表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
泥人道士スレン  作者: いっちー
第六章
11/19

ウサミミ紳士の泥人形(1)

 日が傾き、辺りにはぼんやりと薄暗闇の膜が降り始めた。

 身体がしんしんと冷えてゆく。

 火でも起こそうかと考えてやめた。

 何だか酷く疲れて、何もしたいとは思えなかった。

 ドルジの遺骸を押し付けて、自分はこんなところでしょぼくれている。

 それが、滑稽で悲しかった。

 衛士は、ツェツェクやトーヤに何と言っただろう? 集落の者は、どれほど悲しんでいるだろう。

 …………どうして、死んだのが、自分でなかったのか。

 結局、何の役にも立てないなら、役立つ者の身代わりになった方がずっと―――

 そこまで考えてスレンは、頭を振った。

 どれも、これも、愚かな考えだった。何一つ、前には進まない。

「また、逃げられた!! ……鳥は陸をピョコピョコ走ると相場が決まっているだろうに!」

 と、背後から聞こえた声に、スレンはぎょっとして振り返った。

「あんたは……昨日の」

 忘れもしない。

 レースをあちこちに散りばめた、燕尾服。シルクハットのウサギの耳。

 そこに忽然と現れたのは奇天烈紳士だった。

 彼は怒りのままに、手にしていた傘を、ぶんぶん振り回して、地へと投げつけて足で踏みつけている。余程材質の良いもので作られているのだろう。壊れないのが不思議だ。

「ん? 自殺志願か? 少年」

 と、肩でぜいぜい息をした彼は、スレンに気づいて悠長に尋ねた。

 心に小波が立つ。

 祭壇が壊されたが故に、鬼がやってきた。そして、そのせいで、友人が死んだ。

 ……死んでしまった。

「わっ……突然、何するんだ」

 突然殴りつけたのにも関わらず、紳士は形の良い目をちょっと見開いただけで、軽々とスレンの拳を避けた。

「お前のせいで、ドルジが……!!」

「そんな、へなちょこパンチが効くかあ!」

 あっさりと、突き出した拳はいなされ、逆に捻りあげられてしまう。しばらく、もがき続けるも、びくともしない。

「野蛮な奴め。これだから、人間は嫌いなんだ……おや? その顔、最近会った気がするぞ。君は誰だ」

 スレンは、美しいその彫像のような顔を睨みつけた。

 ガラス色の瞳が何かを思い出すように焦点をぼかし揺れる。

「…………俺は」

「いや、名乗らなくていい。どーせ、覚えないから」

 紳士は肩を竦めてスレンを放り投げた。

 地に尻もちをついたスレンは、もう立ち上がりもしなかった。何もかも投げ出すように、肢体を投げて地に寝転がる。

 殺す気なら、さっさと殺せばいい、そんな叫びを全身で表して。

「お前が……お前が呼び寄せた鬼のせいで、仲間が一人死んだ」

 ぽつり、と呟かれた言葉に紳士は起用に片眉を持ち上げた。

「呼び寄せる? 鬼を? 僕が? 何だってそんな得にならないことをしなけりゃならん」

 スレンは怒って上半身を起こし、地面を殴った。

「聞きたいのは、こっちだ! 十八子!!」

 予想外の言葉だったのだろう。呆気に取られた男だったが、みるみるうちに渋面になる。

 それから、これ以上顰められないほど苦い顔をして、彼はスレンの胸倉を掴んで上下に揺さぶった。

「十八子? な、何て不愉快なことをいうガキなんだ!! いいか、この僕が、野蛮中の野蛮人に見えるのか!? よおっく、その目かっぽじって僕を見ろ! 溢れ出る、この清浄な気を!!」

 ぴょこん、とシルクハットから生えるウサギの耳が揺れた。

 ………スレンは、泣きそうな顔になった。

 余りに今の自分には、そのウサミミは目に痛かった。

 悲壮感も何もあったものではない。

 悲しくって苛立たしくって、こんな自分が嫌で、情けなくって……、渦巻く感情を辺り構わずぶちまけてしまいたいのに、相手は何処か別の次元にいる。

 混乱のせいで涙腺が緩んだ。

「おい。十八子に見えるか? 答えなさい」

 黙りこくったスレンに、男は低く尋ねた。

 麗しい顔を、頭突きと共にスレンの額にくっつけてガンを飛ばす。

 スレンは、ぐっと歯を食いしばると短く答えた。

「……見えない」

 再び地に放られた。

「よし。……ところで、自殺志願の少年、君はここで何してるんだい? まさか、本当に自殺志願?」

「……………………迎えを待ってる」

「馬鹿だなぁ。そこに馬があるだろう」

 紳士は、げらげら笑ってスレンの肩を強く叩いた。

「乗れないんだ」

 肩を震わせて告げた言葉に、一瞬、紳士はきょとんとした。

 それから、嬉しそうにニヤニヤ笑うと、顎に手をやって頷いた。

「そうかそうか。なら、僕が乗せてやろう」

お読みくださりありがとうございます!

毎日更新予定です。宜しくお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ