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君と出会ったのは、確かむせかえる様な暑い暑い夏の日だった。
小学3年生の夏休み。私はある男の子と出会った。それは、偶然なのか、はたまた必然か。
「伊織、お母さんお仕事行って来るね。ご飯は、机の上にあるからチンして食べて。」
「分かった、いってらっしゃい。あ・・お母さん、あのね今日・・・・」
「ごめん、時間間に合わないの。また、後で、話を聞くから・・・・」
バタンッ。大きな音をたて、玄関の扉は閉められた。
お母さん・・・ 私は、閉められた扉を見て一人呟いた。
母は、いつも仕事に追われ私と話す時間はわずかだった。幼いころからそうだったせいか私は、年のわりに大人びていた気がする。素直じゃなくかわいげがない子供だと思う。そんな、子供の名前が、中村伊織。そう、私である。そして、そんな私のひと夏の思い出。
物心ついた時から、私は母と二人で暮らしていた。父の存在もわからない。
幼かった私は、一度だけ父のことについて聞いたことがあった。その時、母は無言だった。
それからなんとなく聞いてはいけない様な気がして、父について触れることはなかった。
母は、いつも忙しそうで仕事から帰ってくると疲れきっていて話をする余裕すらない。
迷惑をかけないように、手を煩わせないように・・
そうしていくうちに、母に甘えられなくなり、距離ができてしまっていた。