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SSS-S

欺く快楽

作者: あーや

とある知能犯が、人知れず消えるまで。

小さい頃から、満足できたことがない。


勉強が大好きだった。できることが嬉しかった。友達と遊ぶのも楽しかったけど、それよりも、みんなが分からないことを自分が解き明かすのが何よりの楽しみだった。

でも、どんなにテストで100点を取っても、みんなに褒められても、満たされることはなかった。まだまだ足りない、もっとやりたい。

どんどん難しい問題を解くようになった。特に長い長い数式を解いたときは初めて達成感というある種の満たされる感覚を持った。でもそれも一瞬。もっともっとすごい問題を解きたい。

その頃には友達なんていなくなっていたけれど、全然気にしていなかった。


中学校に進学して、学校はますますつまらなくなった。授業の問題なんて、一瞬で解けてしまったから。当然、満足なんてできなかった。

地方で1番だっていう難関校を受験したときだって、試験問題がすぐに解けてしまったから、残りの時間は寝ていたもの。高校なんてこんなものかって、失望すらした。


高校に進学して、欲しいものができた。パソコンだ。家にもあったけど、自分のパソコンが欲しかった。それもうんと高性能なやつ。前に、家のパソコンで、見よう見まねで色々やっていたら、ちょっと面白かったから。

そのために、お金が必要だった。アルバイトをしなきゃいけないんだけど、人を相手にはしたくなかった。絶対面白くないだろうって思っていた。


始めたのは家のパソコンでできる事務の仕事。作業は夜遅く、親が寝てからやっていた。親に見られそうになったら閉じてたし、勉強って言っておけば誤魔化せた。

本当は主婦向けの内職だったんだけど、書類だけで通るやつを選んだら簡単に受かった。結構収入もいいから長くやったけど、結局最後までバレなかった。向こうからしたら仕事やってくれたら誰でもいいんだろう。人を騙すのは簡単なんだなって思った。


それが、ちょっと楽しいなって思った。

今まで、国語とかはいっぱい答えがあるからあんまり好きじゃなかったんだけど、よく考えたら、答えがひとつに決まっちゃってるのもそれはそれでつまらない。人間は何を考えているか分からないから、もっと自分も考えなきゃいけない。その分、自分の思ったように動かせたら、それってすごく快感だ。


パソコンが買えてからはもっと色んなことをした。分からないことは大体は自分で何とかできたけど、どうしても分からなければ調べればすぐに分かった。

できないことはないんじゃないかって思ったけど、パソコンに限界があることも、人間の頭脳はそれをきっと超えていけるってことも、どこかで分かってた。


試してみたかった。頭脳がどれだけ人間に通用するのか。その限界はあるのか、無いのか。

頭脳の限界が来たとき、初めて満足できるんじゃないか。


決断してからは早かった。食べるのも寝るのも忘れて1日中パソコンに向かってた。プログラムを組んで、ウイルスも作って。時には自力でハッキングだって。

そして、実行した。メールを自動送信してウイルスを撒くところから始まって、そのサーバーからもっと深いところまで侵入して。面白いように情報が舞い込んでくる。それを欲しそうなところに売って、ついでにそこにも侵入しておいた。


楽しい。

みんなが騙されている。

みんなが意のままに動いている。

そして、みんな、何をされたのか、本当のところは分かっていない。だから誰も見破れない。ましてや辿り着くことなんてできない。

警察だって政府だって、丸裸にできちゃうんだって自信を持ってた。実際、どっかの交番のパソコンから警視庁のデータを覗こうとした。


だから、その翌日、部屋の窓から人が乗り込んできたときは、本当にびっくりした。気が付かれたって、早いなって。


「やっと見つけたぜ。何だお前、1人か?」


若い男の声だった。忘れもしない。


「僕」が消えることになった日だ。






「いらっしゃいませ、今日はどのようにしましょう?」

「髪を染めたいんですよねー、金髪に。短くもしたいなー」

「へぇー、イメチェンですか?」

「そうだねー、ちょっと心機一転してみようかなってさー」

最後に与えられた1日に、彼は数年ぶりの美容院に行った。

「生まれ変わる」ために。

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