5章 サーチング・プリンセス
《第5章》
「くそ! 間に、合わなかった……! 」
あの男はいつここに来たのだろうか。
ロロはいつあの男に倒されたのだろうか。
まさか、俺が3人でワイワイと呑気に騒いでいる間に?
俺が浮かれている間にもロロは苦しんでいたんじゃないのか?
俺のせいで、ロロが連れ去られたのか?
「いや。今はそんな事を考えてる場合じゃない! だが、どうすれば……」
半ば混乱した思考のままで、俺は今すべきことを考えた。
「…………。そうだ! 連絡先! 」
俺は急いでポケットから携帯電話を取り出す。
「青山の電話番号は、……あった! 」
そして、すぐさま青山に電話をかける。
頼む……! 出てくれ……!
すると、2回のコールの後、青山が電話に出た。
「もしもし。どうしたの? 」
「青山か! 今、どこにいる⁉︎ 」
「ちょ、ちょっとどうしたの? そんなに声を荒げて。今、家に帰ってる途中だけど、本当に何があったの? 」
「そうか帰り道かだが今はそんなことに構っている余裕はない! ロロが攫われた! 」
「なんですって⁉︎ やつら、もう仕掛けてきたのね。私は支部長に報告するから、あなたはそこで待ってて! 」
「分かった! 」
そして、通話が切れた。
青山はああ言っていたが、俺にも何かできることがあるはずだ。
そう考えた俺は再び『経路』を繋ごうとロロの意識を呼び出そうとしたが、ダメだった。続けて2回目に挑戦するが、やはりダメだった。3回目もダメだった。
「『経路』さえ繋がれば、あの野郎がどこにいるか分かるのにっ! チクショウ! 」
ダン! と床を殴りつけるも伝わってきたのはただの痛みだけ。この状況をどうにかする策が浮かぶはずもない。
そうしていると突然、視界が明滅するような感覚に陥った。
「く、……。血、が。タイミングの悪い」
先程まで興奮していたためすっかり忘れていたが、足の流血は一向に止まる気配を見せない。このままでは失血死すると考えた俺は近くに落ちていた少し長めのタオルを拾い、傷口に巻きつけた。
「うっ、痛ぇー。とりあえずはこれで大丈夫だろ。まあ、気休めでしかないが。それにしても遅いな、青山のやつ」
すると、携帯電話が着信音と共に振動した。青山からだ。
俺は電話に出た。
「どうした? 」
「支部長に連絡を取ってみたら、ロロさんを攫った組織は『秩序の護り手』というそうよ。話すと長くなるから、とりあえずあなたの家の前にいるタクシーに乗ってちょうだい。話はそれからよ」
「ああ」
通話を切り、玄関で靴を履いて外に出ると、そこには確かに1台の黒塗りのタクシーが止まっていた。
俺が出てきたのと同時に運転席の窓が開き、中から20代前半くらいの若い男が顔を覗かせた。
「龍海勇誠君で良いかな? 」
「ああ」
「では、早く乗ってください。事態は一刻を争います」
運転手がそう言うと、後部座席のドアが開いた。
俺が乗ると、運転手はドアが閉まるのとほぼ同時に車を急発進させた。
「飛ばします! しっかりシートベルトを締めてください! 」
「もう飛ばしてんじゃねえか! 」
そんな俺のツッコミを無視し、運転手は洗練されたハンドル捌きでタクシーを走らせる。
「うおおおお⁉︎ 」
前を走る車を追い抜き、カーブをほとんどスピードを落とさないまま曲がり、まるで自分の手足のようにハンドルを操る。
「大丈夫なのか⁉︎ 」
「もちろん! 運転には絶対の自信がありますので! それと、僕のことはどうぞ宇佐美とお呼びください」
「分かった。じゃあ、宇佐美。あとどれくらいで着きそうだ? 」
「もう着きます」
宇佐美が言うと、タクシーは急に減速を始めてタイヤがアスファルトで擦れる音と共に停止した。
「うおっと」
「着きました」
タクシーのドアが開き、俺はすぐさまタクシーから降りる。すると、そこには開けた空き地が広がっていた。しかし、俺はそこに2人の人間が立っていることに気づく。
「うん。意外と早かったね。流石は万能宇佐美君といったところかな」
「支部長。今はそんなことを話している暇はありませんよ」
四神と青山が横に並ぶようにして立っていた。俺はそれを確認すると、2人に頭を下げた。
「本当にすまなかった。俺が不甲斐ないばかりに」
「いいや。君のせいではないよ。元はと言えば、こうなるかもしれないと予測がついていたのにも関わらずにあの時間まで付き合わせた僕の責任だ」
俺が謝ると、四神が申し訳なさそうに言った。
すると、青山が俺に向かって言った。
「ちょっとあなたに聞きたいことがあるんだけど、良いかしら? 」
「ああ」
「ロロさんと『経路』を繋ぐことはできないの? 繋げれるのなら、『経路』を辿っていく形で探知することができると思うのだけど」
「確かにそうだ。だが、何回試してもダメだった。恐らく、意識を完全に失っているか、そういったものを遮断するような特殊な空間にでも閉じ込められているか。どちらにせよ、目立った情報は手に入れられてない」
「そう。それはかなり困ったわね」
「すまない。だが、ロロを攫ったやつの能力について少し気になることがある」
「気になること? 」
と、青山が首を傾げて言った。
「ああ。あいつが姿を消す直前に俺の右足に刺さってたナイフを投げたんだが、それが刺さる直前に急に消えたと思ったら、いつの間にかあいつの手にナイフが握られてたんだ」
「投げたはずのナイフが急に消えて、気付いたら相手の手に握られていた、ねえ。てことは、空間移動系の能力ってことかしら? 」
「え、それって、テレポートとかそんな感じの能力ってことか? 」
「ええ。そうなるわね」
「マジかよ」
「能力の考察も良いけど、まずはロロちゃんの居場所を探すのが先決じゃないかな? 」
「それなんだよなぁ〜」
「はい。確かにそれが1番の問題ですね」
確かに、居場所が分からないことにはあいつの能力が仮に判明したとしても意味がない。俺は頭を抱えた。
「あー、くそっ。まったく見当もつかない」
「そうかい。見当もつかないかい。なら今度は僕の出番だね」
「どうしたんですか、支部長。急にしゃしゃり出てきて」
「しゃ、しゃしゃり出るとか言わないでほしいな。まあ、『その道のプロ』ってやつに頼んでみるだけさ」
「プロ? 」
「ああ、そうだよ。ちょっと待っててくれるかな」
「分かった」
すると、四神はおもむろに携帯電話を取り出し、どこかに電話をかけ始めた。
「もしもし。僕だ。って、ちょっと⁉︎ さ、詐欺じゃない! 詐欺じゃないよ? 確かにさっき『僕だ』って言ったけど決してオレオレ詐欺とかそういう類のやつじゃないからね⁉︎ 安心して! 」
何やら四神が騒いでいるが、何かあったのだろうか。まあ、放っておこう。
「おお。信じてくれたか。良かった。今、人を探してるんだ。だけど、どうも場所が分からなくて困ってるんだ。そこで、君の力を貸して欲しくて連絡した訳だ。了承してくれるかい? …………。おお! 力を貸してくれるのか! ありがとう! 」
そして、四神は通話を切って言った。
「もう大丈夫だよ。“もうすぐ”居場所が分かる」
「もうすぐって、そんな簡単に」
すると、その数秒後。再び四神の携帯電話が着信音を立てた。
「お。きたきた」
「え、マジで? 」
「で、居場所は? うん。うん。ありがとう。済まないね、こんな遅くに電話して」
「分かった、のか? 」
パタン、と、携帯電話を閉じた四神は俺を見て言った。
「ああ。幸い、ここからあまり距離は離れていないそうだよ。場所は、ここから北東に約1kmいったところにある工場跡だそうだ」
それを聞いた俺は、思わず四神に頭を下げた。
「ありがとう! 本当にありがとう! 」
「いいや。探したのは僕じゃない。それより、居場所が分かったんだ。女の子を待たせてると、男が廃るってもんだ。早く迎えに行ってあげな」
「ああ! 」
言うなり俺は駆け出した。幸い、その場所はよく知っているので、道に迷うことはない。
「待ってろ。絶対に、俺が助け出してやるからな……! 」
ところどころに設置されている街灯や、ほのかに照らす月明かりを頼りに走る。1分でも、1秒でも早くその場所に着くために走る。
しばらくすると、一際土地が開けた場所に出た。そこには月明かりで怪しく映し出された大きな廃工場があった。
「ここだ……」
俺が敷地に1歩足を踏み入れた瞬間、廃工場からぞろぞろと7人程の人間が出てきた。
恐らく、その全員が能力者のはずだ。
「やっぱり、簡単には通してはくれないか」
だが、どうする? 『経路』が繋がっていないから能力は使えない。それに、さっき走ったせいで右足の傷が余計に広がった。それに伴って、出血も多くなった。
「まだ、まだぁ……! 」
前を見ると、先程の7人がこちらに向かって走り出していた。俺の様子を見て、さっさと終わらせられると踏んだのだろう。
「やるしかねえ!」
俺がそう意気込んだ瞬間、まるで、天空を駆ける龍のようにうねった水流が3人を飲み込んだ。水流が通った道を辿っていくと、そこには1人の少女が立っていた。
「あ、青山か? どうしてここに? 」
「どうしてじゃないわよ。能力が使えない人間を強力な能力者がいる場所においそれと送り出す程、私は馬鹿じゃないわ。ここを片付けたらすぐそっちに行くから、それまで死ぬんじゃないわよ」
「ああ。分かってる! 」
俺が駆け出すと、残りの4人が俺の前に立ち塞がろうと急いで態勢を立て直した。しかし、4人のその行動は彼らの1歩手前に丁度突き立った水製の矢によって止められた。
「あなた達の相手は私よ! 」
青山がそう言うと、そこら中から水の流れる音が響き始めた。俺はそれを背中越しに聞きながら、廃工場へと足を踏み入れた。




