11章 『静止』と『神速』
《第11章》
「龍海ー!! 」
名前を呼ぶが、返事は無い。完全に凍りついてしまったのか。
いや、まだ時間はある。体の芯まで凍らなければ助けられるはずだ! もうちょい待っててくれ、龍海。
「青山! 余波で龍海がバラバラに崩れないように守ってろ! 」
「ごめんなさい。私、今回は役に立てそうにないわ。せめて、あの力が使えれば……」
「いいって、気にすんな。たまたま能力の相性が悪かっただけだ。後はこっちでなんとかするから、青山は龍海を任せたぞ! 」
「ええ」
だが、水と氷じゃ本当に相性が悪い。どれだけ大量の水を操ったとしても、それを片っ端から凍らされるんじゃあ勝ち目がない。
ここは俺が頑張って、アイーシャの方の準備が整えば……。
そして、俺は今も目の前で不敵な笑みを浮かべているフローゼンに居合いを放つ。しかし、間合いから外れているため刀身自体は当たらない、が、それによって発生したカマイタチがフローゼンの肌を薄く斬り裂く。
「くっ……。さすがは速度制御系の能力者と言ったところかな。まさか、凍るスピードまで制御されるとは恐れ入ったよ。でも、『神速』という君の通り名から察するに、速度制御の能力と言っても“減速”は苦手なんじゃないかな? 」
「へっ。それはどうかな? 」
「強がる必要は無いさ。君の処置はただの時間稼ぎに過ぎない。じき龍海君のようになる」
チッ。俺が“減速”が苦手なのバレバレじゃねぇか。誰だよ最初に『神速』とか言ったやつは!
フローゼンは俺の沈黙を是ととったらしく、勝ち誇ったような顔をしている。まあ、あいつの考えは概ね合っているのだが。
でも、
「だからって、止まる訳にはいかねぇだろ!! 」
「さあ来い。そして、僕に君の攻撃を“見せろ”!! 」
「あら〜。龍海君、やられちゃったのかしら〜? 」
「いえ。主はまだやる気です。やる気満々です」
「そう〜? それじゃあこっちも〜、早く準備しないといけないわね〜」
「大きい花火、です」
「おっと! 危ない危ない。危うく直接斬られるところだった」
「クソ。とっとと斬られとけよ、ウザったい」
さっきから攻撃を繰り返しているが、カマイタチは当たっても刀自体の攻撃は体を捉えたとしても浅い傷で終わっている。
つまり、まだ明確な決定打は与えられていない。
それに、攻撃を避ける度にフローゼンがおちょくるような言葉を言ってくるせいで集中が乱れる。やれ「惜しい」だの、「もう少し」だのととてもうるさい。
「ハハハ! 自慢のスピードも、この状況では存分に発揮する事はできないようだねぇ! 」
フローゼンの言う通り、少しずつだが、俺の体は凍りつつある。足の指の感覚がほとんど無くなっているのがその証拠だろう。限界が近いって事か……。
俺は、それを悟られないように無理矢理足を動かす。時折空回りしそうになるが、気合いで堪える。
フローゼンは余裕の表情で俺に言った。
「頑張れ頑張れ! もう少しで届くぞ! 」
「この野郎……! 逃げるな面倒くさい! 」
「逃げる? 違うよ。僕は君にこれ以上苦しい思いをしてほしくないだけさ」
「言ってろ。そのうち痛い目見るぜ? 」
「そうかい? だったら見せてくれ」
どこまでもなめやがって。だったら望みどおり見せてやるよ!!
俺は、攻撃方法をそれまで行っていた居合いから、今できる最高速度での突きに切り替えた。
フローゼンが何の反応もしないところを見ると、幸い、まだ俺の攻撃は“見えていない”らしい。だったら、好都合だ。このまま突っ切る!!
俺の放った突きは、狙い通り、フローゼンの腹をやすやすと貫いた。
「ご、はあっ……!! 」
「終わりだ。フローゼン」
腹を貫かれたフローゼンは、大量の血を吐くと動かなくなった。気絶か、ショック死か。だが、この際どちらでも良い。とりあえずは、これでやつの能力も解除されて龍海も元に戻るはずだ。
そして、俺は刀をフローゼンの体から抜く。
が、
抜け、ない……!?
「フフ……。フフハハハハ! 捉えたぞ? 『神速』」
「バカな!! 」
まさか、自分の体に刺さった刀を、傷口ごと凍らせたのか!!
「倒したと思っただろ? だが違う。僕は、この時を待っていたのさ。君が完全に油断するであろうこの時を!! さあ、体の芯から凍れ!! 『神速』!!! 」




