って、俺は道士の修行は出来るか」

「実地で手取り足とり腰とり教えてあげる」

「それは断る。お前に教わるのは何か癪だ」

 真剣な表情で、スレンは衛士の手を払った。

「……だ、ダメですよ……ダメですよ!!」

 いつもの他愛ない応酬を、ドルジの悲痛な声が遮った。

 白くなるほど強く握った拳は小刻みに震えていた。

 彼は、乱暴な動作で顔形が同じ二人に近づくと、スレンの腕を掴んだ。

「ど、ドルジ……?」

 小柄な少年の一体何処にこんなに力があるのか、というほどに強い握力だった。

「出て行く? 出て行くですって!?」

 少年は目を剥いて吠えた。

「ふざけるな!! 出ていくことは許さない。この集落から出てゆくなんて、絶対に許さない。そんなことをしてみろ。そんなことをしたら、そんなことをしたら………っ」

 ハッと我に帰ったドルジは、打たれたようにツェツェクを振り返った。

 重い沈黙が流れる。ドルジは、力なく項垂れ、大人しくスレンの腕を解放した。

「すいません、ちょっと混乱しちゃって。スレンさんが出て行くなんて考えたこともなかったから……はは、おかしいですね、僕。………今日は、これで失礼します。おやすみなさい」

 それから、夢遊病者のようにフラフラとスレンの家を後にした。

「な、何なんだ、あいつ……」

 余りの豹変ぶりに、スレンは度肝を抜かれてしばらく動けなかった。

 じんじんと痺れる手首には、真っ赤な跡が残っている。

「あたしも、遅いから帰る」

 それまで、珍しく静かにしていたツェツェクが、ちらりと衛士に一瞥をくれると立ち上がった。それから、扉のフェルトを持ち上げて、ふ、と歩みを止めた。

「……やめようよ、スレン」

 しぼりだすように呟いてから、ツェツェクは勢いよく振り返った。両足を踏ん張り、拳を強く握りしめた彼女は必死に歯を食いしばってその場に留まる。

「役にたつかもしれないとか思ってンでしょ……ここじゃ不要な人間だけど、もしかしたら、とか、何とかさ。馬鹿じゃない? もし、今のが本当なら、利用されるだけじゃん。誰かのために生きるって、利用されることだとでも思ってンの? ってゆーか、そうゆうのって自分のために生きてから言えば? 自分の意思も希望もなくって、ただ、生きる理由ちょーだい、なーんて………人形みたいだね、あんた」

 スレンは何も言い返さなかった。

「だからこそ、こっから出てくべきなのかもしんないけどさ」

 ツェツェクは、不意に表情を緩めて微笑んだ。

「……待って、私も一緒に行く」

 立ちあがったトーヤは、名残惜しそうにスレンを見つめた。

「私も止めないよ。きっと、スレンくんのことだもの、ずっと考えてたんでしょう? ただ、前へ前へ進んだらいいと思う。でも、エージさんと行くか否かはよく考えた方がいいかな、って思うけどね…………おやすみなさい」

 挨拶と共に、寂しげに扉のフェルトをパサリと揺らして、二人の少女は室を出た。

「……利用、とはよく言ってくれたなー」

 衛士は、頭をがしがしかいた。

「だが、事実だろ?」

「うん。だから、それを分かった上で決めて頂戴」

「行くよ」

 即答に、ちょっとだけ目を見開いてから衛士はカラカラと笑った。

「それでこそ、スレン。俺は鼻が高いよ」

「茶化すな。だが、出発はいつになるか断言できない」

「分ぁかってるって。この怪異、片づけてからってことでしょ? 虚無超衝天位の名にかけて、解決してしんぜよう。任せておきなさい」

「………おやすみ」

 どん、と胸を張った衛士を軽くあしらい、さっさとスレンは寝具に横たわった。

 もそもそと毛布をかぶると、口をつぐむ。

 瞳に、ストーブの中で燃える薪の炎が揺らいだ。

 ツェツェクの言葉は真実だ。

 そして、自分の愚かさも分かっている。

 それでも、スレンの決意は変わらなかった。

 後悔はない。あのタイミングでなければ言いだせなかったのだから。

 絨毯に座り込んだ衛士は、酒をあおぐとスレンを見た。

 唇から線を引いて零れた滴を袖で拭い、ふと、スレンのそば近くへと歩み寄った。

「……よく眠れるように(まじな)ってあげようか。このままだと、きっといろいろ考えちゃって徹夜しちゃうかもしれないし……今夜くらいは、悪夢も見ずにゆっくり寝た方がいいよ」

 スレンは、何の疑いもなく目を閉じた。

「……悪いな。感謝する」

 衛士は、酒瓶の蓋をあけると指を湿らせて宙に字を書く。

「天宗真火、発降成行、書禁応化、大勅真尊、摂応道周袁替」

 よく響く声で、呪を唱える。宙空の字が、淡く輝き、きらきら煌めく光の粒が、雪のごとくスレンへと降り注ぎ、溶けて消えた。

 やがて、規則正しい寝息がたつ。

 衛士は、頬杖をついて静かにスレンを見つめた。

 表情がなくなると、全く同じ顔形であるのがよく分かる。

 すっと通った鼻筋も、口角の下がった薄い唇も、影を落とす長い睫毛も……一つ一つのパーツ全てが、衛士そのものだった。

 衛士は、スレンのベッドに乗り上げると屈みこんで首へ手を伸ばした。

「誰も近づけないんだろ? どうして俺まで信用しちゃうわけ?」

 両の手で包み込む。スレンは、ピクリともしない。

「利用されるって知ってからも、変わらずに……馬鹿だなあ」

 だが、力を入れる前に、衛士は手を放した。所在なさげな手で、毛布を肩までかけてやる。

「俺は、君を殺すよ。……その、力を得るために」

 絨毯の上に寝転がり、衛士は強く瞼を閉じた。

「…………『感謝する』、ね」

 呟きは、薪の爆ぜる音にかき消された。

お読みくださり、ありがとうございます。

毎日更新予定です。宜しくお願いします!

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