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支度


一通りの説明を終えて、鹿島かしまゆたかは廊下に戻った。

「じゃ、さっそく来週から掛かります」

「ああ、社長には伝えているが、ここはお前一人で頑張って貰うからな」

 地下足袋を履く豊を見ながら、鹿島は彼の背中に言った。

「それからユタ、明日の夜は夜宴だそうだ。箪笥の中で一番いい服を着て来い」

「夜宴っすか? 俺もっすか?」

 驚いた顔で鹿島を見上げる。鹿島は眉を顰めて微笑して見せた。

「ここの一番偉いお方がお前もご招待したいそうだ」

 その言葉に、豊の顔が歪む。

「ビンテージもののジーンズが一番高いやつっすけど」

 それじゃ駄目ですよね、と分かりきったように鼻の頭を摩ってみせる。当然だと鹿島はにんまりした。

「裾がすり切れた色褪せたごわごわのやつだろう」

「でも四万円したんすよ」

「なければ農協の貸衣装の窓を叩いてでも何か借りて来い、フォーマルってやつだ」

「農協って……貸衣装あるんすか?」

 冗談めかして鹿島は笑った。一方、緊張する場所は苦手だとばかりに、豊は時化た顔をして明日着ていく服を思案している。

「まぁ、なければ仕方ないが、ジーパンだけは避けとけ」

「えぇえ?」

「馬子にも衣装だ」

 そういうと時計を気にして、今日はこれでお開きだと手を叩いた。

 現役の時も、現場の締めはこの拍手(かしわで)ひとつ。懐かしい響きに、豊の曇った顔が一瞬にして晴れるのが分かる。

「了解っス!」

 明るく返事をして豊は早々と軽トラックに乗り込んだ。

 現役を引退して四年。まさか自分がまたあの若者と引き合わされようとは思ってもいなかった。こうして昔過ごした仕事仲間と逢うと、驚く程気持ちが若くなれる。

 そういう出会いがあったのは、感謝せねばなるまい。鹿島は心が踊るような気持ちをくすぐったく思いながら、門をくぐる軽トラックを見送った。

 

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