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1章 はじめての学校

《第1章》

 ロロの誘拐事件が解決した翌日。俺の周辺ではまた新たな事件が発生していた。それが一体何なのかと聞かれれば話す事はとても簡単だが、どうしてそうなったのか説明しろと言われればとても困ってしまう。そういった事件だ。

 だがしかし、事件の主犯はどこかに雲隠れしている訳ではなく、俺の視線の先で、その小さな身長を少しでも大きく見せようと薄い胸を張って立っている。

「はい。それじゃあ、黒板に名前を書いて自己紹介をしなさい」

 俺の担任がそう言うと、主犯は無言でこくりと頷いてチョークを手に取った。

 そいつは、名前をなるべく高い位置に書こうとしているらしく、爪先立ちをして腕を目一杯伸ばしているが、悲しいかな、それでも黒板の半分よりちょっと上の辺りまでしかチョークは到達していなかった。それは周りから見ればとても愛らしい光景ではあるが、関わりを持っているというか、ある意味密接な関係を築いている人間からしてみれば恥ずかしい光景であった。

 と、ここまで話せば察しの良い人ではなくとも犯人が誰なのか気付いたのではないだろうか。

 チョークで名前を書き終えた犯人は、俺達の方に向き直ってその小さくて可愛らしい唇を開いて言った。

「ロロ=ドラコーンです。日本に来てまだ間がないから分からない事が多いので、皆さんに色々教えていただけると嬉しいです。これからよろしくお願いします」

 その少女はそう言って、ぺこりと礼をした。

 ここで正解を発表するとしよう。さんざん俺が『主犯』やら『犯人』と言ってきた少女とは他でもない、俺の家の居候、ロロである。

 何でだよ! 何でロロが俺の学校にいるんだそしてその上入学してんだよ!

「うむ。じゃあ、席は龍海の隣で良いな」

「(こくり)」

 担任に促されたロロは、悠然とした足取りで俺の隣の席まで歩いてくる。その姿を見たクラスの女子は「何あの子かわいい〜」や「どこから来たのかな? 」といった感想を述べ、男子は皆一様に「よし。彼女にしよう」と、なぜか意気込んでいた。

 席に着いたロロは、俺の顔を一瞬見るとすぐに前を向いた。

 こいつ。何を考えてるか分からんが、後で色々と問い詰める必要がありそうだ。

 そうしていると、教壇に立った担任が少々面倒そうに口を開いた。

「朝のホームルームを終えるぞー。速水、号令」

 指名された速水が号令をかける。

「起立。気を付け、礼」

「「ありがとうございました」」

 そうして全員が言うと、5分間の短い休憩に入る。大抵の生徒はこの時間の間に一時限目の準備をするのだが、今日に至ってはそうはならなかった。ロロに対しての質問やただ興味本位で話しかけている人間でロロの周りは埋め尽くされていた。その中心で、ロロがさくさくと質問に答えている様子が見て取れた。

 流石だな、ロロは。俺じゃ、とてもじゃないがあの人数は捌ききれない。まあ、どこかのイケメンとかなら女の子がこんな状況になってたらすかさず間に入って助けるんだろうが、生憎俺にそんな甲斐性はないしな〜。

 そう思った俺は、さっさと一時限目の準備を済ませることにした。


  ○ ○ ○


 その日の昼休み、ようやく人が集まらなくなったのを見計らって俺はロロに話しかけた。

「ロロ」

「何ですか? 」

 そう言うロロが少し疲れているように見えるのは俺の気のせいだろうか? 何はともあれ、まずはずっと気になっていた事を聞いてみよう。

「お前、何だって急にこの学校に入学なんてしたんだ? それに、なんだあの名前は」

「はい。ここに入学した事に関しては、1人で家に居て、またあのような事態に陥ってはいけないと判断した為に取った策です」

「お、おう」

 十中八九、四神が絡んでるな。

「名前に関しては、私は髪の色や瞳の色が普通の人とは異なっているので、日本人ではなく外国人を意識して考えてみたんですが」

 ロロは背中にかかるくらいの特徴的な少し長めの白髪を手で弄りながら、彼女自身を周囲から浮かせているもう1つの要因である紅い瞳で俺を見つめてそう言った。

 俺はロロを不安にさせないようにすかさずフォローを入れる。

「へ、変じゃないと思うぞ? それに即興であの名前が出てくるんなら、大した発想力と想像力してるぞ、お前は」

「そうですか? そう言ってもらえると、私はとても嬉しいです」

 ロロはそう言って微笑んだ。

 か、かわいい……。いやいや! 何を考えてるんだ俺は! 確かにロロは周りの女の子に比べたら抜群にかわいいが、ここでその感情を出してしまっては俺がもれなくロリコン認定されてしまう。それだけは避けなければならない……‼︎

「まったく。何を考えてるんだ俺は……」

「どうかしましたか? 」

 とてつもなくアホらしい事を考えていると感じた俺は額に手を当てて上を向いた。すると、それを不思議に思ったのかロロが上目遣いで見上げてくる。

「いやー。転校初日からお熱いねぇ〜、お2人さん」

 そうしていると、どこから湧いてきたのか速水が近所のおばさんのような口調で俺とロロに向けて言ってきた。

「なんだ、冷やかしか? 」

「違う違う。やけに2人共仲が良いなと思ってな。どういう関係なんだ? 知り合いとかか? 」

「ああ。まあ、知り合いっちゃあ、知り合いかな」

「はい。主従関係です」

「ぶっ! 」

「は? 主従関係? 」

 首を傾げる速水に俺は慌てて弁解する。

「ああ! まだ日本に来たばかりで日本語の意味が分かってなかったんだな⁉︎ ああ、そうかそうか。それなら後で俺が教えてあげるよ⁉︎ 」

 すると、速水はなるほど、といったように手を打った。

「あー、なんだ。そういう事だったのか」

「何だと思ってたんだ? 」

「お前がロロちゃんに夜な夜な無理矢理ご奉仕させてるのかと」

「ふざけるな! お前は俺がロリコンだと思ってたのか? 」

「ロリコンじゃないのか? 」

「断じて違う! 」

「そうですか。主はロリコンだったのですね」

「ほらロロが変な誤解を俺に抱いたじゃないか! 」

「まったく。あなた達本当にうるさいわね」

「あ、青山! 」

 気付けば青山が俺の前の席の机に偉そうに腕を組んで座っていた。今すぐ机を揺らしてやりたい。

 だが、俺に今そんな余裕はない。一刻も早く俺がロリコンではないという証言を得なければならない。

「青山! 」

「な、何よ。真剣な顔して」

「率直で良い。だが、素直に、何のおふざけも無しで俺のことどう思ってるか聞かせてくれ」

「え? え? 何? 」

「いいから早く! 」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。そんなこと急に言われても……」

 そう言って青山はなぜか頬を赤らめた。

 え? 何で頬を赤らめてるんだ?

 青山のその反応におどおどしている俺を見た速水は「やれやれ」とでも言わんばかりに両手を広げており、ロロに至っては片頬をぷっくりと膨らませて少し怒った表情を見せていた。

 え、ちょ、何? どうしたんだよ2人して。

 何か俺変なこと言ったか?

 不安になった俺は頬を赤らめて俯いている青山に言った。

「む、無理して答える必要はないぞ? 何なら無回答で良いから」

 俺が言うと、青山は口を小さく動かしてボソリと何かを言った。

「…………かった」

「え? 」

「かっこ、よかった」

「は? ちょ」

「ロロちゃんを助ける時のあなたは、とてもかっこよかった……」

 そう、青山は俯き気味ではあるものの、俺の目を見つめて言った。

 え、えぇぇえええええ⁉︎ 何この状況⁉︎ 一体何が俺の運命に作用したんだ⁉︎ ど、どどどどうしよう。俺はどうすれば良いんだ‼︎

 困惑した俺はチラッと速水の顔を見た。すると、速水は顔をキリッと引き締めて、優しく抱きしめるジェスチャーをして見せた。

 ダメだ。こいつは頼りにならない。

 ロロの方を見ると、頬の膨らみが1つ増えていた。

 どうする……。俺の選択可能なコマンドは【優しく抱きしめる】しかないと言うのか?

 はっ。そうだ。【真実を伝える】というコマンドは……、いやダメだ。これはあまりにも残酷過ぎる。クソ。こうなったら仕方ない! やってやるぞ!

 俺 は 【優しく抱きしめる】 を 使った。

 俺は席を立って青山に側まで移動する。

「青山」

「ふぇ⁉︎ な、何? 」

 顔をキリッと引き締めて、優しく、優しく、包み込むように抱きしめーー

「いやぁぁあああああ‼︎ 」

「うぶはっ⁉︎ 」

 ようとしたら、なぜかあと1歩のところで青山の拳がアゴにクリーンヒットし、何の支えも無かった俺は後ろに倒れた。その際、ゴツンと鈍い音を立ててコンクリートの床に後頭部をぶつけた俺はそのまま意識を失った。

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