7章 来客。開戦準備
《第7章》
「やあ。悪いね。急に呼び出したりして」
俺達の姿を見ると、四神は特に悪いと思ってなさそうに言った。その様子に俺は心の中でやれやれと肩をすくめた。
すると、青山が1歩前に出て言った。
「それで支部長。緊急事態と言うのは」
「うん。まあ、とりあえずこれを読んでみてくれ」
四神はそう言うと、封筒のような物を取り出した。青山はそれを受け取りに行き、こちらに戻って開封した。中には当然の如く手紙が入っており、丁寧に三つ折りにしてあるそれを青山は無遠慮に開く。
【これは警告である。速やかにアイーシャ=ハリソンを我々に引き渡せ。さもなくば、我々は実力による略取を行う】
そこにはそう、丁重な折り目とは対照的な物騒な文字列が並んでいた。
「あからさまな脅迫状、だな……」
「そうね……。あ、そうだ、支部長」
「何かな? 美春ちゃん」
四神の応答に一瞬動きが止まった青山だが、すぐに持ち直して続ける。
「……この手紙、一体どこの組織から送られた物なんですか? 」
「そうだね〜。僕にも分からない」
「分からないん、ですか? 」
分からんのかい。それくらい把握しとけよ。
「うん。だからさーー」
四神はそう言うと、不意に視線を俺の方に向けて、正しくは、“俺の背後を見るように”言った。
「そこにいる人に聞いてみれば良いんじゃないかな? 」
俺はその視線につられるようにして後ろを振り返る。
「なっ!? 」
そこには、白を基調とし、襟元に黒のラインが入ったスーツにこれまた白のスラックスといったホストのような格好の金髪の青年が、まるで初めからそこにいたかのように整然と立っていた。
俺以外の3人もその青年の存在に気付き、一様に距離を取る。俺はあえて距離を取らず、体を後ろに向けて青年に言う。
「お前、誰だ? 」
「君は、彼女達みたいに僕から距離は取らないのかい? 一応君は僕の間合いに入ってるんだけど」
「そうかよ。で、お前はどこの誰だ? 」
「ふぅ」
青年はそうして小さく息を吐くと、突然、スーツの胸元に手を入れてすぐにそこから引き抜く。ニヤリと笑みを浮かべる青年の手には黒い拳銃が握られていた。
ウソだろ!!?
とっさの判断だった。俺に狙いを定めるその腕を、俺は青年が引き金を引く前に腕を掴み、無理矢理銃口を逸らせる。直後、パン!! と言う発砲音が部屋に響き、壁に着弾した。
あ、危ねー!! 行動が少しでも遅れてたら死んでたぞ!!
奇襲を回避された青年は、驚いたように目を丸くしていた。
「ふぅん。なかなか良い反応だ。流石『オリジナル』が認めただけある」
「そりゃどうも。で、まだ続けるのか? 」
「いいや。今日はあくまでも警告しに来ただけなんだ。戦う気は無い。ましてや、君とまともに殺りあったら僕はひとたまりもないだろうからね」
青年はそう言ってわざとらしく両手を挙げる。
イラっと来る仕草だったが、俺は青年の言葉を思い出して踏み止まった。
ここは一旦抑えよう。ここで戦うのは俺自身気が進まない。
青年は俺の横を通り、四神の前まで歩いて行く。そして、四神の目の前まで来たところで一礼をして言った。
「どうも初めまして。『秩序の護り手』のメンバー、アラン=フローゼンです。『セイヴァー』の四神麟正』
「やっぱり君らの仕業か。それで、今回は一体何をしてくれるつもりなんだい? 」
「まあ、簡単な提案と警告ですよ。まず、提案から。そちらにいるアイーシャ=ハリソンを我々に差し出せば、我々は今後一切あなた方に手出しはしない。次に警告を。もし、この提案が承諾されないと報告を受けた、もしくは我々がそう判断した場合、我々はただちに実力行使に移ります。あなたは聡明な人間だ。1人と組織、どちらが重要かなんて天秤に掛けなくても分かると僕は思っていますよ」
「…………」
フローゼンの言葉を、四神は顔を俯けて聞いていた。その姿は、四神がアイーシャと組織を天秤に掛けて思慮しているように見えた。
おいおい。まさか、そんな事はねぇよな……?
アイーシャの方を見る。
だが、アイーシャは自分の命が四神の言葉1つで決まるというこの状況下で、妙に落ち着いていた。
普通なら、正気を失わないにしても、あんなに落ち着いてなんていられない筈なのに……。
「では、良い答えを待ってますよ」
「待った」
フローゼンが背を向けると、四神はそう言ってフローゼンを制した。
「おや。もう答えが出たんですか? もう少し考えても良いんですよ? 」
「いいや。考える必要は無い。答えなんて初めから出てる」
「そうですか! では早速答えを聞きましょう! 」
意気揚々と言うフローゼンに、四神は顔を上げて毅然とした態度で告げた。
「彼女は引き渡さない。彼女は、僕の大事な仲間だからね」
「分かっていますよね。その言葉が意味する事が何かを」
「ああもちろん。来るなら来い。その代わり、ただでは帰れないと思え」
「…………ッ!! 」
自分を、この部屋全体の空気がまるごと何か別の気体に入れ替わったと思った。
四神はその一瞬だけ普段の陽気な大人から、今まで数々の戦いを勝ち残ってきた戦士へと雰囲気をガラリと変えた。
一瞬だけ見せた、大抵の人間なら睨まれるだけで腰を抜かしそうなその眼光と正面から立ち会えば思わず息が詰まりそうになる程のプレッシャーに、真正面にいるフローゼンはともかく、その後方にいる俺までもが緊張して体が動かなくなっていた。背中と袖から小刻みに震える感触が伝わってくる。袖と言うか、腕にはロロが抱きついており、と、背中は誰だ? ちらっと後ろを見ると、青山が俺の服をつまんでいた。
「おっとすまない。怖がらせてしまったね。でもまあ、そういう事だ。フローゼン君だったかな? ちゃっちゃと帰って『あいつ』に報告すると良い。僕達が準備を終える前にね」
フローゼンはギリと奥歯を噛み締めて言う。
「分かりました。では、そのように報告しておきましょう」
「よろしく頼むよ」
言うなりフローゼンはこの場から突然姿を消した。能力を使う素振りを見せなかったという事は、転移結晶でも使ったのだろう。
フローゼンがいなくなった事で緊張が解けたのか、ロロと青山は深く息を吐いた。そんな中でアイーシャだけは、あくびをしながら伸びをしている四神の元へ歩いて行く。そして、アイーシャは執務机の前で止まると、両手で机を思い切り叩いた。あまりに大きな音に、伸びをしていた四神は驚いて椅子から転げ落ちそうになる。しかし、アイーシャはそれに構わず言った。
「どうしてですか? 」
「ん? 何がだい? 」
「どうして私を差し出さなかったんですか……? 私を差し出せば、戦いは起こらなかったのに……! 」
「ああ、その事ね。簡単な事だよ。フローゼン君はあの場ではああ言ってたけど、それが本当だと言える確証は無いからね。それに、あのまま君を引き渡した場合、彼らと何か問題が生じた時に君を盾に取られかねない。そうなると、僕はとても困る」
「なぜです? そうなった場合、すでに私はこの組織とは関係無い筈です! 」
飛びかかりそうな勢いで迫るアイーシャに、四神は当然だと言わんばかりの態度で言った。
「たとえそうだとしても、君が僕の部下であり仲間だったという過去は消えない。だから、もしそうなったとしたら、僕はきっと、僕の大事な仲間を助けに行くだろう」
その言葉を聞いたアイーシャの肩が徐々に揺れ始めるのが見て取れた。そして、数秒後には微かにすすり泣く声も聞こえてきた。
四神は、そんなアイーシャの頭にポンと優しく手を置き、数回なでると、四神は言った。
「美春ちゃん。念のため、猟犬君達にも連絡を入れておいてくれ」
「は、はい! 」
「ロロちゃんに龍海君。君達が迎撃の要だ。頼んだよ」
「おう! 」
「頼まれました」
「アイーシャちゃん。君は、前線の龍海君と美春ちゃんの援護を頼む。君の大事な仲間を、しっかり助けるんだ」
「はい。分かりました〜! 」
ここにいる全員の応答を聞いた四神は、まるで買ってもらったゲームの包装を開ける子供のようにワクワクとした表情を浮かべて言った。
「それじゃあ、始めようか」




