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泥人道士スレン  作者: いっちー
第九章
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矢背衛士(やなせえいじ)(2)

「終わりだ! 終わるんだ!!」

 天空から雪のように白い羽がふわりふわりと地へ降ってゆく。

 鋭い刃を持つ羽は風と共に舞い落ちながら、大地へ木々へ、生き物へと深々と凶刃を突き立てる。

 ドルジは、熱病に犯されたように昂ぶるままに叫んだ。

「僕は自由になる! 窮奇よ、何もかも、全て、命という命を刈り取ってしまえ!」

 その少年の背後に、影が凝り固まった。

 ハッと振り返ったドルジの両の手が素早く捻り上げられる。

 そして、首筋へ傘の鋭く尖った傘の先端が突き付けられた。

「うっぷ……やっぱり、これは酔うなぁ」

「エ、エージさん……どうやって」

「『どうやって』? それよりも今は、『何しに来たんだ!』じゃないの」

 言葉に、ドルジは口元だけで笑った。

「分かりきったことを尋ねるなんて無駄なこと、僕は好みません。でも、確認のために敢えて問いましょう。エージさん、僕を…………殺しに来たんですね?」

「正解」

「はは……太白窮奇と一体化した僕をどうするつもりなんですか。確かにあなたは、僕の土気を破る木気だ。けれど、圧倒的にエネルギー量の違いがある。僕には窮奇がついているんですよ? あなたの力では、僕すら壊すことは出来ない」

「立ってるだけで辛そうなのに、まだそんな意地張るの? 君は土気だ。だから、金気の妖鳥の依代に選ばれたんじゃないか」

 土と金は相生関係にある。土気は、金気を増す。

 つまり、土気は金気に吸収されていってしまうのである。

 ドルジは単なる依代として、生きられる最低限の生気を残されているに過ぎない。

 力を得るなどということは、最初から不可能なことだった。

「今の君を殺すなんて、赤ちゃんの首をひねるより簡単さ」

 ドルジは、卑屈な笑い声をたてた。

「くく……僕を殺せたとしても、振り撒かれる邪気の被害は、防げませんよ。それでも?」

「防ぐよ」

 ドルジが笑みを引っ込める。首を仰け反らせて、彼は胡乱げに言葉を吐き出した。

「あなたの、その覚悟には驚かされます。僕が死に、陰界へと引きずられる窮奇は死に物狂いで暴れるでしょう。この距離です。あなたに助かる道はありません。しかも、あなたは金気を弱点に持つ木気だ。……エージさん、あなたは必ず死ぬ。それにも関らず、真っすぐここへ来た。本当に驚きますよ。それほどまで、スレンさんが大切ですか」

「そして、君は笑うだろう。『でも、僕の目的は達成出来る』って。俺まで失えば、スレンはしょぼくれて、もう歩けない、なーんて考えてるからね。でも、それも、達成させない」

「なんですって?」

 ドルジの瞑目するのに、衛士は片目だけ瞑ってみせる。

「奇しくも、君が言ったんだよ? 『生まれながらに持っている属性は一つで、変えることは出来ないけれど、きちんと修行すれば、他の属性を使ったりは出来るようになる』ってさ」

「ま、さか……」

「ドルジくん、他人の不幸を望んで、自分が幸せになれると思う?」

 衛士は、目を閉じた。傘の切っ先が、傾く。

「次こそは、君が未来を信じられるように。僕は、君の魂に祈ろう。さよなら、ドルジくん」

「こ、んな、……こんなの」

 目を見開いたドルジは、自身の首筋に傘の先端がずぷりと食い込むのを見た。

「僕は、認めない。認めたくない! 嫌だ、嫌だ、嫌だ!! ……ツェツェクさん、ツェツェクさん、ツェツェクさ………………っ!!」

 そして、白光が、爆発した。

お読みくださり、ありがとうございます。

毎日更新予定です。

宜しくお願いします!

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