茶飲み友達−3
「ところで、井上さんはお医者様で?」
まるで病院の問診みたいだなと、自分で聞いておきながら鹿島はおかしくなった。
「いいえ」
同じく井上も笑いながら颯爽と応えた。
「昔の仕事が薬剤配合師です。漢方を専門としておりました」
ふと目の前の湯のみに目線を落とす。
澄んだ緑色が静かにさざ波もたてずにそこにある。
(美味いお茶を淹れるも、調合師ならでは、か)
「闇医者、という仕事を生業とする人間もおられるでしょう。何故存在するのかと申し上げますと、必要とされているからです。それと同じ意味で、闇の薬剤調合を生業とする人間もいるのですよ」
唐突に井上は言った。その言葉の陳列とは全く別の陽気な話でもしているかのように、爽やかに。
「今時分、こういう世の中になっては、表沙汰にされる事はほとんどありませんけどもね」
「はぁ……」
「光あるところには、影もある。綺麗事だらけでは世の中は成り立ちません」
井上の言葉には穏やかながらにどこか陰りが含まれていた。
冷静で穏やかで、物怖じしないこの男の内の、まだ見ぬ顔はどういう顔なのだろう。鹿島は相づちを打ちながら考えた。
考えたところで、何がどうなるわけではないと知っていて。
「それで、その配合された【ペ】なんたらとかいうのはどんなものに効果があるんですか」
「例えば、精神障害です」
例えば、を強調して井上は目を伏せた。
「それは?」
「ああ、それ以上は申し上げれません。お茶のみ友達とはいえどもこれは当主の承諾がなければ」
手を突き出して面白そうに井上は目に笑みを浮かべた。
「それなら結構です、どうもどうも」
丁寧にお辞儀をして鹿島も笑んだ。そうして淹れられたばかりのお茶を啜り、のんびり庭を眺めた。
「それにしても、静かな朝ですな」
鹿島がため息まじりに庭を見る。
「ええ、本当に。よい朝です」
鹿島に応えて、井上も庭を見た。空は青く澄み渡っている。