9章 連鎖凍結
《第9章》
俺の言葉と共に、フローゼンの周りにいた40人余りの人間が一斉に押し寄せる。
俺は、自分の準備が整った事を確認して速水と青山の顔をそれぞれ見る。2人共、準備完了の意思表示として頷いた。
「行くぞ!! 」
「ああ!! 」
「任せて!! 」
そう言って、俺と速水は左右に分かれて駆け出した。そして、取り囲まれないように左右から迫る敵の撃破を始める。
「うおおおおお! 」
敵集団に突っ込んだ俺は雄叫びと同時に、強化した拳をまず手近にいた金髪の不良っぽい少年に叩き込む。
「があッ!! 」
少年は食らった勢いで、後方にいた仲間を数人なぎ倒しながら吹き飛んだ。その様子に周囲の人間は唖然としていた。俺は敵集団に向けて嘲るように言った。
「アンタら、ちょいとばかし俺の力を見くびってたようだな。俺の力はまだまだこんなもんじゃないぞ? ケガしたくない奴はとっとと帰れ」
「クッ。なめるな!! 」
俺の言葉に1人が反応し、それに呼応するように次々とそれぞれの異能力や武器で襲い掛かって来る。
こっちはだいたい20人くらいか。
俺は脚力を強化して一時的に移動速度を高めて攻撃を避け、1人、また1人と接近しては殴り飛ばしていく。
こりゃ、ちょっと期待外れだな……。
この行動がパターン化かして作業になっていると思った俺は、だんだんと集中力が落ちてきているのを感じた。その時、また1人に拳を叩き込み、俺の体勢が崩れたのを好機と思ったのか、俺の首を狙うようにして1本の剣が振られた。
マズイッ!! 再生能力があるっつっても、流石に首を落とされたらどうなるか分かったもんじゃねえ!!
「もらったぁ!! 」
俺は慌てて体勢を立て直そうとするが、剣の方が少し速い。俺は自分の首が落ちるのを覚悟した。
しかし。
「ぐあッ!!? 」
盛大な悲鳴と着弾音と共に剣を持った男が横に弾かれるように飛んでいくのを見て、俺は何が起こったか理解した。
アイーシャの狙撃だ。恐らく彼女はどこかでガッツポーズでも取っているだろう。
「なんだ!? 」
「何が起こった!! 」
まだ立っているやつらは何が起こったか分からずに混乱を露わにしている。俺はアイーシャの援護を受けながら残りの敵を片付けた。
「ふう。速水と青山はどうなったかな? 」
速水が戦っているであろう方向を見ると、速水は一振りの刀を手に、まったく視認できない速度で斬撃を繰り出している。刀を振る速度があまりにも速いため、軌跡が不可視の刃となって直接の斬撃から逃れた者を残らず刻んでいく。
すげえ。て言うか、速水も能力持ちだったのか。
青山は水で形成した矢でフローゼンの周りにいる数人を射り、フローゼンに狙いを定めている。が、当のフローゼンは自分家の仲間が倒されたにも関わらず、獰猛な笑みを浮かべ、青山の狙いに対してもノーガードだ。むしろ射ってみろとでも言いたげに両腕を広げて急所をさらけ出している。
なんだ? あのフローゼンの余裕は。何か策があるのか……?
フローゼンの様子を見た青山が、ぎりと奥歯を噛み締めているのが分かった。
青山はさらに弓を引き絞る。そして、弓が限界までしなったところで矢を放った。放たれた矢は大気を切り裂きながら真っ直ぐ進み、フローゼンの心臓を的確に捉えて貫く。はずだった。
「そんなーー」
どうして!? と青山が今起こった現象に驚愕すると、フローゼンは獰猛な笑みのまま、“自分の体に触れる直前に凍りついて崩壊した矢の破片”を手に持ち、言った。
「青山美春だったかな? 君の能力は、僕のとは相性が悪すぎる。君は僕には勝てないよ」
フローゼンは青山の後ろ、その遥か向こうを見るようにして言う。
「アイーシャ=ハリソン。君がいるのも分かっている。そこで待っている事だね。さっさとこいつらを片付けて、そっちに行ってあげるからさ」
フローゼンは優しい口調で言ったが、そこに深い憎しみが込められているのは明白だった。俺はフローゼンに問いかけた。
「なあフローゼン。どうしてお前はそこまでアイーシャを狙うんだ? お前がそこまでする理由は何だ? 」
「ふん。君には関係の無い事だ。僕はアイーシャ=ハリソンに用がある。そこを退いてくれないかな? 」
「そいつは、無理だな」
「そうか。ならばまず君から潰す」
「やれるもんなら」
言って、フローゼンの元へ駆け出し、一瞬で懐に潜り込む。対するフローゼンは予想外の状況に目を見開いていた。
いけるっ!!
俺は絶対の確信を持ってフローゼンの鳩尾に拳を突き刺す。
「ぐっ!! 」
「もらったあ!! 」
そして、フローゼンの鳩尾に突き刺さる直前、俺の拳が、いや、俺の右腕が丸ごと凍りついた。
「これはっ!? 」
「ふふ。あーははははははは!! 君、もしかして人の話をちゃんと聞かないタイプだったりする? さっきしっかりと君らに僕の能力を見せてあげたばかりじゃないか! それなのになんの注意も無く殴り掛かってくるなんて、君はバカだなぁ!! 」
「くっ」
フローゼンは右腕が動かせなくなった俺をここぞとばかりに嘲笑する。しかし、これは俺の不注意で起きた事なので、言い返す事もできない。だが、ここで俺はフローゼンの能力の恐ろしさを知る事になる。
俺の体が、右腕に近い部位から順に凍りついていった。
「気付いたようだね。僕の『連鎖凍結』の恐ろしさに」
現在進行形で俺を嘲笑っているフローゼンの顔面に今度は腕力をさらに強化し、速度を上げた左拳を打ち込む。だが、それも右腕同様、左腕が肩まで瞬時に凍らされた。
「無駄無駄。いくら殴るスピードを速くしたところで、君の攻撃の挙動を視認できれば、『連鎖凍結』は発動する!でも、使い方は防御だけじゃない。攻撃にも使えるんだよね」
そう言って、フローゼンは地面に手を着く。すると、フローゼンが触れた場所から徐々に地面が凍っていき、俺の両足を凍らせた。足を動かそうとするが、ダメだ。
「動けないよね? でも君は殺さない。今は君を止められればそれで良い。そこでゆっくりと凍りつきながら見てることだな」
「ちくしょう!! 」
「ハハッ。良い気味だ。自分は何もできず、仲間がただ死んでいく様にぜつーー」
フローゼンの言葉は続かなかった。たった今、俺とフローゼンの間を裂いた不可視の刃に斬られたように。
「速水!? 」
「龍海。選手交代だ」
肩を逆刃で軽く叩きながら、速水は俺の前へと歩いて来る。そして、俺の眼前で止まった速水はフローゼンに刀の切っ先を向けて言う。
「フローゼン、だったな。覚悟しろ。お前は俺が斬る」




