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6章 緊急事態

《第6章》

 目覚まし時計と言うものは、我々に朝が来た事を知らせてくれる、現代人にとってとても重宝する機械であり同時に大切な相棒でもある。だがしかし、そんな目覚まし時計も良い恩恵ばかりでなく、時には良くない事ももたらす。そしてその良くない事の代表的な例はこういった状況の事を言うのだろう。


 うるさい。お願いだぁ、もう少しだけ寝かせてくれよぉ……。

 俺は、目覚まし時計のけたたましい電子音を少しでも遮断できるように布団の中に潜り込んで耳を塞ぐ。が、流石我らのロロさんが選んできた目覚まし時計だけあってそれぐらいでは聞こえてくる音を軽減する事はできない。

 ほんとうるせぇ。どういう仕組みしてんだよ……。

 こうしていると、そんなにうるさいなら止めれば? と言う声が聞こえてきそうなものだが、話はそんなに簡単ではないのだ。もとより、止められるのならとうに止めている。では何故止めないのか。それは目覚まし時計が部屋のどこに設置してあるか分からないから止めたくても止められないのだ。

 はぁ……。俺には起きるという選択肢しか残されていないのか。

 観念した俺は、芋虫のように布団からもぞもぞと這い出た。すると、目を開けずに這い出たのがいけなかったのか、ゴツンという音を立てて俺は頭から床に落下してしまった。そのおかげと言っては何だが、頭が覚醒してしまったので俺はふらふらとした足取りで部屋を出た。

 1階に下りてリビングに入ると、ロロが目を期待に輝かせながら、アイーシャが「おはよう〜」と挨拶をして俺を出迎えた。俺は2人に軽く挨拶をして朝食の準備を始める。

 そういや、青山と待ち合わせの時間を決めてなかったな。ここは連絡しといた方が良いか? いや、でもまだ朝の7時だし、まだ寝てる可能性もあるよなぁ。朝飯食ってからまた考えるか。

 そう考えた俺は、トースターの横にある棚から食パンを3枚出してまずは何も付けずにトースターにセットする。

 龍海家は食パンは2回焼きを採用しており、その方法はまず何も付けずに少し焼いて、1度出してバターなりチーズなりを乗せてもう1度、今度はこんがりと焦げないように注意しながら焼くというものだ。何故2回焼くのかは俺には分からない。

 俺は頃合いを見計らって食パンをトースターから出してその上に小さく切ったバターを乗せて、再びトースターにセットする。そして、アイーシャと一緒にソファに座ってテレビを見ているロロに飲み物を準備するように指示を出し、食パンの番をする。

「主」

「ん? 」

「飲み物は何が良いですか? 」

「牛乳で頼む」

「分かりました」

 ロロは次にアイーシャの隣に行って同じ質問をする。

「飲み物は何が良いですか? 」

「ロロちゃんが良いな〜」

「嫌です」

 アイーシャはロロに露骨に嫌な表情をされて少しショックを受けたようだが、笑って誤魔化して「紅茶はある〜? 」と、ロロに言った。

「はい。粉末とティーバッグどちらが良いですか? 」

「じゃあ〜ロロちゃんで。ってちょっと〜、そんなに嫌そうな顔しないの〜。それじゃあ、バッグでお願いね〜」

「はい」

 ロロは短く返事をすると、キッチンに来てヤカンに水を入れ、お湯を作り始めた。

 と、そろそろかな。

 そう思い、皿を用意してこんがりと香ばしく焼けた食パンを取り出す。

 よし。バッチリだ。流石俺だな!

 そしてそれらをテーブルへ持って行き、冷蔵庫からカップのヨーグルトを3つ出して、同数のスプーンと一緒にテーブルに置く。俺はヤカンの様子を見ているロロに言った。

「ロロ。そっちはまだ掛かりそうか? 」

「はい。あともう少しだと思うのですが……」

「そうか。お前は何が飲みたいんだ? 」

「コーヒー牛乳ですが、自分でやるので主達は先に食べててください」

「コーヒー牛乳ね」

 俺はロロが何か言う前に冷蔵庫からボトルの加糖コーヒーと牛乳を出して、ロロの好きな4:6の割合でコップに注いだ。

「あ、ありがとうございます」

「こんくらい気にすんなって。それに、全部お前にやらせる訳にはいかないしな」

 そう言って、コーヒー牛乳をテーブルに持って行く。すると、コップを置いたところでアイーシャが俺に向かって両手を突き出して俺の顔をじーっと何かを期待しているような目で見てきた。

「何だよそんなキョンシーみたいに両腕伸ばして。俺を襲う気か? 」

「それも悪くないけど〜。はい」

 悪くないのか。今度から気をつけないとな。

「いや。はいって何だよ。何して欲しいんだよ」

「立たせて〜」

「は? 」

 何言ってんの? といった表情をして言うと、アイーシャが唇を突き出して珍しく拗ねたような顔(普段とのギャップでちょっと可愛い)をして、渋々ソファから立ち上がった。

 俺がイスに座ると、ロロがティーカップをテーブルに持って来て、俺の隣に座った。アイーシャは俺の向かいに座って、ロロの持って来た紅茶を自分の元に引き寄せた。全員が座ったのを確認して、俺は食パンにかじりついた。

 幸いにも食パンはまだあまり冷めておらず、温かいままでサックリとした食感がまだ生きていた。俺はそれを5分程で完食すると、携帯電話を取り出して青山にメールを送った。

【結局、今日って何時に集合なんだ? 】

 よし。あとは返事が来るのを待つだけだな。

 携帯電話をポケットに入れて、椅子から立ち上がる。

「主。どこへ行くのですか? 」

「歯を磨きに行くだけだ」

 言って、俺は洗面所へ向かった。

 俺が歯を磨いていると、ポケットに入れていた携帯電話が軽快な着信音を鳴らし始めた。一旦行為を中断して携帯電話を開いてみると、着信元の欄に【美春ちゃん】と表示されていた。これは青山からの着信だ。

 メールでも良かったんだけどな。

 しかし、そんな事を思っても仕方がないので俺はとりあえず電話に出た。

「おう。どうした? 」

『龍海。あなた、今どこにいるの? 』

「今自分の家にいるが」

『緊急事態よ。一刻も早く集合場所の駅前まで来て! 』

「え? あ、わかーー」

 分かったと言おうとしたところで通話が一方的に切られた。普段からは考えられない青山の焦りようからただ事ではない事態が発生していると俺でも容易に分かった。

 そこから1分程で残りの行程を終わらせた俺はロロとアイーシャに先程の話を伝えた後、ダッシュで階段を駆け上がって自室に入り服を着替えて再びダッシュで1階に下りた。

「準備できたか? 」

「バッチリです」

「もちろん〜」

「よし。そんじゃ、行くぞ! 」

 ロロとアイーシャを先に出し、俺は家の戸締まりをきっちり確認してから2人の後を追いかける。

 幸い、家から1番近い駅までは走って5分くらいなので、すぐに到着した。そこにはすでに青山が待っており、俺とロロとアイーシャの3人の姿を見るなりこちらに走って来て言った。

「待ってたわ。早く行くわよ」

「行くって、どこに? 」

「極東支部に決まってるでしょ? とりあえずここじゃ色々とマズイから人気の少ない場所に行くわよ」

 早口気味に言った青山は俺の手を取って駅の横手に生い茂っている茂みの中へとグイグイ引っ張って行った。

「ちょ、おい! どうするつもりだ⁉︎ 極東支部に行くんじゃなかったのか⁉︎ 」

「だから、今から行くの」

「は? 」

 俺と同様に、後ろから茂みをかき分けて来たロロも同じ反応をしていたが、アイーシャは青山が今から何をするか分かっているらしく落ち着いている。青山は黒のシックなポーチから手のひら大の小さな結晶のような物を取り出した。

「なんだそれ? 」

 俺が聞くと、青山は特に表情を変えずにさらりと言った。

「世界中のどこからでも瞬時に指定した場所に移動できる、特別なアイテムよ。最も、私のような平にはこんな状況じゃないと使用許可が下りないんだけどね」

「すごいな……」

 何というレアアイテム。これを使えば世界中のどこからでも女風呂に直行できるという訳だな。

 俺の考えている事を知らない青山は結晶を掲げて言う。

「初めての人は移動後に頭痛がすると思うけど、その内慣れるから心配しなくても良いわ。それじゃあ、行くわよ! 指定、セイヴァー極東支部。人数、4。使用者、青山美春。転送開始! 」

 一瞬、世界全体が歪んだような感覚に襲われた。が、そのすぐ後には俺はいかにも厳格な雰囲気を漂わせる、言わば社長室のような部屋に立っていた。そして、その部屋の中央。そこには立派な執務机が置かれており、さらに見慣れた人物が机越しに俺達を出迎えた。

「やあ。待っていたよ」

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