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10章 静止する銀世界

《第10章》

「ハハハハハ!! 」

 刀の切っ先を向けられたフローゼンは怯えるでも、緊張した様子を見せるでもなく、ただ楽しげに笑った。

「極東支部の『神速』。ウロボロスの次に君と戦えるなんて、僕は幸せ者だよ。さあ、頑張って僕の『連鎖凍結チェインフリーズ』の防御を破ってみせてくれ! 」

「そうかい? んじゃ遠慮なく」

 速水はそう言って、構えていた刀を鞘に収めた。

 何をする気だ……?

 フローゼンも俺と同じ疑問を抱いているらしく、眉を寄せて訝しむような表情を見せている。だが、それ以上何もしない速水に痺れを切らしてか苛立ちを含めた声で言った。

「どうしたんだい? あそこまで言って僕におじけずいたのかい? 」

「は? 何言ってんだお前。そいつはちょっと鈍過ぎねぇか? 」

「何を言ってーー」

 その時、信じられない事が起こった。

 突如、フローゼンの胸のあたりが裂け、盛大に出血した。さながら、刀にでも斬られたかのように。

 ここで俺は気付いた。速水がフローゼンの防御をかいくぐるために行っている攻撃方法、それはーー

「高速の、居合い……!」

「大当たりだぜ龍海。だが、高速の前に超が3つぐらい付くけどな」

 フローゼンは言った。能力の発動条件は『相手の攻撃の予備動作を視認する事』だと。だが、それは視認できて初めて成立するのであって、予備動作を視認できなければやつはただ無防備に立っているだけの的になる!!

「ば、かなっ……!! 」

「どうした? まだ終わってないぞ? 」

 速水が言うと、今度はフローゼンの右肩が裂けた。

「うぐ、あぁぁああ!! 」

 思わず肩を押さえてうずくまるフローゼンに速水は容赦なく言った。

「おいおいどうした。お前の力はそんなもんか? 」

「くっ、調子にのるな! 」

 吐き捨てるように言い、刀の間合いから逃れるように後ろへ跳んだフローゼンは、懐から黒い拳銃を取り出した。

「ハハッ! 間合いから出てしまえばこっちが有利だ!! 」

「そうかな? 」

 と、速水がニヤリと笑ったのが気に入らなかったのか、フローゼンは3連続で引き金を引く。それに対して速水は微動だにしない。防御する素振りすら見せない。

 が、銃弾は速水に命中する事なく、ただ金属と金属とが触れ合う小気味良い音が響いた。

 それを見たフローゼンは表情を驚きの色に染めるが、それだけで終わりではなかった。速水が銃弾を防いだ際に発生した不可視の刃がフローゼンを襲う。

「これはっ!!? 」

「真空の刃だ。ま、俗に言うカマイタチだな。直接刀で斬るよりか若干威力は下がるが、当たると痛いぜ? 」

 フローゼンは、そこで初めて怯えた表情を見せた。自分が絶対の信頼を置いていた技がいとも簡単に破られたからだろう。

 速水は完全に怯えた様子のフローゼンに言う。

「そういう事だ。お前は俺の攻撃を防げない。だから、もう諦めろ」

「あき、らめろ、だと……? 」

「ああ。こんなところで死にたくはないだろ? 」

「ふざ、けるな……」

 うつむいて、ゆらゆらと体を揺らして立ち上がるフローゼン。だが、

「様子がおかしい。気をつけろ速水!! 」

「ん? 」

「ふざけるなぁ! このまま……、このまま退く訳にはいかないんだああぁぁあああ!! 」

 叫ぶ。直後、異変が起きた。

 フローゼンを中心にして、地面が一瞬で凍りついた。それも数m、数10mの話じゃない。それ以上の範囲が、一瞬で銀世界に変わった。

「ふふ、フフフハハハハハハハハ!! どうだ。これが僕の奥の手、『静止する銀世界スタンディング・ザ・シルバーワールド』だ!!! 」

「まずい!! 」

 体が凍りつく速度が劇的に速くなる。

 そして、俺の意識は途絶えた。


 ☆ ☆ ☆


 ちょうどその頃、別働隊の迎撃に向かっていた速水乃愛はやみのあは別働隊と相対していた。

 別働隊の数、およそ120。そしてその全てが能力者である。その数を前にしてもなお、乃愛は恐れない。

 すると、乃愛の前方から迫る集団の中から声が上がった。

「おい、小さな子供がいるぞ。それも女の子だ」

「どうしてここに……? 」

「そんな事は良い。それより早くあの子をここから逃がさないといけないんじゃないか? 」

 1人が言ったのを皮切りに皆がくちぐちに話し始める。本来ならこんな事は統率の取れた集団においてあってはならないのだが、乃愛が自分達の迎撃を任された『猟犬ハウンド』である事を知らない彼らにとって、これは予想だにしていなかった非常事態なのだ。

(うぅ……。こんなとき、どうすれば良いのかな……? )

 そんな彼らに乃愛も困惑しているが、その時。集団の先頭あたりにいる、リーダーらしき人物が一際大きな声を上げた。

「お前達! こんな事で統制を欠くんじゃない!! 」

 その一喝でざわめきが瞬く間に収まった。そして、男は続いて乃愛に向かって言った。

「そこの娘。我々の迎撃を任されたのは貴様だろう? 極東支部の『猟犬』」

 その一言で、乃愛は動いた。

 能力を使用し、気配を完全に遮断する。

「消えた!? 」

「どこに行った! 」

 別働隊の隊員は乃愛の姿を探すが、見つからない。

 動く。

「うぐああああああ!! 」

 集団の中から1人の絶叫が周囲に木霊した。

「ぎゃああああああ!! 」

 また1人。

 そうして、乃愛はまるで狩りをする『猟犬』のように獲物を1匹1匹確実に仕留めていく。



「なるほど。なかなかやりますね」

 結界内のあるビルの屋上で、その男は繰り広げられる戦いを眺めていた。

「新入りさんの力を見れなかったのは残念ですが、友介君と乃愛嬢の成長した姿を見れて少し安心しました。支部長に『念のため』と言われて来ましたが、この分だと私が介入するまでもないでしょうね。ですが、念のため見ておきましょうか」

『朱雀』と呼ばれているその男はただ戦場を眺める。

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