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コーヒーとチョコクッキー(1)

1.コーヒーとチョコクッキー


本物の恋って、つまりどんなもの?


 昨日十八歳になった私は、高校入学と共に現れた疑問を、今日も律儀に自問自答する。自問自答なんて言ったって、答えが出ていないから自問が続いているわけで。私は自答が訪れる日を首を長くして毎日待っている。

 友達の佳奈は、出会った瞬間わかるものだって言っていた。目が合うと、胸がきゅってなって、息苦しくなるんだって。そんなのしんどいだけじゃないと言ったら、佳奈はちょっと呆れたみたいに笑ってた。優子さんは、そんなもの無いって、いつものように冷静に答えてくれた。優子さんは、さん付けしてるけど、私と佳奈と同い年。だいたい、この三人でいつもいる。優子さんはなんだかとっても大人びているから、私も佳奈も優子さんって呼ぶ。それが一番しっくりくる。なんでそう思うの、って聞いたら、人間は、欲張りな生き物だから、と優子さんは言った。優子さんの言葉は、いつも少し難しい。それにとても最小限だ。私なんかにはとても理解することができない。たぶん、優子さんのほうも誰かにわかってもらうつもりはないのだろうから、それでいいのだ。

正直にそういうと、優子さんは、そのうち分かるよ、と笑った。優子さんは私たちの前でしか笑わない。佳奈はいつでも笑ってるけど、時々さびしそうに笑う。

 

 十八歳と二日目。放課後になって、私たちは一緒に教室を出た。今日は帰りに、二人がケーキをおごってくれるらしい。

「咲子、なにケーキが好きだっけ」

「ガトーショコラかなー。生クリーム無理だから」

「あ、なんか咲子っぽい。ゆーこさんは?」

「チーズケーキ」

「優子さんチーズ好きだもんね」

他愛ないおしゃべり。そんな些細なことに幸せを感じられる、人間って生き物は案外単純なんだなと思う。いつも通りの顔ぶれ、いつも通りの会話。佳奈のかかとが潰れた上履き。優子さんのさらさら流れる綺麗な黒髪。私を安心させるもの。

 ケーキの話は意外と盛り上がり、どこそこのケーキ屋がおいしいと佳奈が語っている間に私たちはげた箱へとたどりついた。

「そういえばさ、前に咲子が話してたこと」

佳奈が自分の靴箱からローファーを取り出しながら、唐突に言った。

「なに?」

「ほら、本物の恋うんぬん」

「ああ、あれ」

私たちはそろって、学校指定のローファーを履いて校庭へと進む。この高校は校庭をつっきらないと門にはたどり着けない。校庭では、陸上部が大会に向けて走り込みをしていた。風を切って走る姿は、男の子も女の子もカッコよくてちょっと憧れるけど、あの足がむき出しのショートパンツはちょっと勘弁だな、といつも思う。

「その話をさ、夢子にしたら『咲子ちゃんって意外とリアリストなんだね』って言ってた」

夢子は佳奈の一つ下の妹。佳奈の家には何度か遊びに行っているので、私も優子さんも夢子ちゃんとは知り合い。四人で遊びに行ったこともある。

「意外って、ロマンチストだとでも思ってたの?」

「そうなんじゃない? 咲子ってなんだかふわふわしてて、浮世離れしてるし」

佳奈が楽しそうにころころわらう。優子さんが、たしかに、と相槌を打つ。

「そんなことないんだけどなぁ」

浮世離れしている、とはよく言われる。そういわれるのはあまり好きじゃない。

「わかってるよ、私たちは」

優子さんがそう言ってくれて、沈んだ気持ちがゆっくり浮かんでくる。私はいつだって、現実的だ。私の世界にいつだって忠実。みんなだってそうなはずなのに、私のことを特別そう言うのは、なんだかちょっと不公平だといつも思う。

そんなことを考えている最中、ふと思った。本当の恋の相手なら、私のことをわかってくれるのだろうか、私の世界を、理解してくれるのだろうか。


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